あるいは俺の飛躍した妄想

@pusk

 第1話

 手錠をかけられ、車に乗せられた。揺れる車内で過去を振り返ってみる。

 幼い頃に両親を亡くした俺は唯一の親戚である祖父の家に引き取られることになった。だが祖父一人では俺の生活費まで補うことができず、働くことのできない俺は定期的に盗みに入っていた。まあ、それで欲が出すぎたってことだ。

 「チッ......クソッ...」

 ここまで数年間盗みを行ってきて多少の自信はあったつもりだったんだが、いざ捕まる時は呆気ないものだ。

 窃盗罪はそれほど重くない印象があるが、なにしろ数が数だ。それなりの刑期はくらうだろう。幸いか否か、俺がいなくなっても悲しむ人はいない。育ててくれた

祖父は昨年逝ってしまった。死因はわかっていない。警察からは何らかの事故に巻き込まれた可能性が高いと説明された。

 「まあ、これはこれで......」

 こんな人生を続けることに辟易していた俺は常に諦める理由を探していた。そう見ればこれは丁度よかったのかもしれない。

 「.........なあこれどこ向かってんだ?署ってこんなとこにあんのか?」

 ふとさっきから代わり映えのない、続く山道に疑問を感じ、同乗していた警察官に尋ねてみる。

 「もう少しで着く。黙ってろ」

 「...............」

 聞いた旨とは違うことを答えられ、一気に冷めた俺は言われた通り黙っていることにした。

 もう少しと言ったわりには案外長い道のりを越えてようやく目的地に着いた

らしい。先導されて降りた俺はその建物を見て息を呑んだ。

 「なんだ......これ......」

 それはおれの頭の中にある"警察署"とは大きくかけ離れた外見を持っていた。

......目が痛くなるような白一色。周りの深い緑のせいでより一層"異物感"が増していた。

 「行くぞ」

 呆気にとられているおれを尻目に先程の添乗員と運転手が俺を先導し、中に入った。

 異様な雰囲気をもった建造物の中は単調な構造の繰り返しで、道を示されなければ確実に迷っていた。しばらく歩き、俺は個室に入れられた。硬そうなベッドと簡易的なトイレといった必要最低限のものが狭い空間に詰められたいわゆる懲罰房みたいなところだ。

 「これから来る奴が状況を説明してくれる。お前にもわかっててもらわなきゃならん」

 「......?...よくわからんけどあんたが説明するんじゃ駄目なのか?」

 「私はやることがある。ちゃんと話を聞いておけよ」

 それだけいうと先の添乗員は去っていった。

 「...状況を説明......?説明されることなんてあるのか......?」

 スペックの低い俺の頭で考えた結果、一つの答えに行き着く。"普通の状況ではない。"......自分で言っておいて頭を抱える。

 「そんな当たり前のことしか思い付かないのか......俺は......」

 「君か?さっき説明しろと言われたんだが......」

 自分の頭に絶望していたところ、扉についた鉄格子から問いかけてくる人影があった。

 「ああ、それ多分俺......で、なにを説明されるんだ?」

 「話が速くて助かる。では、君から聞いてくるといい。疑問に思ったことがいくつかあるんじゃないか?そうすれば私も話しやすい」

 「じゃ、そうさせてもらう。......まず、この建物はなんなんだ?何のために造られた?」

 「フフ.........少し悪いことをしたな。......君が抱いてる全ての疑問に対する答えは多分同じだろう。」

 「......どういうことだ?」

 「順を追って説明しよう。まず、世間に公表されていない世界的なニュースからだ。昨年の初めに科学では説明のつかない生物、現象、概念の存在が初めて確認された。今はまだ数が少ないが、これから増えると推測される。そして次......」

 「ちょちょちょ、待ってくれ。その......生物、現象、なんちゃらってのは一体何なんだ?」

 「そのままの意味だが?科学で説明できない事象のことだ。今確認されているものの中から具体的な特徴を言うと、単純に、ぬいぐるみが動いたり、無限に増えたりといった非現実的なことだ」

 「.........はっ?」

 「大丈夫か?続けるぞ?......さっきの続きだが、この建物の建造目的は今言ったような非現実的要素を含む主に生物、または現象、概念を収容することだ。また、何故一年足らずでこんな巨大な建築が裏で造られたのかというと、まず、このような事象の存在が国民に知られたらパニックになることを国が想定して表立って公表せず、極秘で造られたというわけだ。国の様々な重要機関にもこのことは知られている。なんにせよ、最高機密だがな」

 「......つまり俺はもう帰れないってこと?」

 「鋭いな。そういうことになる。ついでに言うと、お前の顔はもう指名手配されていて脱走しても平穏には暮らせないようにしてある。と言ってもお前は戻りたくは無いだろう?」

 「そういうことを加味して俺を選んだわけか。よく調べられているんだな。

.........そういえばそいつらってどこで見つかったんだ?それによくそんなのを捕らえられたな」

 「詳細は私も聞かされていないんだが、発見された場所は様々で一貫性はみられないらしい。方法についてだが、何事もなく無事に......という風には、いっていない。最初に発見された奴を収容するとき、2名の死者が出た。一人は私の同期で、もう一人は一般人だ。やつら関連の物事は公にできないため、警察と協力して死は偽装した。また、あの時現場を見たものも記憶改竄を施して事件として処理されないようにした」

 「それ相当まずいことしてるな」

 「国民のためだ。仕方ない。.........そうだ、重要なことを忘れていた」

 「なんだ?」

 「お前の役割についてだが、今収容されているやつらに対して実検体となってもらう。運が良ければ生き残れるかもな」

 「.........え?」

 「このような事態前例がないのでな、最悪の事態を想定して後々生かすデータを取っておきたい。我々はまだやつらのことを知らなすぎるからな。いま収容できているのが不思議な位だ」

 「お、俺がやらなくちゃいけないことなのか?それ......」

 「何のためにお前が捕まるのを待っていたと思ってる?犯罪者だからできるんだよ、犯罪者だからな」

 「俺はただ物を盗んだだけだ!世の中には人を殺した奴がわんさかいるだろ!」

 「五十歩百歩って聞いたこと無いか?犯罪は犯罪なんだ。それに......ほら、運がよければ生き残れるって言っただろ?」

 「ふざけるな!俺はやらないぞ!そんなこと」

 「まあまあ、世の中の為と割り切ってくれ。お前に残された道はこれしか無いんだから。刑務所の中で無駄死にするより、人の役に立つような死にかたの方がいいだろ?」

 「知るかよ、そんなこと.........」

 「まあ、明日やってもらうから気を引き締めておいてくれ」

 そういって彼は去っていった。......最後の衝撃に頭が真っ白になっていたが、そこにただ漠然と怒りが込み上げてきた。

 「クソッッ.........」

 一人ドアを叩いた。

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