第2話:いざって言う時に忘れる台本
まだ別のクラスが劇を行っている。つまり俺らのクラスの劇が始まるまで時間がある。
その間、俺は台本を黙読していた。
内容はロミオとジュリエット。大体の話の内容はミュージカルの奴と同じではあるが、いくつかシーンが増えていたり無くなっていたり、設定が省かれていたり、そもそもの話が違くなっていたり、第一部の時点で終わったりしている。時間の都合上が主な原因だ。
当然ではあるが役者のセリフはメイン役であるほどセリフがある。俺がやる役――修道僧ロレンスはメインとは言えないが、それに準するセリフの量がある。
俺はそのセリフをすでに全部覚えている。2,3度ほど読むことで覚えることができた。その理由はそれほどこの劇が好きだから――ではない。その逆、それほどこの劇が嫌いだからだ。
別に俺はロミオとジュリエットが嫌いな訳ではない。ただ、今回の劇の内容が気に食わないのだ。
――特に最後。ロミオとジュリエットの結婚式を行うシーン。副学級長が演じるロミオと、彼女が演じるジュリエットが、俺が演じるロレンスの元に式をあげる。
嫌だ。絶対に嫌だ。何度も何度もやった練習。このシーンに入るたびに胃がひっくり返ったような拒否反応が体中から起こるのだ。
二人は神に永遠を誓い、キスを交わす。実際には触れ合わないし、キスを交わす瞬間には垂れ幕が落ちきっているので、振りでもそこまで真泊したものではない。
だとしても、嫌なものは嫌なのだ。
だから覚えてしまう。こんなシーン、消えてなくなれば良いのにと覚えてしまっていた。自分のセリフどころか、ロミオとジュリエットのセリフを覚えてしまっている。それ以外の小道具の動きなども覚えてしまっている。
だけど何度も読んでいる。読んでしまっている。俺の思い違いではないかと、そんなシーンなんて存在していないんだと思って、台本を確認してしまう。でも内容は覚えているものと全くの同一。確認の意味なんてまるでない。
今回も同じ。俺は台本を開き、パラパラとページをめくるが、やはり全部覚えてしまっている。確認は今回も無駄になりそうだった。
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パチパチとまとまりのない拍手が体育館から鳴った。どうやら先の劇は終わったらしい。
「よし! 動くぞ!」
副学級長の掛け声にクラスメイトは動き出す。
劇はいきなり行うことは出来ない。まず準備が必要だ。前の劇の片づけを行い、その後に俺らの準備を行わなければならない。
しかも時間があまりない。休憩時間15分で行わなければならない。迅速に行動する必要がある。
あわただしく俺らは動く。まずは前のクラスの劇、その片づけを手伝う。前のクラスは桃太郎を行ったらしく大きな桃が外に搬出される。それも3つ。ついでに桃太郎らしき人物が3人出てきた。そのうち一人はモヒカンヘアーで、前のクラスの劇がちょっと気になった。
その次に俺らの準備。部隊係連中が小道具を運ぶ。城の外壁部になる壁を体育館に入れて組み立て始める。
俺のような役者はやる事はあまりない。簡単な打ち合わせを始めて劇の質を高めようと行動する。
「出番の順番はそれぞれ分かっていると思うし、タイムキーパーがいるから出番のすっぽかしもないと思うが念のために確認するぞ」
なんて言って副学級長が話し始める。劇の話をところどころ省略して口に出していく。役者の出番が出るたびに名前を出し、その役がうなずき確認を進める。
「そんで俺が――ロミオが周りを見合わしている時に、」
「私が出れば良いのよね?」
「そうそう! よろしくね」
「ええ」
彼女の出番の確認時、副学級長の返しが苛つく。なんでそんな親しげな言葉を彼女に出すんだ。彼女も彼女だ。なんでそんな笑顔で対応するんだ。そんな奴に――
「んで、場面が移ってお前が出てくるんだけど……おーい?」
「え? ……ああ、ごめん。俺が出れば良いんだよな」
「そうだぞ。ちゃんとしろよ?」
「最悪タイムキーパに引きずってもらうよ」
いけない。いけない。冷静になれ。
我を失ってはいけない。俺が暴走してどうなったか忘れたのか?
冷静に対処しろ。一時的な感情に支配されて、その後の未来を失うな。今後の事を考えて、そんな短小な感情に振り回されるな。
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