学園祭編

前準備

第1話:クラス替え

 夏休みは終わりを迎え、2学期が始まった。

 いつもならば最初に始業式があって、そのあとは普通に授業が始まるものだ。

 だが、今年から学期ごとにクラス替えをしないといけなくなったので、その前にクラス替えが発生した。

 ただ、クラス替えとは言ってもそこまでに大事にはならなかった。

 何故ならほとんどの人たちは関係が無かったからだ。ほとんどの人たちはクラスが変わらなかったからだ。

 理由は簡単だ。学力の差がそこまで変わらなかったのだ。変わらなきゃクラスは変わらない。クラス決めは学力によって決定されているからだ。

 なので、俺が所属していたクラスで移動するのは5人くらいで、そのうちの1人が俺だった。

 荷物をまとめ終わった俺は、クラスの友達に言葉を掛けられた。

「分かっていた事だとはいえ、別れは辛いもんだなぁ……」

「別れって、そんな大したものじゃないだろ。……ただのクラス替えだろ」

「ただのって言うなよ! くそぉ!! さっきからニヤニヤ顔しやがって! そんなに彼女と一緒のクラスになれるのが嬉しいのかよ!!」

「少しは悲しめよ! 俺らとの別れを全力で惜しめ!!」

「俺らの事なんて何も頭の中に残ってないんだろ! 糞が!!」

 ギャーギャーうるさい友達らを後に、俺は荷物を抱えて教室を離れた。


 @


 生まれて初めてかもしれないが、俺は運命という物が実在することを理解した。

 俺の移動先の教室、そこに鎮座する黒板に書かれている席順を見て、俺は運命を感じた。

 それが間違いではないという確信を得るためにもう一度、黒板をじっくりと見る。新しいクラスの席順は名簿順に、廊下側から窓側へ縦に並ばせる方式らしい。

 つまり、これは、本当に!

「俺の横隣りの席が、彼女の席なんだ……!」

 彼女の苗字の頭文字が、俺の苗字の頭文字の50音、1列分ずれていた事による奇跡なのだと理解しながらも、喜びの余り奇声を出しそうになった。

 今すぐにも鼻歌を歌いながら踊りだしたいテンションのまま、指定された席についた。

 席は真ん中らへんよりやや後ろの席であった。かなりの確率で先生の目に付く席で、適当に生徒に質問をぶち当てる時にはかなりの被害を被る席であった。が、どうでも良かった。

 意気揚々と席に座って彼女を待つことにしよう。

 そう思って荷物置いていると俺の名前を呼ぶ声がかかる。

  振り向いて声の主を確認する。彼女だった。

「まさか、隣の席になるなんてね。そうなれば良いと思っていたのだけど、それが正夢になるなんてビックリしたわよ」

「俺もだよ」

 そう言って、幸せそうに席に座る彼女を見ながら、俺は席に座った。


 @


 始業式が終わってからは、学級員決め等の役職決めが始まった。ただ、元々のクラスとあまり変化しなかった為か、役職のほとんどは続投する形となった。

「じゃあ、残る役職は学級長と副学級長だけですが……誰か成りたい人はいますかー!」

 名簿番号が11番というだけで役職決めの導き手になった少年が叫んでいる。

 けど、俺はそれどころじゃなかった。

 俺は机の前に置かれた丸まった紙を見る。

 一見なんも変哲もないペーパーボール。だが、これを俺の席に投げ込んだ犯人は、隣の席の彼女だ。

「……」

 間違いなく、何かある。そんな確信があった。

 しかしこれは何なんだ? 良く分からない。彼女の方へ顔を向けてみるが、彼女は何か意味ありげな笑顔で微笑んでいるだけだ。可愛い……じゃなくて。

 なんとなく、丸められた紙を元の形に戻していく。

 すると紙にはこう書かれていた。

『学級長に立候補してみたら? 私が副をやって支えてあげるから』

 ……何故?

 そう思って、彼女に尋ねようとするが、

「……」

 彼女は口に人差し指を立てて静かにというジェスチャーをとっていた。そしてもう片方の手でシャーペンを指していた。……たぶん口頭では質問するな。質問は紙で、と示しているのだろう。

 俺には学級長をやれるほどの実力は無いぞ、っと紙に書いて渡そうとすると、今度は丸めてというポーズをする彼女の姿が見えたので、丸めて彼女の席へ飛ばした。

 しばらくすると、また紙玉が俺の席に落ちてきた。広げて読む。

『残念。楽しそうだったのに』

 そこに書かれている意味を読み解いている間に、教室が少しざわついた。

 どうやら学級長が決まったらしい。黒板に書かれた名前を読むに、進行役の人が成ったらしい。

「……えーと、それじゃあ学級長は僕が。副は――」

 こうして2学期初日が終わる。

 いつもは玄関でいったん集合してから一緒に帰っていたけど、今は学校が終わった瞬間から一緒に帰る事が可能となって嬉しかった。

 思い返してみれば、紙玉のやり取りも今までのクラスでは出来なかった事だ。それが今現在、可能になったのだ。たまらなく嬉しい。

 俺は幸せ者だと、この時はそう思っていた。

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