第6話:HTML5 & JavaScript
ロミオとジュリエットの役を決めるとき、多数決に用いたのは多数決を行うことが出来るスマホアプリだ。
とても単純なスマホアプリで、必要なスマホは一台だけ。その一台に一人が多数決で手を上げる内容を記入して、次の人に渡していく。
このアプリの良い点は、他人の意見に流されて出てきてしまった意見がない事だ。
一人が入力した内容は他の人には見ることが出来ない。結果が表示されるまでは何も分からないのだ。
この意見があったからこそ、多数決ではこのアプリが採用されたのだ。手を上げて数えた方が明らかに効率が良いのに、このアプリが採用されたのだ。
ただ、そのアプリは副学級長の依頼によって1時間程度で僕が作ったアプリなのだが。
「いやぁ本当に助かったぜ。お前があのアプリを作ってくれてさ」
「……そこまで褒められるような事をしたわけじゃないよ」
今回のアプリはWebブラウザ上で動作する物だ。使うのはHTML5 とJavaScript だけで済むし、制作もPCとかじゃなくてスマホで製作した。
全然大規模ではない小型のアプリで、単独で、それも僕のスマホ上で動作すれば良いので、特に考える事は無くなんとなくで作れてしまう物だ。
たいていの人なら、一週間程度の勉強で製作出来てしまう物なのだコレは。
「いやいや、褒められることをしたんだお前は。俺はあんなの作れっこないからさ。——特に結果を弄る機能は最高だったぜ」
「……」
何故わざわざ多数決アプリを作ったのか。その理由がこれだ。結果を弄って変えることが出来る機能だ。
これを使えばあら不思議。副学級長がすべての役を決めることが出来るのだ。まぁ流石に誰もが「そいつはダメだ」と言うやつを決めれば種に気が付かれるかもしれないが、今回はそんなことは無かった。
ともあれ、この機能を使って副学級長は目当ての人物を、
「だんまりかよ……まぁ良いさ。おかげで目当ての女を落とす絶好の機会が作れたんだからな!」
ジュリエット役にすることが出来たのだ。
@
学校から家への帰り道。周りには人はいない。車のエンジン音すら聞こえない。虫が泣く声しか聞こえない静かな通学路。
いつもなら俺ら二人で話しながら歩き、にこやかな気分になるのだ。なっているのだ。
そして今現在は、
「……」
「……」
沈黙している。いつもなら俺の口から楽し気な声が出ているはずなのに、現在は沈黙している。
彼女も同じだ。何も声が出ていない。沈黙している。
にこやかな空気? そんなものは何処にも無い。気難しい空気が充満している。今日は風が緩やかに吹いているのに、この空気を吹き飛ばしてはくれない。
……原因は分かっている。お互いに話題を出しにくいのだ。
今日のLHRの事だ。あんなことになってしまった際、俺は軽く放心していた。彼女も軽く放心してしまったらしい。
そしてそのまま帰宅となったのだが、お互いに話題を出しにくく何時ものルーチン通りに動いて今に至るのだ。無言でも一緒にそのまま帰ることは出来るのは、彼女との相性が良いという事なのかもしれないヤッターっという気持ちが湧いた。が、それどころじゃない。
このまま無言なのはダメだろう。こういう空気は時間が経つほどに払拭しずらいイメージがある。最初のほうで何とかしておくのが一番良かったと後悔する奴だ。
だからこそ、今、この場で何とかするような、この空気を払拭するような言葉を発するべきなのだ。
目を動かし、彼女の方を見る。
気難しそうな、迷っている表情をしていた。きっと多分、彼女も俺と同じような感情を抱いているのだろう。お互い同じような感情を持っているのだ。
……だったら。こういう時は、出来る彼氏なら、
「今日の事はごめんなさい」
やはり俺が先に言うべきだろう。案の定、声は震えてしまっていた。だけど、この一言が呼び水となったのだろう。言葉があふれてくる。
「俺は嫉妬していたと思うんだ。凄く情けない事なんだけど、その、ロミオに。……空想上の話なのにな。お前が俺とは違う男と一緒になるだけで血を吐きそうな思いだったよ」
あれほど、言い出しずらかった言葉を最後まで言えてしまった。
「だからさ、すごく申し訳ないけど助かったよ。ほら、泣いて心配してくれたこと。あの涙のおかげで俺は正気になれたと思うんだ。泣かしたのは俺なのにな。俺が、俺しか悪い奴はいないのにな」
彼女の方を見ると、
「……」
なんだか恥ずかしそうに、うつむきがちに、プルプルと震えていた。
いったいどうしたんだっと思ったが、少し考えて「しまった!」と後悔した。
そうだよな、自分が悲しんでいるのを見て正気に戻ったっていうのは自分勝手すぎだよな。申し訳ないなんて言葉で消せるほどの事じゃないよな。ぶっちゃけるとしても、余計なことまで言ってしまうのはダメだよな。
すぐに謝るべきだ。
「ごめんなさ「違うのよ!」
俺が謝り切る前に、彼女は大声を出した。
「あれは悲しみから生まれた涙じゃないのよ。喜びから、すごく自分勝手な喜びから生まれた涙なのよ!!」
いつもの様子からは考えられないような大声を出しながら、彼女は泣いていた。
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