一方通行でした
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三度目の都会で私はもうさすがに彼は居ないだろうと踏んでいた。少し違った経験があってもいいではないかと自身を安堵させるが、また時は止まったー。
「(懲りないな。同じことを毎日し続けて俺よりもつまらないでしょうに。)」
私はいつもより近くへ寄っていた。直接やりとりは無くとも街路樹を囲むレンガに座るだけで自身の進歩を感じる。そう思った矢先、上を向いて木を眺める彼の額にまだ碧く幼いはずの葉が落ちてきた。私は彼になったような気分で目を細めて突然のできごとに抵抗してしまった。
「あっ・・・ははぁ…」
彼は少し貫禄があるというより寛容さを感じる落ち着いた声を漏らした。
ー林くん、話しかけるチャンスですよ。ー
一瞬のうちに藤原先生の声が一寸の光のように脳裏を過ぎった。私はまだここまでなら間に合うと感じ、気を遣うだけでもして見ることにした。
「だ、大丈夫ですか」
私はできてそのくらいだったが、表情だけは苦笑いで突然のできごとを共有するように投げかけた。彼は無表情から澄ました顔に変え、同じ分を私に返す。
「大丈夫です」
少しの間だったが、私は世界が広がった気がしてとても嬉しかった。ここから何かをミスしたとしてもまた藤原先生のあのセリフが過るんだろうな。とは言え、ここで途切らせてしまえば二度と話しかけることはできないだろう。
「最近自分もここ通るんですが、何度か葉を眺めている姿を見受けました。」
話は普通に続いているかのように私は話しても違和感の無いと考えた情報を振ってみる。
「そうだったんですね。お恥ずかしいところをお見せしてしまいまして…」
ここで短い答えが返ってきてしまえばどうすることもできなかったが、相手側から話を延長させてくれることには内心感謝しかない。この機械を無駄にするつもりもないが自身の行動はこれから無駄になることばかりだろう。過去の自分がそうだったのだから。
「どうして葉を見てるんですか?」
一番気になることを聞くことに繋げられたので人と接するのが苦手な私でもこれだけで十分満たされた。自身の成長を感取することに口角が上がる。
「葉を見ているように見えますか?」
「はい。」
これだけは私が頑張る必要がなかった。
「私は樹形図を見ていました。」
返答を疑った。私には理解し得ない感性で私は動揺を隠しながら同調することはできなくとも会話だけはしていくことにするのだった。
「あ、枝分かれするのですよね。学校で習いました 」
「そうそう。学生さんなんだ」
相変わらずの澄まし顔で今度は私の方を向いて話してくれた。接することができたということを改めて感じるが、今の質問には少し答えづらい。
「う、うーん。訳あり学生。」
「何それ」
ふっと声を漏らす笑い声と一緒に弓のように笑った顔で彼は答えた。私と彼は同調していないが会話をしている。私は返せる答えを直ちに考えて返す。
「色々あって…すみません」
「あれっ。学生さんならどうしてこんな時間にここに…」
今までの表情とは違うキョトンとした目で聞かれてしまい、不思議がっていることを感じた。私は立場が逆転したことを自覚し止まってしまう。
「あっ…」
下を向き、口で手を軽く抑え何かを察したような構えをする彼に参ってしまった私は
ー走って逃げろー
藤原先生ではなく私の声であったが脳裏には従うべきなのだ
「色々あるんですよ!!色々!お邪魔しました!」
私は顔を赤く染めて一礼をし、遅刻の常習犯の言い訳のように去ってしまった。
もう会話をする必要もない。
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