第13話:首無し騎士②

【sideカズマ】


「しかし国の首都から腕利きの冒険者や騎士達がここに来るまで、まともな仕事が出来ないとはなぁ……」

「そうですねぇ……となると、クエストの無い間はしばらく私に付きあって貰う事になりそうですが」

俺はめぐみんと共に、街の外へと出ていた。

魔王の幹部の出現により弱いモンスターは怯えて身を隠しているので、現在街の近くには危険なモンスターはいない。

俺はクエストが請けられなくて爆裂魔法が撃てず、悶々としているめぐみんに付き合い散歩していた。こいつは一日に一度、必ず爆裂魔法を放つことを日課にしているらしい。

はた迷惑この上無い日課だな……ひょっとして俺はこれから毎日、来月までずっとこれに付き合わされるのだろうか?

一人で行けと突き放したら、帰りは誰がおぶって連れ帰ってくれるんですかと開き直られた。ちなみに今日は偵察クエストがあるから見送ったが、明日からはみんちゃすにも付き合わせるらしい。

「もうその辺でいいだろ。適当に魔法撃って帰ろうぜ」

街からちょっと出た所で、俺はめぐみんに魔法を放つ様に促したが、めぐみんは気まずそうに首を振る。

「駄目なのです。街から離れた所じゃないと、また守衛さんに叱られます」

「今お前、またって言ったな。音がうるさいとか迷惑だって怒られたのか」

俺の言葉にめぐみんが顔を赤らめてコクリと頷く。……しょうがない、どうせ俺もやることが無くて暇なんだ。丸腰でちょっと不安だが、どうせモンスターは魔王の幹部にビビって出てこないことだし、たまには遠出してみる事にした。

思えばこの世界に来てから、こうして外をぶらぶらすることはあまり無かった。みんちゃすなんかは朝早くに街の外までよく散歩しているそうだが、危険なモンスターひしめくような場所で、最弱職の俺がそんな能天気なことできる筈もない。こんな風にのどかに散歩できるも、今の内だけだよな……。

「……?あれは何でしょうか。廃城?」 

そんな風にしみじみ思っていると、めぐみんが何かを見つけたようだ。

それは遠く離れた丘の上に、ぽつんと佇む朽ち果てた古い城。

「薄気味悪いなあ……お化けでも住んでいそうだ」

「アレにしましょう!あの廃城なら、盛大に破壊しても誰も文句は言わないでしょうし」 

そう言ってウキウキと魔法の準備を始めるめぐみん。

あかき黒炎、

 万界ばんかいの王。

 天地の法を敷衍ふえんすれど、

 我は万象祥雲ばんしょうしょううんことわり

 崩壊破壊の別名なり、

 永劫の鉄槌は我がもとにくだれっ!」

……前から気になってたけど、その詠唱呪文的なヤツ、なんで毎回コロコロ変わるんだ?本当に必要なのか?


「『エクスプロージョン』!」


心地よい風が吹く丘の上。のどかな雰囲気には場違いな、爆裂の轟音が風に乗った。

「燃え尽きろ、紅蓮の中で……!

…………はぁ……最高、です……!」


…………こうして俺とめぐみん、ついでにみんちゃすの新しい日課が始まった(最初は面倒だと拒否したが、めくみんが先日の爆発濡れ衣事件を引き合いに出すと、ものの見事に押し黙った)。

文無しのアクアは毎日アルバイトに励んでいる。アイツの場合売り子のバイトよりは、土木工事とかの方が上手くいくと思うが。

ダクネスはしばらく実家で筋トレしてくると言っていた。それを聞いたみんちゃすひ「力をつけてもどうせ当たんねーんだから時間の無駄だろ」と両断されて悶えていたが。

特にやることのないめぐみんは、俺とみんちゃすを連れてその廃城の傍へと毎日通い、ひたすら爆裂魔法を放ち続けた。


それは、寒い氷雨が降る夕方。

「『エクプロージョン』!」


それは、穏やかな食後の昼下がり。

「『エクプロージョン』ッ!」


それは、早朝の爽やかな散歩のついでに。

「『エクプロージョン』ッッ!」

「60点、か……音圧が物足りない」

「くぅっ……!」


どんな時でもめぐみんは、毎日その廃城に魔法を放ち続けた。

「『エクプロージョン』ッッッ!」


欠片もやる気の無いみんちゃすはともかく、めぐみんの傍で魔法を見続けていた俺は、

「『エクプロージョン』ッッッッ!」


その日の爆裂魔法の出来が、分かるまでになっていた。




「光に覆われし漆黒よ、 

 夜を纏いし爆炎よ。

 紅魔の名のもとに、

 原初の崩壊を顕現けんげんす……!

 終焉の王国の地に、

 力の根源を隠匿せし者、

 我が前に統べよ!

『エクスプロージョン』ッッッッッ!」

爆裂による衝撃の中、一滴も溢さずやたらと器用に紅茶を啜るみんちゃすの傍らで、めぐみんの爆裂魔法を見届けた俺は……。

「おっ、今日のは良い感じだな。爆裂の衝撃波がズンも骨身に浸透するかの如く響き、それでいて、肌を撫でるかのように空気の振動が遅れてくる。相変わらず不思議とあの城は無事だが……ナイス爆裂!」

「ナイス爆裂!カズマも爆裂道が段々分かって来ましたね。……どうです?いっそ本当に、爆裂魔法を覚えてみては」

「うーん……でも将来スキルポイントに余裕が出来たら、爆裂魔法を習得してみるのも面白そうだな」

「良い心掛けですね。……それでみんちゃす、いい加減あなたも爆裂魔法を習得しようではないか」 

「あー?……前にも言ったけどよー、俺の戦闘スタイルと素晴らしいほど噛み合わねーだろーが。近接の間合いであんなもん使ったら俺まで消し飛ぶわ」

相変わらず接近戦前提で考える脳筋魔法使い。そこで俺は、ふと気になったことをみんちゃすに聞いてみる。

「じゃああの……紅魔爆焔覇だっけ?あれを応用して、爆裂魔法並の魔力を込めて斬りかかれば良いんじゃないか?」

「何か勘違いしているようだが、紅魔爆焔覇を使って俺が無傷なのは、『ちゅうれんぽーと』に刻まれたこのルーンのお陰だぞ」

そう言ってみんちゃすは『九蓮宝燈』を取り出し、刀身に刻まれたルーンを見せてきた。

「このルーンには爆発系統の魔法を防ぐ術式が込められていてな、めぐみん対策にと知り合いの魔法使いに刻んでもらったものだ。……まあ肝心の爆裂魔法には効果が無いらしく、当初の目論見は失敗したんだがなー」

「それは当然でしょう、我が最強の必殺魔法に攻略法などありませんから」

……撃つ前に潰すとかダンジョン内で戦うとか、探せばいっぱいありそうだけどな。

「それで何とかこのルーンを活かそうと修行して編み出したのが、俺ごと爆発して一方的に相手だけ消し飛ばす必殺技『紅魔爆焔覇』だ」 

「なるほど……あ、じゃああの……火焔竜演舞みたいに、合成したエレメントを斬撃に乗せて飛ばすのはどうだ?」  

「あのなー……合成したエレメントを手もとでバランスを保つのと、バランスを保った状態で斬撃として飛ばすのでは難易度が天と地ほど違うんだよ。……とりわけ爆発系統の魔法は特に、エレメントの制御が繊細だからなー」

「そうですね。火と風のエレメントの均衡が崩れればすぐに混ざって爆発するので、相手に届く前に誤爆して自滅しかねません」

「ふーん……やっぱそう上手くいくもんでもないのか」

そんな風に、俺達はやたらと有意義な議論を交わしながら街へと帰っていった。

 




日課の爆裂散歩を続け、ちょうど一ヶ月が経った日の朝。


『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』


街中にお馴染みの緊急アナウンスが響き渡る。そのアナウンスに俺達も、「やっと出てきやがったか……手こずらせやがって」と意味深なことを呟くみんちゃすを訝しみながらも、しっかりと装備を整え現場へと向かう。

街の正門前に多くの冒険者が集まる中、そこに着いた俺達は凄まじい威圧感を放つそのモンスターの前に、呆然と立ち尽くした。


デュラハン。


それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。アンデットとなり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。

正門前に立つ漆黒の鎧を着込み、本人と同じく頭の無い馬に乗った騎士は左脇に己の首を抱え、街中の冒険者達が見守る中、フルフェイスの兜で覆われた自分の首を目の前に差し出した。

差し出された首から、くぐもった声が俺達に向けて放たれる。

「……俺は先日、この近くの城に越してきた、魔王軍の幹部の者だが……ッ……」

やがて、首がプルプルと小刻みに震え出し…………!


「……ッッッ!ままま、毎日毎日毎日毎日!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる、ああっ、頭のおかしい大馬鹿者は、誰だあああああああああああーーーッ!!!」


魔王の幹部は、それはもうお怒りだった。




ずっと何かに耐えていたが、とうとう我慢できずに切れてしまった様な、追い詰められた様なデュラハンの絶叫に、俺の周りの冒険者達がざわついた。

というか俺を含むほぼ全ての冒険者が、一体何が起こっているのかの理解が追い付いていない。唯一みんちゃすだけは何やら愉快そうに笑っているが、真性のサディストであるこいつなら敵らしき相手が目の前で苦しんでたら、何もわからなくてもこういう反応をするだろう。

……とりあえず俺達が緊急で呼び出されたのは、目の前にいる怒り狂ったデュラハンが原因のようだった。

「……爆裂魔法?」

「爆裂魔法を使える奴って言ったら……」

「爆裂魔法って言ったら……」

俺の隣に居るめぐみんへと、自然と周りの視線が集まった。

周囲の視線を寄せられためぐみんは、その視線を誘導するようにフイッと隣にいたみんちゃすを見て-


「テメーこの前俺にキレたくせに、自分も濡れ衣着せようとしてんじゃねーよボケが。夜叉乾坤一擲」

「ひょわあぁぁあああ!?」

 

静かにキレたみんちゃすにデュラハンの真正面まで投げ飛ばされ、めぐみんはデュラハンの真正面に顔からダイブした。い、痛そう……。

「さてと……このままじゃめぐみんが危ねー。さっさと加勢に行くぞオメーら」

「正論だがぶん投げた本人が言うんじゃねえよ!?」

街の正門の前に佇むデュラハンから10メートルほど離れた地面に横たわっためぐみんは、やがて「みんちゃす後でぶっ飛ばす……」とか呟きながら起き上がり、顔についた泥を拭いながらデュラハンと対峙する。

元凶のみんちゃすを始め、俺やダクネスやアクアもめぐみんの後ろ辺りに続く。

アンデッドを見つけると、まるで親の敵の様に襲いかかったアクアも、これ程までに怒り狂うデュラハンは珍しいのか、興味深々で事の成り行きを見守る。


「お前が……ッ!……お前が毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んでくる、大馬鹿者かぁっ!?俺が魔王軍の幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、後ろの赤碧の魔闘士のように堂々と城に攻めてくるがいい!その気が無いなら、街で震えているがいい!なんでこんな陰湿な嫌がらせするの!?脅威なのはせいぜい赤碧の魔闘士くらいしかいないと思って放置しておれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポンポンポンポンポン!撃ち込みにきおって!頭おかしいんじゃないのか貴様っ!?」


「ふはっ。めぐみんの奴、頭がおかしいとか言われてらー。それも物理的に頭がおかしい奴に」

「とりあえず今は水差すなみんちゃす」

連日の爆裂魔法がよほど応えたのか、デュラハンの兜が激しい怒りでプルプルと震えた。流石に気圧されめぐみんが若干怯むも、やがて意を決して口を開いた。


「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!」


「……めぐみんて何だ。バカにしてんのか?」

「ちっ、ちがわい!」

名乗りを受けたデュラハンに突っ込まれるも、めぐみんは気を取り直すと。

「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、ええと、……そう!魔王軍幹部のあなたをおびき出す為の作戦……!こうしてまんまとこの街に一人で出て来たのが、運の尽きです!」

ノリノリでデュラハンに杖を突きつけるめぐみんを、その後ろで見守りながら、俺は三人にヒソヒソと囁いた。

「……おい、あいつあんな事言ってるぞ。毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬとか駄々こねてたから、仕方なくあの城の近くまで毎日連れてってやってたのに。いつの間に作戦になったんだ」

「……うむ。しかもさらっと、この街随一の魔法使いとか言い張ってるぞ」

「しーっ!そこは黙っておいてあげなさい!今日はまだ爆裂魔法使ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強気なのよ。今良いところなんだから、見守るのよ!」

「そうだぜオメーら、空気読めよ。……実のところ、何も間違ってねーしな」

その俺達のヒソヒソが聞こえていたのか、片手で杖を突きつけたポーズのまま、めぐみんの顔がみるみる内に赤くなる。……?なんか、みんちゃすの呟きが引っ掛かるな。

デュラハンはと言えば、何故か納得した様な雰囲気だ。

「……ほう、紅魔の者か。そう言えば赤碧の魔闘士も、始めて対峙したときはそのような名乗りを挙げていたな。……なるほど。そのイカれた名前は、別に俺をバカにしていた訳ではなかったのだな」

「おい、両親から貰った私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

デュラハンの言葉にヒートアップしているめぐみんだが、当の本人はどこ吹く風だ。

と言うか街中の冒険者の大群を見ても、別段気にする素振りも見せていない。

流石は魔王軍の幹部、俺達みたいなひよっ子など眼中に無いのだろう。

「……フン、まあいい。とにかく、俺はお前ら雑魚共にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」

「無理です。紅魔族は一日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

「聞いたことねーよそんな特殊過ぎる体質!?貴様、適当な嘘つくんじゃない!」

どうしよう、めぐみんとあのモンスターのやり取りを、もう少し見守りたい気分になってきた。見ればアクアも、めぐみんがデュラハンに噛み付いているのをワクワクして眺めている。

デュラハンは右手の上に首を乗せ、そのまま器用にやれやれと肩をすくめて見せた。

「どうあっても爆裂魔法を止める気は無いと?俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味は無い。……だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」

剣呑な気配を漂わせてきたデュラハンに、めぐみんがビクリと後ずさった。 

だがめぐみんは、不敵な笑みを浮かべると……

「迷惑なのは私達の方です!あなたがあの城に居座ってる所為で、我々は仕事もロクにできないんですよ!……フッ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには戦闘のスペシャリストと、対アンデッドのスペシャリストがいるのだから!……アクア、みんちゃす!いきますよ!」

盛大な啖呵を切った後、めぐみんはアクアとみんちゃすを巻き込んだ。


…………おい

「お、指名入ったなー。行くぞーアクア」

「……しょうがないわねー!魔王軍の幹部だか何だか知らないけど、この私がいるときに来るとは運が悪かったわね。アンデッドのくせに、力が弱まるこんな明るい内に外に出て来ちゃうなんて、浄化してくださいって言ってる様なもんだわ!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ、覚悟はいいかしらっ!?」

凶悪な笑みを浮かべたみんちゃすと、頼られて満更でも無さそうなアクアが、ズイとデュラハンの前に出た。デュラハンはその内みんちゃすの方を見ると……

「き、貴様赤碧の魔闘士!?……そうか、貴様もグルだったという訳か!」

 

……え?


「今頃気づいてもおせーんだよこのド腐れ騎士が。逆につまらねーほど作戦通りにまんまと出てきやがってよー……憐れだな、テメーは俺達の手の平で踊ってたんだよ。な、めぐみん?」

「え?」

作戦だと言い張っていためぐみんが呆然とするが、俺もめぐみんと同じ頭の中が空っぽになった。


…………え?


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