暗闇の螺旋階段


ー君は美化しているんだよー


ー他にも良い人たくさんいるからー


どうしても悔しい。

一途に頑張って、たった一人の相手に気持ちを伝えたのに伝えた側の気持ちを誤魔化されながら振られたのは辛かった。

不安が山積し、落ち着かない。眠れない。

私はベッドに横たわって苦しみつつも夢を想像して少しでも心を落ちつかせようとしたが、私がどんな体勢であろうと涙は重力に従って下向きへ落ちていくのだった。

私は心の病気を患ってからは連絡先全て消して家族以外は誰もいなかったのだが、最近は一人の男性が私のテリトリーに入ってきた。

いつの間にか私の手はスマホに乗っかっており、おそらく阿部さんに助けを求めているのではないかと思ってしまった。

こんなに面倒くさい人だと知ったらどう思うかな。

どんなに優しくされても言えるわけがない。


::::::::::::::


病院には雨音が入り込み一滴一滴の音が秀秋を初恋の相手の心から爪はじきするように気持ちへ追い討ちをかけた。

藤原先生は秀秋の相当萎えた表情を見て驚いた。


(林くんの精神病は治すことは厳しいのだが、これまでの状態から考えて悪化するとは思えない。)


「林くん、昨日の釣りで何かあったのかな?安賀多さん呼ぶかい?」


「いいえ。釣りはすごく楽しかったです。初めての事がたくさんで…」


藤原先生は鋭く見抜いた。


(誰かと楽しいことをする事と表裏一体で一途な林くんの性格から罪悪感が浮かび上がってきているんだろう。原因は恋だったはずだ。彼はお人好しだったから…。)


「悩みをぐるぐると掻き回しているんだね。勇敢に何度も同じ難問、ジレンマと戦うが終わりはどうしても出せないねぇ…」


「辛いです。あの人(初恋)は大人だから、バレンタインデーとかクリスマスがきっかけで誰か僕が知らない人と幸せになってるのかもしれないし、既にいるのかもしれない…。怖いです。」


萎えた表情に目の下のくまが加わって大分雰囲気も顔色も違い、肌は少し荒れている。

これは眠れていないか、夜は寝られずに朝にやっと睡魔が襲ってきて遅れて寝た結果だろう。昼と夜が逆転する症状もある。


(自殺の予兆だ。あの時と同じだ。林くんは心を傷つけられたか、解決できない問題を抱えてそれが鎖になっているかと言ったら後者の方だ。これはまずい。)


「今日はもう、帰ろうかな。」


「待って。カウンセリングは一応行ってほしいんだが。」


藤原先生はすぐに秀秋を引き留めるのだが、今の彼は何をしても効果が無いと考えてしまっている。


「変わらないと思う。同じことの繰り返しだよ。今日は家で休ませて。」


最後の言葉はすんなりと帰らせてもらうための口実であることが伺える。

しかし、ここで引き留めれば彼は苛々が募るだけで私は精神病に一杯食わされたと思わざるを得ない。急激な変化に対応できなかった。散歩から連絡先の交換や釣りまで行けるようになった事に対して過度に安心をしてしまった。


「分かったけど、今の君は危険だから親に迎えに来てもらうよ。家族とも上手くはいっていないだろうけど足だけは貰った方がいい。」


藤原先生は両親に林くんの部屋に勝手にしつこく入って偽善的に相談に乗るように見せかけて一方的に綺麗事スピーチ大会をする行為には特に注意をしておいた。

彼は親のそういうところが吐き気を催すくらい嫌いなのだ。

彼の親は彼が少年期にいじめられても「無視しときなさい」の一言で、不登校になろうとすれば「甘えるな」と怒鳴り散らし、学校の話をすれば「勉強して」と話も聞いてやらなかった。

その結果、彼は高校生になって塞ぎ込み、あまりしゃべらなくなった。

母はいつもの秀秋ではない元気な秀秋じゃないのが嫌だからという理由で、一人でいたいからこそ布団にくるまっている林くんにしつこく「元に戻って。元の元気だった秀秋に戻ろう?昔みたいにお話ししよう?」と建前は元気付けで、本音はなかった事であってくれという願望をただ一方的に彼にぶつけていた。

その元気であった時に彼に精神虐待をしたのはどこの誰なんだか。

少々彼の母はドラマに感化され過ぎており、彼を元気付けようと話す言葉もドラマで聞いたようなセリフばかりで林くんはずっとこういう事を毎日されて相当ストレスだっただろう。

一般的な家庭であれば家族が支え合うのが治療方法の一つなのだが、あの両親と林くんが組むのは無理だ。両親は反省している"だけ"で特に案もない訳だし、林くん自身がもう家族が嫌いなのだ。というより合わないのだ。

精神虐待を受けた子は家族との関係以前に人としての関係が崩壊しているため仲良くさせることはいじめっ子といじめられっ子を無理やり仲良くさせることと等しい。

これから本格的に治療をしなければならない。

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