【第1章】第1話:パーティー結成!①

【sideカズマ】


俺こと佐藤和真は、魔王の脅威とやらから人々を守るため、日本からこの世界へと転生した勇者候補である。

元々は平和な日本で自宅警備員生活を優雅に満喫していたが、とある不幸な出来事が原因で命を落としてしまい、水を司る女神を自称する女・アクアの提案でこの世界に転生した……のだが、やはり魔王討伐など安易に引き受けなければよかったと既に後悔しつつある。

というのも、こちらの世界に転生する際に一つだけ転生特典として、強力な装備やら能力やらのチートを貰えることになっているのだが、俺の死因を馬鹿にしたり「お前みたいなニートには何も期待してねーからはよ選べ」とほざいたり等、やたら舐め腐った態度の駄女神アクアに苛立ち、復讐もかねてアクアを転生特典として選び、天界からこの世界に引きずり落としてやった。

俺が後悔しつつある原因は、まさにこの駄女神が大きなウエイトを占めている。流石は女神というべきか、そこそこ高い知力とかなり高い幸運以外が凡庸で、最弱職の《冒険者》にしか就けなかった俺と違い、(運と知力以外)とんでもなく高いステータスをしていたこいつはいきなり上級職アークプリーストに着き冒険者ギルドから手厚い歓迎を受けていた。……が、初クエストであるジャイアントトード討伐の際、期待の新星アークプリースト様は一切活躍することなくカエルに食われ、全身ヌルヌルになって敗走するという苦過ぎるデビューで終わったとさ……うん、この女神思ってた100倍は使えねぇ。


「アレね。二人じゃ無理だわ。仲間を募集しましょう!」

街に帰還した俺達は真っ先に大衆浴場に行って汚れを落とし、冒険者ギルドにてカエルもも肉の唐揚げを食いながら作戦会議をしていた。

ここ冒険者ギルドは冒険者達の待ち合わせや溜まり場としても使われていて、討伐したモンスターの買い取りと、モンスター料理がウリの大きな酒場が併設されている。

今日はカエル二匹の肉が手に入った(アクアが食われている間に俺が狩った。補食中のジャイアントトードはこの上なく無防備なのだ)ので、ギルドへカエル肉を売りそこそこの小遣いになった。

あんな巨大なカエルはとても俺達二人じゃ運べない(ステータスの高いアクアなら可能かもしれないが、流石に全身ヌルヌルで意気消沈していた奴に運ばせるのは気が引ける)。だけどギルドの人に頼むと倒したモンスターの移送サービスを行ってくれるそうだ。

カエル一匹の引き取り価格は、移送サービス込みで五千エリス(アクア曰く、1エリス=1円と考えていいらしい)。

ハッキリ言って、転生したてで最低限の装備を整えるためやっていた土木作業のバイトの給料と、稼ぎがあまり変わらないことが分かった。

しかしちょっと硬いがカエルの唐揚げが意外にイケるのが驚きだ。この世界に来た当初はトカゲやカエルに抵抗があったが、定食として出され食べてみると意外と美味い物が多い。

……目の前の女神(笑)はどんな食べ物でも、一切の躊躇なくモリモリ食べていたが。

「でもなあ……仲間ったって駆け出しでロクな装備もない俺達と、パーティー組んでくれる奴なんかいると思うか?」

口一杯にカエルのもも肉を頰張ったアクアは、手にしたフォークを左右に振った。

「ふぉのわたひがいるんだはら」

「飲み込め!飲み込んでから喋れ」

口の中の物をゴクリと飲み込み、

「この私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐよ。なにせ私は最上級職のアークプリーストよ?あらゆる回復魔法が使えるし、補助魔法に毒や麻痺なんかの治癒、蘇生だってお手の物。どこのパーティーも喉から手が出るぐらい欲しいに決まってるじゃない。カズマのせいで地上に墜とされ、本来の力からは程遠い状態とはいえ、仮にも女が…、コホンッ!このアクア様よ?ちょろっと募集かければ『お願いですから連れてってください』って輩が山ほどいるわ!分かったら、カエルの唐揚げもう一つよこしなさいよ!」

と言って俺の皿から唐揚げを奪い取る自称女神を、俺は不安気に眺めていた。









翌日の、冒険者ギルドにて。

「……………来ないわね……」

 アクアが寂しそうに呟いた。

求人の張り紙を出した俺達は、冒険者ギルドの片隅にあるテーブルで、すでに半日以上も未来の英雄候補を待ち続けているが、どうやら張り紙が他の冒険者に見てもらえていない訳ではないらしい。

俺達以外にもパーティー募集をしている冒険者はそこそこいる。だがその人達は次々と面接をして、何やら談笑した後どこかに連れだって行った。

誰も来ない理由はわかっている。

「……なあ、ハードル下げようぜ。目的は魔王討伐だから、仕方ないっちゃ仕方ないんだが……。流石に、上級職のみ募集してますってのは厳しいだろ。というかここ駆け出しの町なんだろ?上級職の奴なんてホイホイいるわけないだろ」

「うう……。だってだって……」

上級職は普通の人間ではそうそう就けない、言ってみれば勇者候補らしい。

当然、そんな勇者候補は既に他のパーティーで優遇されている訳で……そもそもそんな凄い奴等がいつまでも最初の町でウロウロしているわけがない。高い能力を持った奴は大抵、奴は背負った期待もまた高いのだ。カンダタを瞬殺できるくらい強い勇者がいつまでもアリアハンから出発しないでウロチョロしてたら、どれだけ寛大な王様だって間違いなくぶちギレるだろう。

アクアは魔王を討伐するために、できるだけ強力な人材で固めたいところなのだろうが……

「このままじゃ一人も来ないぞ?だいたいお前は上級職かも知れんが俺は最弱職なんだ。周りがいきなりエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなる。ちょっと、募集のハードル下げて……」

俺がそう言って、立ち上がろうとした時だった。


「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」


どことなく気怠げな、眠そうな赤い瞳。そして黒くしっとりとした質感の、肩口まで届くか届かないかの長さの髪。

俺達に声をかけてきたのは、黒マントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、トンガリ帽子まで被った、典型的な魔法使いの少女だった。

まるで人形の様に整った顔をした……………ロリっ子である。

この世界では子供が働いているのも別に珍しくは無いようだがそれにしたって……。

どう考えても12~13歳くらいにしか見えない、片目を眼帯で隠した小柄で細身なその少女は、突然バサッとマントを翻し、


「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」


…………ええと、ここ笑うとこ?

「…………冷やかしに来たのか?」

「ち、ちがわい!」

女の子の自己紹介に思わず突っ込んだ俺に、その子は慌てて否定する。

……いや、めぐみんってなんだ。

「その赤い瞳……もしかして、あなた紅魔族?」

アクアの問いにその子はこくりと頷くと、アクアに自分の冒険者カードを手渡した。

「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕くぅぅぅ……。……という訳で、優秀な魔法使いはいりませんか?……そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べていないのです。できれば面接の前に何か食べさせては頂けませんか……」

めぐみんはそう言って悲しげな瞳でじっと見てきた。それと同時にめぐみんの腹の辺りからキューと切ない音が鳴る。

「……飯を奢るぐらい構わないけどさ。その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしているのなら、こいつに治してもらったらどうだ?こいつ、回復魔法だけは得意だから」

「だけ!?」

絶句するアクアはとりあえずスルーで。

「……ふっ。これは我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムであり……。もしこれが外される事があれば……。その時は、この世に大いなる災厄がもたらされるだろう……」

「封印……みたいなものか……!」

「まあ噓ですが。単に、オシャレで着けているだけ……あっあっ、ごめんなさい、引っ張らないでください!やめっ、ヤメロォォォ!?」

とんだ肩透かしを喰らった腹いせに、俺はめぐみんの眼帯を力の限り引っ張る。

「……ええと。カズマに説明すると、彼女達紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は、名前の由来となっている特徴的な紅い瞳と……。そして、それぞれが変な名前を持っているの」

「へー」

感心しながら俺は眼帯から手を離す。

「ア‘’ッーーー!?いったい目がぁああーーー!?」

反動で戻った眼帯で眼を強打し、激しい動作で身悶えるめぐみん。

「悪い悪い、からかってるのかと思った。変な眼帯してるし、変な名前だし」

眼のダメージから立ち直っためぐみんは、恨みがましい目で俺を睨みながら、

「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人達の方が変な名前をしていると思うのです」

「……ちなみに、両親の名前を聞いてもいいか?」

「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー!」

「「…………」」

思わず閉口する俺とアクア。

「…………この子の種族はすごい魔法使いが多いんだよな?仲間にしてもいいか?」

「おい、私の両親の名前について言いたい事があるなら聞こうじゃないか」

俺に顔を近付けてくるめぐみんに、アクアが冒険者カードを返す。

「いーんじゃない?冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い《アークウィザード》で間違いないわ。カードにも高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄い事よ? 爆裂魔法は習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

「おい。この子とか彼女ではなく、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい」

抗議してくるめぐみんに、俺は店のメニューを手渡した。

「まあとりあえず何か頼めよ。俺はカズマ。こいつはアクアだ。よろしくな、

めぐみんは何か言いたそうな顔をしながら、無言でメニューを手に取った。






「爆裂魔法は最強の魔法ですが、その分魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が終わるまであのカエルの足止めをお願いします」

俺達は満腹になっためぐみんを連れ、あのジャイアントトードにリベンジに来ていた。

平原の遠く離れた場所には一匹のカエルの姿。そいつはこちらに気付いて向かって来ていた。

……しかし更に逆方向からも、別のカエルがこちらに向かう姿が見える。

「遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。近い方は……。おい、行くぞアクア。今度こそリベンジだ。お前、一応は元なんたらなんだろ?たまには元なんたらの実力を見せてみろ」

「元って何!?ちゃんと現在進行形で女神よ私は!アークプリーストは仮の姿よぉ!」

涙目で俺の首を絞めようとしてくる自称女神を、めぐみんが不思議そうにまじまじと見る。

「……女神?」

「を自称している可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」

俺の言葉に同情の目でアクアを見るめぐみん。涙目になったアクアが、拳を握ってヤケクソ気味に、近い方のカエルへと駆け出した。

「何よ、打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ!見てなさいよカズマ!今のところ活躍してない私だけど、今日こそはっ!

……いくわよ、ゴッドブロー!ゴッドブローとは!女神の怒りと哀しみを乗せた必殺の拳!相手は死ぬ-むぎゃばっ!?」

見事カエルの体内へ侵入する事に成功した学習能力の無いアクアが、そのまま一匹のカエルを足止めする。流石は女神、身を挺して時間稼ぎをしてくれているらしい。

……と、めぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。めぐみんが使おうとしている魔法がヤバそうなことは、魔法を知らない俺でも分かった。魔法を唱えるめぐみんの声が大きくなり、めぐみんのこめかみに一筋の汗が伝う。


「黒より黒く闇より暗き漆黒に、

我が深紅の混淆を望みたもう。

覚醒のとき来たれり。

無謬の境界に落ちし理、

無行の歪みとなりて現出せよ!

踊れ…!踊れ…!!…踊れ!!!

我が力の奔流に望むは崩壊なり!

並ぶ者なき崩壊なり!

万象等しく灰塵に帰し、

深淵より来たれ!」


めぐみんの杖の先に光が灯る。膨大な光をギュッと凝縮したような、とても眩しいが小さな光。


「これが…人類最大の攻撃手段!これこそが…究極の攻撃魔法!」


めぐみんが紅い瞳を鮮やかに輝かせ、カッと見開いた。


「『エクスプロージョン』ッッッ!」


平原に一筋の閃光が走り抜ける。

めぐみんの杖の先から放たれたその光は、遠く、こちらに接近してくるカエルに吸い込まれる様に突き刺さると……!

その直後、凶悪な魔法の効果が現れた。

目も眩む強烈な光、そして辺りの空気を震わせる轟音と共に、カエルは爆裂四散した。

凄まじい爆風に吹き飛ばされそうになりながらも、俺は足を踏ん張り顔を庇う。

爆煙が晴れると、カエルのいた場所には20メートル以上のクレーターができており、その爆発の凄まじさを物語っていた。

「……すっげー。これが魔法か……」

俺がめぐみんの魔法の威力に感動している、その時。魔法の音と衝撃で目覚めでもしたのか、一匹のカエルが地中からのそりと這い出た。

雨も降っていない上に水源もないこの平原で、太陽の下、このカエル達はどうやって乾かずに生存できているのだろうと思っていたが、地中とは予想外だ。カエルはめぐみんの近くに這い出ようとしているが、その動作は非常に遅い。

この隙にめぐみんと共にカエルから距離を取り、先程の爆裂魔法で消し飛ばしてもらえばいいだろう。

「めぐみん!一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

そこまで言いかけてめぐみんの方を向くと同時、俺はそのまま動きを止める。


そこにはめぐみんが倒れていた。

…………え?


「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……ひあっ……!?」

倒れ伏したままめぐみんは無抵抗にカエルにムシャムシャと……っておい!?

「おおお前らぁぁあああ!食われてんじゃねぇぇえええ!?」

二人を補食中のカエル達はやはり一切無抵抗を貫き、簡単に倒すことができた。

「ハァッ……ハァッ……い、色々あったが、なんとかこれで合計五匹討伐したな。さっさとアクア達を助け出して引き上げ………………マジですか?」

フラグめいた発言に引き寄せられたのか、俺を取り囲むように地中からさらに五匹のカエルが這い出てきた。背中に冷たい汗が止めどなく吹き出す。

マズい……アクア達を引きずりだして最終手段の囮作戦をしようにも、餌の数が-って一斉に来たぁぁあああ!?

「うわぁあぁ待って待って!?お願いしますタンマ、ちょっとタンマ-ぁああぁあああもうダメだぁああ!」

全滅を覚悟したその瞬間-


「大般若鬼哭爪・雷撃」


バチバチとスパークするような轟音とともに、突如現れた一筋の光がカエルの周囲を駆け回り、次の瞬間には全てのカエルが息絶えていた。

「何か聴き覚えのあるバカでけー音がしたから、いったい何事かとわざわざ様子を見に来てみれば……情けねーな、オメーそれでも冒険者かー?」

間延びした能天気な声のする方を向くと、めぐみんのものと同系統の魔法使い用の黒いローブを身に纏い、左右の腕に赤と青の包帯を巻き付けた、ツヤツヤした綺麗な黒髪で左右で色の違う眼をした、非常に小柄な顔立ちの整った少年が、眠そうな目で呆れたようにこちらを見ていた。イケメンはすべからく死すべしと常日頃思っている俺だが……流石にめぐみんよりも年下っぽい子、それも命の恩人をやっかむのはちょっとなぁ……。


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