第4話:パーティー結成!④

【sideカズマ】


「なあ、スキルの習得ってどうやるんだ?」


カエル討伐の翌日、俺達はギルド内の酒場で遅めの昼食をとっていた。 

俺達に会うまでは金が無くてろくに食べられなかったらしいめぐみんは一心不乱に定食を喰らい、アクアは手近な店員を捕まえておかわりを注文している。二人揃ってとても年頃の女とは思えない、色気の欠片も無い旺盛な食欲だ。

ちなみにみんちゃすは既に食べてきたらしく、優雅に紅茶を飲みながら『仁義なき貴族達』という少し年季の入った本を読んでいる。

「スキルの習得ですか?そんなものカードに出ている現在習得可能なスキル欄から……」

「あのなーめぐみん、普通はそうだがカズマの職業は《冒険者》だろうがよー」

読んでいた本を大事にしまいつつ、みんちゃすも会話に入ってきた。

「あ、そういえばそうでしたね。……《冒険者》のスキル習得法は、誰かにスキルを教えてもらうのです。まずは目で見て、そしてスキルの使用方法を教えてもらうと、カードに習得可能スキルという項目が現れるので、ポイントを使ってそれを選べば習得完了なのです」

なるほど。

確か以前受付のお姉さんが、《冒険者》は全てのスキルが習得可能だって言っていた。

という事は……

「……つまりめぐみんに教えてもらえば、俺でも爆裂魔法が使えるようになるって事か?」

「いやカズマ、それは-」

「その通り!」

「うおっ!」

「あーもう、面倒なのに火がついちまったじゃねーか……」

俺の何気ない発言に、意外な食いつきを見せるめぐみん。

「その通りですよカズマ!まあ習得に必要なポイントはバカみたいに食いますが、《冒険者》はアークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。爆裂魔法を覚えたいなら幾らでも教えてあげましょう。というか、それ以外に覚える価値あるスキルなんてありますか?いいえありませんとも。さあカズマ!あとみんちゃすも!私と一緒に爆裂道を歩こうじゃないか!」

「明らかに戦闘スタイルと噛み合わない俺まで巻き込まれてるしよー……」

ちょっ、顔が近い!

「落ち着けロリっ子!つーか、スキルポイントってのは今3ポイントしかないんだが、これで習得できるもんなのか?」

「ろ、ロリっ子……!?」

たぎるめぐみんでは話にならない為、みんちゃすに聞く。

「あー?できるわけねーだろ、仮にも人類最高威力の必殺魔法だぜ?冒険者ならそうだなー……十年くらいこつこつとレベル上げに勤しんで、貯まったスキルポイントを全てつぎ込めば可能かもなー」

「待てるかそんなもん」

「ふ……、この我がロリっ子……」

「いや落ち込みすぎだろ……一応俺よりはかろうじてデケーんだから元気出せよ」

俺の一言にショックを受けたらしいめぐみんは、みんちゃすに慰められつつしょんぼりと項垂れながら、再び定食をモソモソと食べだした。

……しかし俺の就いている職業冒険者は、全スキルを習得可能って所が唯一の利点なんだから、せっかくなら多彩なスキルを覚えていきたい。

「なあ、みんちゃすはどんな魔法スキルを持ってるんだ?何か強力なのがあったら教えてくれよ」

「あー?……正直お勧めはできねーな。俺のも基本的にスキルポイントが割高だし、どれもこれも射程がかなり短いから、ガンガン敵陣へ切り込んでいかないと使いもんにならねーし」

「……え?それじゃあ昨日の雷の魔法みたいなのは?」

「アレは属性付与エンチャント魔法っつってな……『スタン・ウエポン』」

みんちゃすがそう呟くとバチバチというスパーク音と共に、みんちゃすの右手に電流らしきものが纏わりついた。

「こうして武器や肉体にエレメントを纏わせて、魔法攻撃を可能とするスキルだ。カエルは皮膚が粘膜で覆われているから電気を遠し易いからなー、雷属性の魔法攻撃なんてかすっただけで即死ってわけだ」

なるほど、昨日はその魔法でジャイアントトードを全滅させたって訳か。確かにカエルにも真っ向から向かっていく能力も度胸も無い今の俺には、とてもじゃないが使いこなせそうにないな……というか、

「昨日も思ったけど、みんちゃすもめぐみんと同じアークウィザードなんだよな?もっとこう……魔法使いっぽい魔法は無いのか?」

戦闘スタイルが魔法使いというより、むしろ武闘家じゃないのかそれ……?

「んー……今のところ無いなー。敵シバくのに役立つ魔法以外は、覚えるの後回しにしてるから。この先スキルポイントが余ってきたら、サブウエポンとして取るのも検討してるがなー」

「みんちゃすはやたらと接近戦に拘る紅魔族随一の変人なので、真っ当な魔法使い路線は期待するだけ無駄ですよ?」

「出落ち要因にだけは言われたくねーよ」

「なにおう!?」

しょうもない争いをし出したチビッ子コンビから目を背け、俺は我関せずと飯を喰らっている女神(笑)に目を向ける。

「なあアクア、お前なら便利なスキルたくさん持ってるんじゃないか?何か、お手軽なスキルを教えてくれよ。習得にあまりポイント使わないで、それでいてお得な感じのヤツ」

俺の言葉にアクアは水の入ったコップを握り、しばらく考え込む。

「……しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端ないわよ?本来なら、誰にでもホイホイと教えるようなスキルじゃないんだからね?」

やたら勿体つけるアクアだが、教えてもらう立場なのでここはじっと我慢だ。

俺は神妙に頷きながら、アクアがスキルを使う所を観察する。

「じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちないように乗せる。ほら、やってみて?」

ちょっと人目が気になるが、俺はアクアに続いて同じように自分の頭にコップを乗せた。

するとアクアはどこから取り出したのか、一粒の何かの種をテーブルに置くと。

「さあ、この種を指で弾いてコップに一発で入れるのよ。すると、あら不思議!このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

「誰が宴会芸スキルを教えろっつったこの駄女神!」

「ええーーーーー!?」

何故かショックを受けたらしいアクアは、口喧嘩でみんちゃすに負けて落ち込むめぐみんの隣に座り、しょぼんとしながらテーブルの上の種を指で弾いて転がし始める。

何を落ち込んでいるのかは知らないが、目立つから頭の上のコップを下ろして欲しい。

そしてみんちゃす、我関せずとばかりに読書に戻るな。その本明らかに何回も読み返してるだろうし、もういいだろ読まなくて。


「あっはっは!面白いねキミ!ねえ、キミがダクネスが入りたがってるパーティーの人?有用なスキルが欲しいんだったら、盗賊スキルなんてどうかな?」


それは、横からの突然の声。見れば隣のテーブルには二人の女性が居た。

俺に声を掛けてきたのは革の鎧を着た、身軽な格好をした銀髪の女の子。頬に小さな刀傷があり、ちょっとスレた感じだがサバサバとした明るい雰囲気の明るい雰囲気の美少女だ。

その隣には、ガチガチのフルプレートメイルを着込んだ金髪ロングの美女。冷たく、取っ付きにくいクールな印象の……

そう、先日パーティーに入りたいと言ってきたあの女騎士……ん?何故かみんちゃすの方を見ながら、大きく目を見開いたまま固まっているな。視線を鬱陶しく感じたのか、みんちゃすはしかめっ面で本から顔を上げると……女騎士と目があったみんちゃすも、同じように大きく目を見開いた。

「? どうしたのダクネス?あの子のことじっと見て」

「みんちゃすもどうした?もしかして知り合い、なのか?」

「……いや、ただの他人の空似だ。すまんな騎士のネーちゃん」

「あ…いや、私は構わないが……」

何事も無かったかのようにみんちゃすは読書に戻り、女騎士の人も気まずそうに視線を反らした。……よくわからないが今はそんなことよりも、

「それでえっと、盗賊スキル?どんなのがあるんでしょう?」

俺の質問に、盗賊風の女の子は上機嫌で。

「よくぞ聞いてくれました。盗賊スキルは使えるよー。罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。持ってるだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、《冒険者》なんでしょ?盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?どうだい?今ならクリムゾンビア一杯でいいよ?」

安いな!……と思ったが、よく考えればスキルを教えた所でこの子にはリスクなんてない。本気で俺が盗賊スキルを教えて欲しければ、そこらの他の盗賊に頼んでもいいわけだし。……まあ美人と接点が持てるなら、悪くない出費か。

「よし、お願いします!すんませーん、こっちの人に冷えたクリムゾンビアを一つ!」

「んー……まあいいか、これも経験だ」


……何やらみんちゃすが不穏なことを呟いていたのが少々気がかりだが。






「まずは自己紹介しとこうか。あたしはクリス。見ての通りの盗賊だよ。で、こっちの無愛想なのがダクネス。昨日ちょっと話したんだっけ?この子の職業はクルセイダーだから、キミに有用そうなスキルはちょっと無いと思うよ」  

確かに前衛寄りのスキルは、俺のような貧弱ステータスと相性はあまり良くないな。

「我が名はみんちゃす!アークウィザードにして、近接戦闘の第一人者……!」

こいつらはいちいちコレやらなければうけないのか?……いや違う、このノリノリの表情は明らかに義務感だけでやってる訳じゃない。

「……えっと…君、もしかして紅魔族?それにしては片方の眼が青いけど……」

「俺は混血だからなー……どこぞの辺境貴族の血が、半分ほど混じってこうなったんだよ」

「ッ!?」

「へぇー」

みんちゃすの片親は貴族なのか……ん?何やらダクネスの顔がひきつっているような……いや、今はそんなことより、

「俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いします!」

冒険者ギルドの裏手の広場。

俺とクリスとダクネス、そして暇だったらしいみんちゃすの四人は、人気ひとけのない広場に立っていた。

ちなみに残りの二人は、なにやらテーブルでへこんだままだったので置いてきた。

「では、まずは敵感知と潜伏をいってみようか。《罠解除》とかは、こんな街中に罠なんてないからまた今度ね。じゃあ、そうだね……みんちゃす君、ちょっと向こう向いてて?」

「あー?……別に良いけどよー」

みんちゃすが言われたとおりに素直に向こうを向くと、クリスはちょっと離れた所にあるタルの中に入り、上半身だけを出す。

そしてみんちゃすの頭に、何を思ったのか石を投げつけ、そのままタルの中に身を隠した。

…………ひょっとして、これが潜伏スキルだと言う気だろうか。


「……………………ぶち殺す」


石をぶつけられたみんちゃすが両目を輝かせ、怖い笑顔で何やら物騒なことを呟きながら、ぽつんと一つしかないタルへと向かって歩いていく。

止めてやりたいのはやまやまだが、正直怖すぎて首突っ込めそうもない。……ダクネスはダクネスで何やら興奮してるし……。

「敵感知……敵感知……って、なにこの尋常じゃない怒りの気配!?ね、ねえみんちゃす君、分かってると思うけどこれはスキルを教える為に仕方なくやってる事だから、どうか穏便に-」

「世間知らずのオメーに一つ教授してやるよ……紅魔族は売られた喧嘩は必ず買うってことをなぁっ!鳳凰剛健脚で消し飛べオラァッっ!」

「あんぎゃぁぁあああっ!?」

みんちゃすの放った後衛職とは思えない破壊力の蹴りは、隠れていた樽を軽々と粉砕しクリスの無防備な腹に突き刺さり、クリスは痛みに悶えながらゴロゴロと地面を転がる。

……これでほんとにスキルを覚えられるんだろうな……。

「………羨ましい」

そしてこの騎士様は何をのたまってるのでしょうかね?




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