第14話:首無し騎士③
【sideカズマ】
また
「オイみんちゃす、どういうことだよ」
「どうもこうもねーよ。俺はつい先日、魔王軍幹部の偵察クエストを達成したんだぞ?……ここまで言えばわかるよな?」
……つまりこいつは、ここ最近俺達が標的にしていた廃城にデュラハンが住んでいることを知っていたということになる。にもかかわらず俺達の爆裂散歩を一切止めようとしなかったのは……こいつはさっきめぐみんが言い張ってように、デュラハンをこの街まで引っ張り出すつもりだったらしい。
…………。
「いやおかしいだろ!何のためにそんなことしたんだよ!?」
「偵察の結果、俺一人ではこいつを倒しきれねーって結論が出てな。……だがアクアレベルの超優秀なアークプリーストがいるなら話は別だ。しかしアクアのレベルじゃ魔王軍幹部の討伐クエストなんてレベル制限で許可されないだろうから、こうして戦っても問題ないよう街まで
そう言って俺に邪悪に微笑みを向けてくるみんちゃす。
……いや外道過ぎね!?魔王軍よりも遥かに極悪非道だよこいつ!デュラハンも怒りを通り越してドン引きしてるよ!
「まあそんな訳でアクア、さくっとブチのめして高額報酬をゲットしようじゃねーか!」
「まっかせなさい!超優秀なアークプリーストであるこの私が、きっちりと浄化してやるわ!」
みんちゃすにまで頼られたアクアは有頂天になり、デュラハンに片手を突き出す。
それを見たデュラハンは気を取り直して、興味深そうに自分の首をアクアに向かって前に出す。これがデュラハンなりの、マジマジと見る行為になるのだろう。
「ほう、これはこれは……アークプリーストか。俺は仮にも魔王軍の幹部。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、不本意ながらアークプリースト対策は完璧なのだが……そうだな、ここは一つ紅魔族のバカ共を苦しませてやろうかっ!」
デュラハンは再び脇で頭を抱え、アクアが魔法を唱えようとするよりも速く、両手の人差し指をめぐみんとみんちゃすへ突き出した!
そしてデュラハンはすかさず叫ぶ。
「汝らに死の宣告を!お前らは一週間後に死ぬだろう!!」
するとデュラハンの人差し指からそれぞれ邪悪な光が発射された。
「『エア・ウォー!」
みんちゃすは空中へと浮かび悠々と回避し、めぐみんはダクネスに襟首を掴まれ、そのままダクネスの後ろに隠された。
「なっ!?ダ、ダクネス!」
結果、ダクネスに死の宣告が直撃した。
ダクネスの身体が、ほんのりと一瞬だけ黒光る。
くそっ、やられた、死の宣告か!
「ダクネス、大丈夫か!?痛い所とかは無いか?」
俺が慌てて聞くも、ダクネスは自分の両手を確認するかの様にワキワキと何度か握り、
「……ふむ、何とも無いのだが」
平気そうに言ってのけた。
だがデュラハンは確かに、一週間後に死ぬと叫んだ。呪いを掛けられたダクネスをアクアがぺたぺたと触る中、デュラハンは勝ち誇った様に宣言する。
「その呪いは今は何とも無い。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者には、むしろこちらの方が応えそうだな。……よいか、紅魔族共よ。このままではそのクルセイダーは一週間後に死ぬ。ククッ……お前らの大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え苦しむ事となるのだ……」
「……『パワード』、『マジックゲイン』」
「そう、貴様らの行いのせいでな!これより一週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言う事を聞いておけば-」
「火焔竜演舞!」
「ぐあああああ熱ちちちちちっ!?」
みんちゃすの繰り出したバカデカい業火が、勝ち誇っていたデュラハンにぶち当たった。その威力に思わず馬から転げ落ち、熱さで地面を転げ回るデュラハンを、みんちゃすは発光した両の眼で見下ろす。
「テメーこっちがおとなしくしてりゃつけ上がりやがって火焔竜演舞。俺の大事な仲間に手を出してただで済むと思ってんの火焔竜演舞。ついでに『死の宣告』なんて使うような卑怯者が騎士を自称するのも虫酸が走るんだよ火焔竜演舞。テメーみてーな極悪非道のクソ野郎には、この俺が直々に正義の鉄槌を下してやるわ火焔竜演舞ッ!」
「うぎゃ!?ぎゃはっ!?おぐおっ!?熱ぅぅうあああっ!?」
デュラハンを罵倒しながらも合間合間に火焔竜演舞を連発して、ひたすらデュラハンを痛めつけるみんちゃす。
……いやいやいや、極悪非道とか正義の鉄槌とか言ってるけど、元はと言えば全部お前とめぐみんのせいだからな!?
「いい加減にしろおおおおおっ!……ハァッ……ハァッ……話は最後まで聞け。そのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば-」
「な、なんて事だ……!」
デュラハンの台詞を遮りつつ、ダクネスが二人の間に割り込んできた。
「つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け……呪いを解いて欲しくば、俺の言う事を聞けと……つまりはそう言う事なのか!?」
「……ファッ!?」
「……はあ」
みんちゃすは疲れたような溜め息と共に片手で顔を覆って呆れ、ダクネスが何を言っているのか分からなかったデュラハンが素で返した。
俺も呆れたいし、何を言ってるのか理解ができない。……したくもない。
「くっ……!呪いぐらいではこの私は屈しはしない……!屈しはしないが……っ!ど、どうしようカズマ!?」
はいカズマです。
「見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言う事を聞けと、凄まじいハードコアプレイを要求するする、変質者の目だっ!」
その発言を耳にしたみんちゃすが何やら思いついたのか、再び邪悪そうに笑いながら悪ノリする。
「なっ、なんだってー!?……クッ、あのド畜生め、自分で騎士とか名乗っていながらなんて下劣極まりねー奴なんだ!?きっとアイツはこれまでも『死の宣告』を悪用して、何人もの女性を食い散らかしてきたんだろうぜ!とんでもねー腐れ外道だな、見損なったぜ!」
ふと後ろを向いてみると、みんちゃすの言葉を聞いた女性冒険者達が、手で体を隠しながらデュラハンを白い目で睨んでいた。
大衆の前で突然、変質者だの腐れ外道だの好き放題呼ばわりされ、鬼畜ド変態のレッテルを貼られた可哀想なデュラハンが、ぽつりと言った。
「……えっ」
……気の毒に。こんな
「……ッ……この私の体は好きに出来ても、心まで自由に出来るとは思うなよ!城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる聖騎士とかっ……!ああ、どうしよう!?どうしようカズマっ!」
はいはいカズマです。
「予想外に燃えるシチュエーションだ!行きたくはない……行きたくは無いが仕方がない!ギリギリまで抵抗してみるから、邪魔はしないでくれ!……では、行って来りゅううう!」
「ええっ!?」
「止めろ、行くな!デュラハンの人が困ってるだろ!」
ノコノコと敵に着いて行こうとするダクネスを羽交い締めにして引き止めていると、デュラハンがほっとしている姿が見えた。
「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ!そしてそこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来る事が出来たなら、その呪いを解いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデットナイト達がひしめいている。以前そこの赤碧の魔闘士が乗り込んできたときよりも、兵力は強化されている。果たして俺の所まで辿り着けるかな? クククククッ、クハハハハハハッ!」
デュラハンはそう宣言すると哄笑をしながら再び首の無い馬に乗り、そのまま城へと去って行-
「逃がすか!火焔竜演舞!」
「ぎゃああぁあぁぁあああっ!?」
こうとしたデュラハンの背中に、みんちゃすが再び業火を叩きこんだ。捨て台詞を吐いた手前留まるのを嫌がったのか、そのまま退散しようとするデュラハンに、さらにみんちゃすが可能な限り追撃を繰り返し続けた。
……あれ?どっちが魔王軍だっけ?
あまりと言えばあんまりな展開に、集められた冒険者達は呆然と立ち尽くしていた。
「チッ、仕留め切れなかったか……おいそこのギルド職員!難関クエストのレベル制限は特別な事情次第で解除される。仲間が死の宣告にかけられたって場合は、特別な事情に該当するよなぁっ!?」
「……え?ひぃっ!?……はい……」
そんな中、みんちゃすが凄い形相でギルドの職員にそんなことを確認した。ギルド職員は呆気に取られながらも、みんちゃすの魔王軍幹部にも劣らない殺気に臆して頷いた。
「よし、言質は取った。行くぞめぐみん!」
そう言って肩を怒らせ街の外へ向かうみんちゃすに、めぐみんも青い顔でわなわなと震えながらも、杖を握り直して続く。
「おいどこ行く気だお前ら。何しようってんだよ」
俺が二人のマントを引っ張ると、こちらを振り向きもせずに言ってきた。
「聞くまでもねーだろ。あの人を舐め腐ったド変態似非騎士腐れ外道ゾンビ野郎に、落とし前をつけさせにいくんだよ」
「ほとんど濡れ衣じゃねーかその罵倒。あとお前、言ってること完全にヤクザだからな?」
「……今回の事は私の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法ぶち込んで、ダクネスの呪いを解かせてきます」
めぐみんも、言ってることは物騒だがみんちゃすも……こいつら、意外と仲間想いなんだな。
……と言うか、
「俺も行くに決まってるだろうが。俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だってことやみんちゃすの陰謀にも気づかなかったんだからな」
俺の言葉にしばらく渋い表情を浮かべていためぐみんは、やがて諦めた様に肩を落とした。
「……じゃあ、一諸に行きますか。でも城にはアンデットナイトがひしめいているらしいですよ?カズマのスキルや装備では……」
「道中の敵なんざ俺がまとめて片付けてやる。あのド変態似非騎士腐れ外道ゾンビ野郎と対峙したらカズマ、オメーはその高い幸運を使って鎧だの剣だのを剥ぎ取ってやれ。あとは俺が可能な限り痛め付けてからめぐみん、オメーが爆裂魔法でトドメを刺せ」
みんちゃすのしっかりと具体性のある作戦に希望が持てたのか、めぐみんが明るい顔を見せてきた。……俺じゃなくてこいつがリーダーの方がパーティーも上手く回るんじゃないか?それからその長いアダ名、定着させる気か?
……まあそれはともかく、俺達はダクネスの方を振り返ると、
「おいダクネス!呪いは絶対に何とかしてやるからな!だから、安心-」
「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」
ダクネスを元気付けようと俺が声を掛ける最中、それを遮るようにアクアの唱えた魔法で、ダクネスの体が淡く光った。
そしてどことなく残念そうな、しょんぼりとしたのダクネスとは対照的に、アクアが嬉々として言ってきた。
「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!どう、どう?私だって、たまにはプリーストっぽいでしょう?」
「「「……えっ」」」
……盛り上がっていた俺達のやる気を返せ。
「なあみんちゃす」
「……あー?」
俺やめぐみんと同じく脱力していたみんちゃすに、ダクネスがおもむろに声をかけた。
「さっきは私のために怒ってくれてありがとう。そして私を大事は仲間だと言ってくれて、私はとても嬉しかったぞ」
「………チッ!」
苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちしてから、みんちゃすはダクネスへと向き直る。
「オメーは俺の大事なライバルを、身を呈して守ってくれたからな。いくら性癖が残念とは言え、ああいうことはそうそうできることじゃねーよ。少し……あくまでほんの少しだけだが……」
そこまで言うとみんちゃすは踵を返し、街へと歩きながら話を締めくくった。
「……オメーを仲間として、騎士として認めてやる」
そう言って嬉しそうに顔を綻ばせるダクネスには目も暮れず、みんちゃすは街へと戻っていった。……何あれ?ツンデレ?みんちゃすの奴!ドSやバトルジャンキーだけじゃなく、あんな属性まで抱え込んでるの?
「なあめぐみん。ふと思ったんだが、みんちゃすってダクネスと接するときだけ、なんか妙にトゲトゲしいよな?」
「まあ仕方がないでしょう。ダクネスはみんちゃすの母にして、世界最強の剣士である『白騎士』と、顔立ちから格好まで非常によく似ていますから。自分の母親であり目標にしている人とよく似た人物が、剣が当たらないだの性癖が残念だの醜態を晒しまくっていたら、そりゃあ苛立ちの一つや二つ感じるでしょう」
めぐみんにそう聞かされ、俺はなるほどと納得する。俺だって自分の母親によく似た人が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます