メロンと呼ばれた男

天照てんてる

第1話 競輪選手になってから

 僕の名前? どうでもいいだろ。

 競輪場に行けば、皆が僕のことを「メロン」と呼ぶよ。

 僕は万年6号車。

 だから、名前なんて要らない。

 メロンでいいんだ。

 だけどいつか、せめてピンクの勝負服で走りたいな。


 今朝も、冷える。

 だけど、街道での練習に力を入れている僕は、寒いなんて言ってられない。

 自宅の練習場でローラーを転がすだけじゃ付かない力を付けに行くんだ。

 だから斡旋がない日は、毎朝3時から愛車で街道を走る。


 街道を走るときだけは、僕はメロンじゃない。

 少なからず応援してくれる人もいるようで、たまに声をかけられる。


 犬の散歩中のおじいちゃんとよく会うんだ。

 犬の名前は、メロン。

 おじいちゃんの名前は、知らない。

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