第5話:パーティー結成!⑤

【sideカズマ】


「……さ、さて。それじゃ気を取り直してあたしのイチ押しのスキル、窃盗をやってみようか。これは対象の持ち物を何でも一つ奪い取るスキルだよ。相手がしっかり握っている武器だろうが、鞄の奥にしまい込んだサイフだろうが、何でも一つランダムで奪い取る。スキルの成功確率はステータスの幸運に依存するよ。強敵と相対した時に相手の武器を奪ったり、大事に隠しているお宝だけかっさらって逃げたり、色々と使い勝手のいいスキルだよ」

みんちゃすの殺人キックを喰らいグロッキーになっていたクリスが、ようやく復活してスキルの説明に戻る。

窃盗スキルか……確かになかなか使えそうな感じだ。しかも成功率が幸運依存って事は、俺の唯一高いステータスを活かせるって事だ。

しかしみんちゃすはクリスに対して鼻で笑う。

「コソ泥らしい意地汚いじきたねースキルだな白髪女」

「誰がコソ泥だよ!?それにあたしは白髪じゃなくて銀髪だから!……じ、じゃあカズマ君に使ってみるからね?いってみよう!『スティール』っ!」

クリスが手を前に突き出し叫ぶと同時、その手に小さな物が握られていた。

それは……。

「あっ!俺のサイフ!」

俺のなけなしの金が入った薄いサイフ。

「おっ!当たりだね!まあこんな感じで使うわけさ。それじゃ、サイフを返……」

 クリスは俺にサイフを返そうとして、そしてにんまりと笑みを浮かべた。

「……ねえ、あたしと勝負してみない?キミ、早速窃盗スキルを覚えてみなよ。それで、あたしから何か一つ、スティールで奪っていいよ。それがあたしのサイフでもあたしの武器でも文句は言わない。この軽いサイフの中身だと、間違いなくあたしのサイフの中身や武器の方が価値があるよ。どんな物を奪ったとしても、キミはこの自分のサイフと引き換え……どう? 勝負してみない?」

いきなりとんでもない事を言い出す子だ。

しかし、と俺は考える。

俺は幸運が高いらしい……。

で、相手からは何か一つ奪ってもいい……。

つまり、スキルに失敗したら何も貰えないって事じゃないだろう。

……やってやるか。

それになんというか、こういった賭け事みたいな事は、いかにも荒くれた冒険者同士のやりとりみたいで憧れる!

そう、この世界に来てようやく冒険者っぽいイベントだ!

俺は自分の冒険者カードを確認すると、そこに習得可能スキルという欄が新しく表示されているのを確認した。

そこを指で押してみると、4つのスキルが表示される。

《敵感知》1ポイント、《潜伏》1ポイント、《窃盗》1ポイント、《花鳥風月》5ポイント……


……《花鳥風月》?


これもしかして……さっきアクアがやってた宴会芸か!?宴会芸のくせに何て大層な技名なんだ!役に立たなさそうなくせに必要なポイントも無駄に高いし、まるでアクアそのものだな!

俺はひとまずカードの中のスキル、窃盗、敵感知、潜伏を習得すると、残りスキルポイントが0になる。

なるほど、こんな感じでスキルを覚えるのか。

「早速覚えたぞ。そして、その勝負乗った!何盗られても泣くんじゃねーぞ?」

言って右手を突き出す俺に、クリスが不敵に笑って見せた。

「いいねキミ!そういうノリのいい人って好きだよ!さあ、何が盗れるかな?今ならサイフが敢闘賞。当たりは、魔法が掛けられたこのダガーだよ!こいつは40万エリスは下らない一品だからね!そして、残念賞は潜伏スキルの説明の際にぶつける為に多めに拾っといたこの石だよ!」

「んなことだろーと思ったぜ……」

「ああっ!きったねえ!!そんなの有りかよっ!」

俺はクリスが取り出した石を見て、思わず抗議の声を上げた。

自信満々だと思ったらこういう事か!確かにゴミアイテムを多く持っておけば、大事なアイテムが盗られる確率も減り、スティール対策にはなる。

「……というかみんちゃす、わかってたなら教えてくれよ!?」

「あー?……アレだ、こういうのは痛い目見て覚えた方が早いんだよ」

「そうそう、これは授業料だよ。どんなスキルも万能じゃない。こういった感じで対抗策はあるもんなんだよ。一つ勉強になったね!さあ、いってみよう!」

畜生、確かにいい勉強にはなった!

それに心底楽しそうに笑うクリスを見ていると、騙された方が悪い気にすらなってくる。

ここは日本じゃない、弱肉強食の異世界だ。みすみす騙されるような甘っちょろいヤツが悪いのだ。

……それに勝負の分が悪くなったってだけで、まだ残念賞に当たるとは決まってない。

「よし、やってやる!俺は昔から運だけはいいんだ!『スティール』っ!」

叫ぶと同時、俺が突き出した右手には何かがしっかりと握られていた。

成功確率は幸運依存と言っていたが一発で成功とは、やはり俺は運だけには恵まれているらしい。俺は自分が手に入れた物を広げ、マジマジと見ると……。

「……なんだこれ?」

それは、一枚の白い布切れだった。

俺はそれを両手で広げ、陽にかざして見るると……。


「ヒャッハー!当たりも当たり、大当たりだあああああああああ!」

「いやああああああああああ!?ぱ、ぱんつ返してええええええええええええっ!」


クリスが自分のスカートを押さえながら、手に入れた戦利品パンツを振り回す俺に向かって涙目で絶叫した。


「だから言ったのになー、痛い目見て覚えた方が早いってよ。別にカズマに対してだけ言ったわけじゃねーってことだ。……にしても流石にアレは、いくら俺でもちょっと引くな、うん」

「な……なんという鬼畜の所業……!や、やはり……やはり私の目に狂いは無かった!それでこそ私の入るパーティーに相応しい!」

「しっかり狂ってるだろ、目も頭も」 






俺達がギルドの酒場に戻ると、そこは大変な騒ぎになっていた。

「アクア様、もう一度!金なら払うので、どうかもう一度花鳥風月を!」

「ばっか野郎、アクアさんには金より食い物だ!ですよねアクアさん!?奢りますから、ぜひもう一度花鳥風月を!」

迷惑そうな様子のアクアの周りに、何故か人だかりが出来ていた。

「芸って物はね?請われたからって何度もやる物ではないの!良いジョークは一度きりに限るって、偉い人が言ってたわ。受けたからって同じ芸を何度もやるのは三流の芸人よ!そして私は芸人じゃないから、芸でお金を受け取る訳にはいかないの!これは芸をたしなむ者の最低限の覚悟よ。……あっ!ちょっとカズマ、やっと戻ってきたわね。あんたのおかげでえらい事に……。って、その人どうしたの?」

人だかりを面倒臭そうに押しのけながら、俺の隣で泣いているクリスにアクアが興味を抱く。すると俺が説明するより早く、ダクネスが口を開いた。

「うむ。クリスはカズマにぱんつ剥がれた上に、有り金全部毟られて落ち込んでいるだけだ」

「おいあんた何口走ってんだ!?待てよ、おい待て!」

「何も間違ってねーだろ?」

「間違ってないけどほんと待って!?」

どうにか弁明しようとする俺に、クリスは泣きながら、

「財布返すだけじゃ……ひっく、駄目だって……じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら……うぅ…自分のパンツの値段ぐらい自分で決めろって!」

「待って、お願いだから!何一つ間違ってはないけど、ほんと待ってぇぇ!!」

「さもないと、このパンツは……ぐすっ、我が家の家宝として、奉られることになるって!!」

「やめてぇぇぇっ!なんかすでに、アクアとめぐみん以外の他所の女性冒険者達の目まで冷たい物になってるから、ほんとに待ってお願いします!」

俺が周囲の女性達の視線に怯える中、顔を覆ったままクリスは俺にだけ見えるように舌を出す。クソッ、確信犯か!?

さらにふと何かを思いついたように、クリスはみんちゃすの方を指差すと、

「それにそっちの子には、グス……思いっきり蹴飛ばされたり侮辱されたり、あたしがぱんつ剥かれているときも全然助けてくれなか-」


「みんちゃす式殺法その2・腿破裂ももはれつ


「ッッッ!?」

どうやらみんちゃすにも先程の件の逆襲しようとしていたらしいが、両目を輝かせたみんちゃすに腿を思いっきり蹴飛ばされ、クリスはその場に崩れ落ちてのたうち回る。

周囲の非難するような視線を一切気にも止めず、みんちゃすはそのままクリスの後頭部を掴み上げると、手近にあったテーブルに無理矢理クリスの顔を押し付けた。

「痛い痛い痛い痛い!痛いってば!?」

「テメーも学習しねーな白髪女、性懲りもなく俺に噛みついてきやがってコノヤロー。……だいたいテメー何被害者面してるんだよ?駆け出し冒険者からスティールで財布をパクって、悪質な勝負を吹っ掛けてその財布を授業料にしようとしてたくせによー。その結果パンツをパクられたんだから、どう考えてもテメーの自業自得じゃねーか。何盗られても構わないとか豪語してたくせに、蓋開けたらキャンキャン泣き喚きやがって。そんなんで冒険者名乗って恥ずかしくねーのか?んー?」

そしてそのまま耳元でネチネチネチネチ責め立てる。普段通りの能天気な声色なのに、心なしかやたらとドスが効いている気がする。物理的な痛みと精神的な苦しみでクリスが悲鳴を上げるが、完全にキレてるらしいみんちゃすは一切意に介することなくねちっこい恫喝を続ける。

「まあ勝負を引き受けたからにはカズマの自己責任でもあるし、やってることはドン引きものだったから、アイツへ逆襲する分にはノータッチでいようと思ってたんだよなー。……が、調子に乗って俺まで貶めようとしたのが運の尽きだな。一度ならず二度もこの俺に喧嘩売ったからには……」

片手でクリスの顔を机に押し付けたまま、みんちゃすはローブの懐から黒い長ドスを取り出す。

ファンタジー世界、それも魔法使いがドス!?み、ミスマッチにも程がある……。

なんてくだらないことを考えていると、みんちゃすは長ドスを鞘から引き抜き、ルーン文字らしきものがびっしり刻まれた、鮮やかな赤い刀身を露出させ……


テーブルの、クリスの目の間近である位置に突き刺し-ってオイオイオイ!?


「ひっ!?」

「死ぬ覚悟はできてんだろーな?あ‘’?」

ヤバいヤバいヤバいヤバい!

脅し方が完全にヤクザのそれだよ!?それに、どう考えても10代前半が出していい殺気じゃねぇ!

誰がどう見ても明らかにやり過ぎなのだが、正直怖すぎて止める気がまるで起きない。周囲の視線も侮蔑からすっかり恐怖のものへと移り変わっていた。

やがて冒険者の一人が、何かに気づいたように叫ぶ。

「お、おい……変わった形状の赤い剣、黒髪に左右で色の違う瞳、それにあの度を越した残虐性……もしかしてアイツは、『赤碧せきへきの魔闘士』じゃないか!?」

「な、なにぃっ!?あんなガキがあの有名な……!?」

「狩った大物賞金首は数知れず、沈めた冒険者も数知れず、魔法使い職でありながら肉弾戦と剣技を主軸に戦う異色派アークウィザード……!」

「魔王軍幹部を撃退した功績もあり、最近では魔王討伐に最も近しい冒険者とも称されている男が、何故こんな駆け出しの町に……!?」

「な、なぁ……もしあのガキがそうだとしたら、あの嬢ちゃんこのままだとマズくねぇか!?『赤碧の魔闘士』の逆鱗に触れて、トラウマで引退を余儀なくされた冒険者は後を絶たないって言うし……」

どうやらみんちゃすは冒険者の間でも相当な強者らしい。強いとは思っていたがまさかそこまで……。

「な、なぁめぐみん……流石にちょっとやり過ぎじゃないか?同じ紅魔族なんだから止めてきてくれよ」

「ここで他力本願なのがなんとも情けないですね……」

うるせぇ、駆け出しの最弱職に無茶言うな。

「……どちらにせよ、私が止めても無駄ですよ。売られた喧嘩は買うのが紅魔族ですし、その紅魔族の中でもみんちゃすは特に沸点が低いですからね。……それよりもカズマ」

「な、なんだ……!?」

「みんちゃすのあの武器……形状といいカラーリングといい刃に刻まれたルーン文字といい、紅魔族の琴線にダイレクトに響く逸品です!いったいどこで手に入れたのか気になって仕方ありません!」

「俺もう紅魔族お前らにうんざりしてきたよ」

そんな中ダクネスが、足がすくんで動けない周囲の冒険者達を掻き分けて進み、クリスを押さえつけているみんちゃすの手を掴んだ。

「おい、私の友人に狼藉を働くのはその辺に-」

「不器用ド変態なんちゃって聖騎士がしゃしゃり出てくんじゃねーよ、死ね」

「ッ…んん!……っ!」

みんちゃすの加減を知らない情け容赦のない罵詈雑言に、ダクネスが何故か頬を赤らめて身を震わせた。……あ、みんちゃすが苦虫を噛み潰した表情になった。こいつでもこういうのは苦手なんだ。

「……まあなんだ、ポンコツの癖に友人を助けるために、この俺に立ち向かったのは賞賛ものだ。こいつに免じて今回は見逃してやるよ」

「わああああっ!?」

みんちゃすはクリスの首根っこを掴んで片手でぶん投げ、そのままダクネスにキャッチされた。

「ただしそこのボンクラ、次また舐めた真似しやがったら……」   

みんちゃすはテーブルに置いてあったガラスのジョッキを持ち上げ、


片手でそれを握りつぶした。

…………魔法使いってなんだっけ? 


「あ、そこの店員さん、これ諸々の弁償と迷惑料な。…………わかったか?」

店員に金貨袋を渡しながらみんちゃすがそう凄むと、クリスは涙目で震えながらコクコクと頷いた。

「……ねえカズマさん。私、今後何があってもみんちゃすにだけは喧嘩を売らないと決めたわ」

ガクガクと震えながらそう呟くアクアに、そうだなと俺も同意しておく。


………あれ?他はともかく、なんでみんちゃすはダクネスが不器用だってわかったんだ?

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