第2話:パーティー結成!②
【sideカズマ】
「我が名はみんちゃす!アークウィザードを生業とし、やがては世界最強へと至る者……!」
左手を天に、右手を地に向けた格好で、先程までは無かった筈のマントを靡かせた少年は、やたらと既視感のある自己紹介をし始めた。
………こいつもめぐみんと同じ紅魔族とやらだとしたら、からかってるわけじゃないんだよな……。
「そ、そうか……俺は佐藤和真。さっきは助けてくれてありがとな」
「……んー?反応は微妙だが妙に慣れた対応だなー。大抵は紅魔族流の自己紹介に難癖を付けて、その後俺にボコられるまでが様式美なのに」
対応間違えてたらボコられてたの俺!?あ、危ねぇ……。
「手慣れてるのはついさっきパーティーメンバー候補のめぐみんから、似たような自己紹介されて一悶着あったからだよ」
「……めぐみん?カズマ、今めぐみんって言ったか?」
「え?あ、ああ」
「……っつーことは、さっきのデケー音は爆裂魔法かー。なるほど、道理で聴き覚えがある筈だぜ」
納得が言ったといわんばかりにみんちゃすは頷く。
「めぐみんの知り合いか……さっきの自己紹介といい、やっぱりみんちゃすも紅魔族なのか?」
紅魔族って言う割には、片方の眼どう見ても青いけど……。
「半分はそうだなー、俺混血だし。めぐみんとは同じ学舎で勉学を共にした同期の桜よ。俺が卒業して里を旅立ってから会ってねーが、わざわざアクセルまで来た甲斐があったってもんだ。……それでカズマ、めぐみんはどこにいるんだー?」
「ん」
めぐみんを食っていたカエルを指差す俺。
「……あー?カエルじゃねーか。どういうことだよ?」
「あのカエルの口の中」
「………」
俺の言葉を理解したのかみんちゃすは怖いほど真顔になり、ゆっくりとした足取りでカエルに近づいていき、カエルの口を強引にこじ開けて中に入っていためぐみんを力任せに引っ張り出した。
「ぷはっ、やっと出られた……助かりましたカズ…マ…………」
自身を引っ張り出したのが俺ではなくみんちゃすだと知っためぐみんは、ほっとした顔つきのまま彫刻のように固まった。
「……オイコラめぐみん」
「……人違いです」
「……ネタ魔法使いの一発屋」
「なにおう!?我が爆裂魔法を虚仮にする者は、たとえみんちゃすであろうと許しま-」
「やっぱテメーじゃねーか!」
「痛たたたたた!?!?やめ、大般若鬼哭爪はやめてくださいみんちゃす!?しらばっくれたのは謝りますから!」
めぐみんはみんちゃすに顔を鷲掴みにされ、メキメキと人体からしてはいけない音が響く。……みんちゃすもアークウィザード、つまり魔法使いなんだよな。やけに握力強くないか?……というか大般若鬼哭爪って何?
みんちゃすは一旦掴むのやめ、言い逃れられないようにめぐみんの両目をガン見しつつ詰問する。
「オメーは仮にも俺と最強の座を争うライバルだってのに……なんだそのザマは?大方カエルに爆裂魔法ブチ込んで、無防備になったところを音を聞きつけて這い出てきた別のカエルに、みすみすパックリいかれたってところかー?」
「うぐっ……それは、そのう……」
紅魔族は知力が高いって本当なんだな、寸分の違いもなく大正解だ。
「そっかそっかー、なるほどなー………………いや馬鹿かオメーは!?何カエルごときにそんな大盤振る舞いしちゃってんの!?オーバーキルも大概にしろっつーか、せめて何匹か集めてから撃てやコラ!」
「痛い痛い痛い痛いです!?」
再び顔を鷲掴みにされるめぐみん。
「里出るとき俺がオメーに何て言ったと思ってんだ!?あ‘’?『次にオメーと会うときは………冒険者の高みだ』だぞ!?
高みか!?これ高みか!?後先考えずに必殺技ぶっ放してカエルに食われるのはオメーからしたら高いのか!?いくらなんでもおかしいだろマジで!低い通り越して地面に陥没してるじゃねーかコノヤロー!人様の格好良い別れ台詞をぶち壊すような不届き者は……『パワード』!」
呪文らしき言葉を呟き突如白く発光したみんちゃすは、めぐみんを鷲掴みにしたまま持ち上げ、
「痛たたたた!?み、みんちゃす!?なんで強化魔法を唱えたのですか!?凄く嫌な予感がするのですがいったい何を-」
「飛んでけクソボケェ!夜叉乾坤一擲!」
「ふわぁぁあぁあああぁああ!?……」
力任せに上空に放り投げた。5メートル、10メートルと、どんどん空高く飛翔する魔法使い……ってオイ!?
「いくらなんでも飛ばし過ぎだろ!?あんなところから落ちたら確実にグシャッてなって、とてつもなくグロテスクなめぐみんが出来上がるぞ!?」
「あー?……心配すんな、落ちる寸前でキャッチするつもりだから」
「いやいやいや……あんな高いところから落ちてくる人間が、どれだけ重いかわかって言ってるのか?」
「なんら問題ねーよ。身体強化している今の俺なら、たとえドラゴンだろうと持ち上げられるからなー」
「……アークウィザード、なんだよな?」
「そうだが?」
「ちょっと肉体派過ぎね?」
「紅魔族唯一の近接戦闘特化型アークウィザードだからなー」
「もうそれ魔法使いじゃなくて格闘家だろ……」
その後みんちゃすは俺に言った通り、めぐみんが地面に激突する寸前で受け止めた。しばらく今にも泣きそうな表情で震えていたが、俺がアクアをカエルから救出してしばらくすると、精神的にはどうにか立ち直ったようだ。……爆裂魔法の反動で動けないままだったため、なし崩し的に俺が背負う羽目になったが。
「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよう……。生臭いよう…………」
俺の後を粘液まみれのアクアがめそめそと泣きながら付いて来る。やることやって溜飲が下がったのか、みんちゃすも特に不機嫌な様子もなく俺達に同伴している。
「それにしてもカエルの体内って、臭いけどいい感じに温かいんですね……」
「そんな知識知りたくなかった」
「世界一不必要な知識だなー…」
アクアと同じく粘液まみれで、めぐみんは俺の背中におぶさっていた。正直変わって欲しいが、傷心中のアクアやパーティーメンバーじゃないみんちゃすにコレを押し付けるのは流石に気が引ける。
魔法を使う者は魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を削る事になるらしい。魔力が枯渇している状態で大きな魔法を使うと、命に関わる事もあるそうだ。
「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは他の魔法で頑張ってくれよ」
「いやカズマ、それがなー……」
俺の言葉に背中におぶさっためぐみんが、肩を摑む手に力を込めた。みんちゃすも何やら気まずそうに頬を掻いている。
「…………使えません」
「…………は?何が使えないんだ?」
めぐみんの言葉に、俺はオウム返しで言葉を返す。めぐみんが俺に摑まる手に更に力を込め、その薄い胸が俺の背中に押し付けられた。
「…………私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」
「…………マジか」
「マジです」
「哀しいことにマジなんだよなー…」
俺とめぐみんとみんちゃすが静まり返る中、今まで鼻をぐすぐす鳴らしていたアクアが、ようやく会話に参加する。
「爆裂魔法以外使えないってどういう事?爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していない訳がないでしょう?」
……スキルポイント?そういやギルドのお姉さんがスキル習得がどうのと言っていたな。
そんな俺の顔を見て、アクアが説明してくれる。
「スキルポイントってのは、職業に就いた時に貰える、スキルを習得するためのポイントよ。優秀な者ほど初期ポイントは多くて、このポイントを振り分けて様々なスキルを習得するの。例えば超優秀な私なんかは、まず宴会芸スキルを全部習得し、それからアークプリーストの全魔法も習得したわ」
「ほー、そりゃスゲーな」
みんちゃすは感心しているがそれよりも…
「……宴会芸スキルって何に使うものなんだ?」
アクアは俺の質問を無視して先を続ける。
「スキルは職業や個人によって習得できる種類が限られてくるわ。例えば水が苦手な人は氷結や水属性のスキルを習得する際、普通の人よりも大量のポイントが必要だったり、最悪習得自体ができなかったり。……で、爆発系の魔法は複合属性って言って、火や風系列の魔法の深い知識が必要な魔法なの。つまり爆発系の魔法を習得できるくらいの者なら、他の属性の魔法なんて簡単に習得できるはずなのよ」
「もっと言うなら俺達紅魔族に苦手な魔法などなく、理論上ほぼ全ての攻撃魔法が習得可能だ。……神聖魔法など習得できないものもあるっちゃあるが」
「なるほど……爆裂魔法なんて上位の魔法が使えるなら、下位の他の魔法が使えない訳が無いって事か。……で、宴会芸スキルってのは何時どうやって使うものなんだ?」
俺の背中で、めぐみんがぽつりと呟いた。
「……私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないんです……爆裂魔法だけが好きなのです!」
そもそも爆発魔法と爆裂魔法って何が違うんだ?その意味は俺には分からないが、アクアは真剣な面持ちでめぐみんの独白に耳を傾けている。みんちゃすもみんちゃすで何やら真剣そうな表情になっている。
いやそんな事よりも、俺はすでに宴会芸スキルとやらの方が気になっているんだが。
「もちろん、他のスキルを取れば楽に冒険ができるでしょう。……でもダメなのです!私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ今の私の魔力では一日一発が限界でも、たとえ魔法を使った後に倒れるとしても……それでも私は、爆裂魔法しか愛せない!爆裂魔法こそ我が覇道!それ以外の魔法など一切眼中にありませんとも!だって私は……爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」
「素晴らしい!素晴らしいわ!その、非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」
「……ふっ、中々のフロンティアスピリッツ。それでこそ我がライバルだ」
……まずい、どうもこの魔法使いはダメな系だ。
何故か満足そうにしているみんちゃすはともかく、よりによってアクアが同調しているのがその証拠だ。
俺はここ二回のカエルとの戦いで、どうもこの女神、ちっとも使えないんじゃないかと疑っている。
はっきり言ってアクア一人でも厄介なのに、これ以上問題児は抱えきれない……。
よし、決めた。
「そっかー!多分茨の道だろうけどフロンティアスピリッツなら仕方ないよな!応援しているから頑張れよ!お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに着いたら今回の報酬を山分けにしよう。また機会があればどこかで会う事もあるだろ-っ!?」
不意に俺を摑んでいるめぐみんの手に力が込められた
「ふ……我が望みは爆裂魔法を放つ事のみ。報酬などおまけに過ぎず、なんなら無報酬でもいいと考えています。そう……アークウィザードの強大な力が、今なら食費と雑費だけで……これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか……!」
「いやいやいや!その強大な力は俺達みたいな駆け出しの弱小パーティーには宝の持ち腐れだ。ほら、俺なんか最弱職の冒険者なんだからさ」
「必死だなー……」
俺はそう言いながら、ギルドに着いたらすぐに追い出せるように、必死でしがみついてくるめぐみんの手を緩めようとする。
が、その俺の手をめぐみんが摑んで放さない。
「いえいえいえ!弱小でも駆け出しでも大丈夫です。私は上級職ですけどまだまだレベル6の駆け出しですから」
「オメー卒業してからあれだけ時間あったのにまだ6かよ……」
「みんちゃすは黙っててください!……もう少しレベルが上がれば、きっと魔法使っても倒れなくなりますから。ですから、ね?私の手を引き剝がそうとしないで欲しいです!」
「いやいやいやいや!一日一発しか使えない魔法使いとか無いわー!」
くっ、こいつ魔法使いのくせに意外な握力をっ……!みんちゃすといいこの世界の魔法使いは、ちょっと逞し過ぎやしないか!?
「おい放せ!お前多分ほかのパーティーにも捨てられた口だろ!放せって!というかダンジョンにでも潜った際には爆裂魔法なんて狭いじゃ使えないし、いよいよ役立たずだろ!ちゃんと今回の報酬はやるから手を放せぇぇぇっ!」
「見捨てないでください!もうどこのパーティーも拾ってくれないのです!ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします!なんだったらみんちゃすも一緒にカズマのパーティーに加わりますから!」
「……え?マジで?」
「…………あ‘’?」
めぐみんの苦し紛れの提案に、俺はどうしようか選択に悩む。
先ほどめぐみんを遥か上空にぶん投げたり、落ちてきためぐみんを楽々キャッチしたりと、(アークウィザードとしてそれで良いのかと問いたくなるが)みんちゃすの身体能力はとんでもなく高い。それに加えて俺を助けたときに、強力な魔法を使ってカエル共を瞬殺していたので、めぐみんとは違って真っ当なアークウィザードとしても優秀なのだろう。
多少性格に難がありそうだが、足手まとい二人分を補って余りあるスペックだろうし、ここは了承しておこうか……。
と、そんな感じに俺が熟考していると、両の眼を輝かせたみんちゃすが俺のもとに近寄り、まためぐみんの顔にアイアンクローをかけた。
「痛たたたたた!?みんちゃす割れる!?今度こそ頭が割れちゃいます!?」
「いっそ割れちまえこんなスッカスカの頭。承諾も得ないまま俺を巻き込みやがって……オメー以前も似たようなことして俺の怒りを買ったよな?学習能力無いのか?オメーの脳みそはところてんスライムか何かか?少しでもマシになるようゴブリンの脳みそと取り替えてやろうか?んー?」
「ごめんなさい!謝りますから顔を掴んだまま激しくシェイクしないでください!せっかく摂取したカロリーが全部出ちゃいます!」
……俺もう帰っていいかな?
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