第7話:真っ当な冒険(後編)
【sideカズマ】
ティガレックs……もとい初心者殺しと遭遇し、あわや絶対絶命かと思われた俺達だったが……俺の機転によってどうにか逃げきることができた。
「おい、何だよさっきのあれは!カズマ、何しやがったんだよっ!ぶははははっ!」
テイラーが背中をバシバシ叩いてくるが、その乱暴な痛みが心地いい。
俺は上機嫌でテイラーの鎧を叩き返す。
「何ってそりゃお前、俺の伝家の宝刀クリエイトアースとウインドブレスの目潰しコンボに決まってるじゃねーか。俺は冒険者だぞ、スキルポイント高くて初級魔法ぐらいしか取れねえ!わははははっ!!」
「こんな冒険者が居てたまるかよっ! うひゃひゃひゃっ! は、腹いてえっ!生きてるよ、俺達初心者殺しに出会って生きてるよっ!」
「有り得ないよー!この人有り得ないよ、色々とー!一体どんな知力してんのさ!ねえカズマ、冒険者カードちょっと見せてよ!」
俺は言われるままに、リーンにカードを差し出した。
「あ……、あれっ?知力は平均よりちょっと高いくらいだね。他のステータスも……、って、高っ!?この人幸運、超高いっ!!」
「ほう、どれどれ-うおっ、なんじゃこりゃ!?」
「お、おい、今回こんなに都合良くクエストが上手くいったのは、カズマの幸運のおかげじゃねえか? おい、お前ら拝んどけ拝んどけ!ご利益があるかもしれねーぞ?」
それは無い。断言できる。
本当に運がいいなら、そもそもパーティメンバーにあんな曰く付き物件共が集まってくるはずがないしな。
「まあ何はともあれこれで一件落着だな!初心者殺しの脅威まで退けたんだ、もう怖いものなんて何もねーよ!」
……何か嫌な予感しかしないんだが。
「おいやめろキース。そんなフラグになりそうな台詞を口に出すなよ」
「?フラグ……ってなんだよカズマ?」
「そういう台詞を言うとその直後にだな、とんでもなく恐ろしいモンスターが出てきたりするんだよこれが」
「おいおい冗談きついぜ。ここは駆け出しの街だぜ?初心者殺しでも大概だってのに、そんなヤバイ奴がそうホイホイと-」
グォォォォォオオオオオオオオ!!!
「「「「………」」」」
キースの台詞は言い切る前に耳をつんざく唸り声に遮られた。俺達は声のした方、上空への恐る恐る目をやると、初心者殺しが可愛く見える化け物がそこにいた。
爬虫類のような頭、蝙蝠のような形状の大きな翼、猛禽類のような鋭い爪のついた脚、人体など簡単に噛み千切れるであろう牙、そして何より恐ろしいのはその大きさ。
どうみてもドラゴンです、本当にありがとうございました。
「わ、わわわワイバーン……!」
軽く現実逃避しかけたが、聞こえてきたテイラーの震え声で正気に戻る。
ワイバーン……ゲーマーたる俺は勿論。どのゲームでもドラゴンの劣化版みたいな扱いに甘んじてる可哀想なモンスターだ。
が、劣化版とは言えこいつも立派なドラゴンであることに変わりはなく、まず間違っても序盤に出てくることはあり得ない。
「に、逃げなきゃ……」
「どうやってこんな奴から逃げ切れって言うんだよ!?……おしまいだ、俺達全員おしまいだあひゃひゃひゃひゃ……」
血の気の引いた顔で腰を抜かすリーンや精神崩壊したキースの反応からも、この状況がいかに絶望的かを物語っていた。
くっ、かくなる上はもう一度俺の目潰しコンボで……って届くかこんなもん!マズい、本当に打つ手無-ってこっち来たあああああ!?
俺達目掛けて急降下してくるワイバーン。逃げようにも俺含めて全員震えて動けないし、仮に動けたとしても逃げきれる訳がねぇ!
「「「「もうだめだーー!!!」」」」
まさに絶対絶命……四人仲良くエリス様の下へ直行確定と思われたその時、
「死ね」
突如現れた金髪の騎士が、ワイバーンを一刀のもとに斬り伏せた。
「「「「…………え?」」」」
九死に一生を得た俺達だが、あまりに唐突な展開に二の句を継げないでいた。
身長は多分190近くとかなりの長身。全方位にハリネズミのように鋭く逆立った金色の髪に青色の鋭い瞳。顔立ちはケチの付けようも無いほど整っているが、どういうわけか不機嫌そうに眉間に皺が寄っている。おそらくは《クルセイダー》だろうが防具はライトアーマーとやや軽装で、左手には銀色に輝く頑強そうな盾を、右手には身の丈ほどの巨大な剣を携えている。
さっきワイバーンを瞬殺したことといい、駆け出し冒険者の俺でもわかる……こいつ、みんちゃすに匹敵する化け物だ。
その騎士は俺達の方には目もくれず、明後日の方向へと歩きだした。
「あ、あの!」
リーンに呼び止められると、その騎士は不機嫌そうな顔のままこちらに振り向く。
「あ”ぁ?なんか用かよてめえ」
が、ガラ悪っ!?『THE・騎士』みたいな格好してんのになんだよそのドスの効いた声!?
「あの、えっと……助けてくれてありがとうございました」
「はぁ?テメェらなんぞ助けたつもりはねぇよ。……どういう訳かこの近辺でワイバーンがウロチョロしてやがんだ、おとなしく街に引き込もって震えてろ三下」
口も悪っ!?マジで騎士らしさの欠片もねーよこの人!
「な、なんだとこのや……っ!?」
三下呼ばわりされいきり立つキースだったが、騎士の放った殺気に気圧されて閉口する。
「……ハッ、やっぱ雑魚じゃねぇか。俺は忙しいんだ、余計な手間取らせんじゃねぇ」
嘲るように鼻で笑いながらそう吐き捨てると、その騎士はもうこちらを見向きもせず移動する。
「あれが……ベルセルグ最大戦力にして国王直属の七人の騎士『ロイヤルナイツ』の一角、ダスティネス・フォード・サリナス」
騎士が去り、ふとテイラーがそんなことを呟いた。ロイヤルなんたらが何かは知らないが、名実ともにとんでもなく強い奴ってのはわかった。
「またの名を……『塵滅』のサリナス」
その後街へ帰る途中で何故かまたボロボロのみんちゃすと合流し(本人曰く、ワイバーンを何体か狩った後とあるバカ野郎と大喧嘩したそうだが……まさかな……) 、冒険者ギルドの前についた頃には既に日が暮れていた。
「つ、着いたあああああっ!今日はなんか、大冒険した気分だよ!」
確かにな。ゴブリンを狩るだけのお手軽なクエストの筈が、初心者殺しだのワイバーンだのと遭遇した挙げ句、(外見と強さだけは)物語の英雄みたいな奴とも鉢合わせるといった、イベント盛りだくさんの一日になるとは……。
……でもまぁ、普段あいつらが引き起こすどうしようもないハプニングと違って、こういうハプニングならそう悪くはないな。
俺達は笑いながらギルドのドアを開け…………
「ぐずっ……ふぐっ……ひぐう……っ。あっ……、ガ、ガズマあああっ……みんぢゃずうううっ……」
……俺はそっとドアを閉めた。なんかギャン泣きしてる青い髪の女がいたような気がするが、きっと気のせいだろう。気のせいであってくれ頼むから。
「おいっ!気持ちは心底よーく分かるが、ドアを閉めないでくれよっ!」
閉められたドアを開け、半泣きで食って掛かってきたのは今朝俺に絡んできたあの男。
名をダストとか言った、アクア達のパーティの新しいリーダーさんだ。
ダストは背中にめぐみんを背負い、アクアは白目をむいて気絶したダクネスを背負って泣いていた。なんというか、まあ……普段俺がいるポジションにダストがいるだけの、至極日常的な光景だ。
「……何があったかは大体分かるから聞かなくて良いよな?」
「良くねえよ!?聞いてくれよ頼むから!街を出てすぐ、まず各自どんなスキルが使えるのかを聞いたんだ。で、爆裂魔法が使えるって言うもんだから、そりゃすげーって褒めたんだよ。そしたら、我が力を見せてやろうとか言い出してよ、全魔力を込めた爆裂魔法とやらを、いきなり何も無い草原で意味も無くぶっ放して……」
そりゃそうだろ。爆裂魔法を誉めたりすれば、このロリッ娘は増長してバカなことをやるに決まってるだろうが。
「おいチンピラ、紅茶」
「はいただ今!……それでだな、初心者殺しだよっ!爆発の轟音を聞きつけたのか初心者殺しが来たんだが、肝心の魔法使いはぶっ倒れてるわ、逃げようって言ってんのに何故かクルセイダーは鎧も着てないくせに突っ込んでいったんだよ!」
そりゃそうだろ。強そうなモンスターが現れたら、この変態騎士は興奮してバカなことをするに決まってるだろうが。
「それで、挙句の果てにアークプリーストの姉ちゃんが……」
そりゃそうだろ。この駄女神はバカなことをするに決まってるだろうが。
「おい皆、初心者殺しの報告はこいつ等がしてくれたみたいだし、まずはのんびり飯でも食おうぜ。新しいパーティ結成に乾杯しよう!」
「「「おおおおおっ!!」」」
これ以上聞く必要ないと判断した俺の言葉に、テイラーとキース、リーンの三人が喜びの声を上げる。
「待ってくれ!謝るから!土下座でも何でもするから、俺を元のパーティに帰してくれぇっ!」
「茶葉使いすぎなんだよ、テメーは紅茶も満足に淹れられねーのか!」
「熱ぅぅぁあああああっ!?」
また頭から紅茶をぶっかけられているダストに、俺は心底同情すると。
「これから、新しいパーティで頑張ってくれ。あ、みんちゃすはこっちで引き取るから」
「俺が悪かったからっ!!今朝の事は謝るから許してくださいっ!!」
……まあ、本気でパーティー変更できるとは思ってないけどな。少なくとも、やたらと身内に甘いみんちゃすが、アイツらを切り捨てる訳ないだろうし。
【sideサリナス】
「痛っ……あんのクソチビが……!」
先ほどの戦闘で受けた火傷と凍傷の手当てをしながら、その原因となった不愉快なガキの顔を思い出して毒づく。
今日は厄日かなんかか?あの愚図の妹がまだ懲りずに冒険者なんぞやってると風の噂で聞いたんで、この俺直々に引導を渡しに言ってやろうとこの雑魚の掃き溜めに来たってのに、ワイバーンの群れに遭遇するわクソムカつくチビガキと鉢合わせるわ……。
「今日のところは引き返すしかねぇな……クソが」
こんな情けねぇザマをあの愚図に見せるなんざ、俺のプライドが許せねぇ……!
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