第6話:ちなみに中身は石

 祭りの屋台は見ていて飽きない。

 内容の種類はあまりないし被っているものもあるが、見た目がにぎやかで、どのようなモノがあるのかを確認するだけでも楽しい。

 彼女も同じ意見らしく、屋台を見ながらブラブラと一緒に歩いている。

「また、焼きそば屋台ね。これで4件目よ」

「本当だ、値段が600円ってこれまでで一番高いかな?」

「そうね。パックの大きさが一回り大きくなってる分だと思うのだけど、色んなモノを食べる事が多い夏祭りで販売するには、チョット間違っているわね。2件目の300円、小もり焼きそばが一番販売方法として正しいと思うわ」

「……そこまで考えて見てるの疲れない?」

「自然にそう考えちゃうだけよ。疲れないし、むしろ楽しいわね」

 彼女の顔を見ると、なるほど。確かに楽しそうだ。

 俺が見ているのに気づかないのか、彼女は屋台を見ながら話を続ける。

「多分だけど私、こんな感じで物事を考えるのが好きなのよ。どうしてこんな値段設定になっているのかとか、ね」

「へー。何か切っ掛けとかある?」

「んー、たぶん貴方よ」

「俺? 何かしちゃったのか?」

「何で数学の理解が遅いのかとか考えていくうちに気づいたのよ」

「……いつも苦労掛けてゴメンナサイ」

「良いのよ、好きでやってる事だから。あ、でも、もう少し理解度は上がってほしいわね」

「善処します……」

「ふふふ!」

 なんか最近、彼女の俺弄りの頻度が上がってる気がする。

 原因としては1つ思い当たる事がある。うちの妹だ。何故かは知らないが妹は彼女に対して恋愛感情を抱いているらしい。

 そのせいか、俺らがデートしている最中に突然やってきてめちゃくちゃになることが何回もあった。最終的には警察にお世話になったくらいだ。今も警察にお世話になっているので、現在はゆっくりと過ごせている。

 それが彼女にストレスを与えて、俺に当たっている。という推理だ。

 だからこそ、彼女と一緒にゆっくりすることが大切だろう。

「……それよりも、花火何処で見るんだ?」

「何処でも良いわよ。……貴方の隣なら」

「っ!?」

 そう言って彼女は俺の腕に寄りかかる。密着する。柔らかい感触が分かる、分かってしまう。

 そのことを俺の頭が理解すると、顔に血が上って熱くなる。顔が真っ赤になるのが理解できた。

「あら、嬉しくないの?」

「いや嬉しいよ。嬉しいんだけど、恥ずかしい……」

「ふふふ、可愛いわね」

「子供扱いされてそうで、俺は嬉しくないよ」

「じゃあ離れる?」

「……頼む。頭が沸騰しそうなんだ」

「残念」

 そういって彼女は離れる。柔らかい感触は去っていった。

 俺らは再び歩き出す。

「まったく、何時になったら慣れてくれるの? 私はもう少しイチャイチャしながら歩きたいのだけど」

「そうは言ってもな。恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ……」

「それ以上の事をした仲でも?」

「そうなんだよ。周りの目があるっていうのもあるけどさ」

「じゃあ2人っきりなら良いの?」

「まぁ、そうだね。2人なら……ば?」

 少し気になる物を見つけて、視線が固定される。足も自然に止まってしまう。

「どうしたのよ?」

「……あれが少し気になってさ」

 気になった物が置いてあるのは、射的屋だった。そこに置いてあるニンテンドースイッチが気になったのだ。

「……子供なの?」

「否定できないのが辛い……」

「ふふふ、ずっと欲しがっていたの知ってるわよ。お母さんが当ててあげましょうか?」

「……子供扱いは勘弁してくれ」

「冗談よ」

 そう言った彼女は射的屋へ足を動かす。

「まさかと思うけど、本当に当てるつもりなのか?」

「そうだけど? だってずっと欲しかった物でしょ? 持ってたPS4を売って買おうか迷っていたのも知ってるわよ」

 彼女は財布から500円玉を取り出していた。本気だろう。ならば、

「……じゃあ、逆にあそこにあるので欲しいものはないのか?」

「あの、ぬいぐるみとか可愛くて良いなぁって思うけど……何で?」

「それをプレゼントしてあげるよ」

 そう言って屋台人に500円玉を渡し、コルク玉を5つもらう。

 ……大丈夫だ。俺ならできるはずだ。銃の扱いならFPSゲームでさんざんエイム力を鍛えただろう?

 ……こうやって物理的なモノは初めてだけども。

 コルクを手で握る。手汗を含んだコルク玉は銃口の密封性を高めて威力が上がるのだ。(すイエんサー調べ)

 銃口をぬいぐるみへ向ける。

 息を吸い込み、発射。

 その結果——見事、景品を押し倒し手に入れる事が出来た!

「はい、お兄ちゃん。景品のライターね」

「……ありがとうございます」

 目当てのぬいぐるみ、その3つ隣の景品だが。

 手に入れたライターの外装はアルミのような金属でできており、どう見ても女性受けするものではない。

 彼女へのプレゼントには向かないものだ。

「……要る?」

「貴方の物なら何でも嬉しいわ」

「そ、そうか……」

 困惑しながらも、ライターを渡すと、両手で嬉しそうに持った。……とても申し訳ない気持ちになる。

「じゃあ、私もプレゼントをあげないとね」

「いや、しなくても――」

 俺がそう言い切る前に、彼女は500円を払い、5つのコルク玉を貰った。

 彼女はコルク銃を持つ。銃口の先を見るに本当にスイッチを狙っているらしい。

 コルクを入れ、構えて引き金を引く――箱の下の方へ当たったが、若干揺れるだけで落ちない。

 コルクを入れ、構えて引き金を引く――箱の上の方へ当たったが、揺れるだけで落ちない。

 コルクを入れ、構えて引き金を引く――再び箱の上の方へ当たる。まだ揺れている最中だった箱は、更に揺れが激しくなる。

 コルクを入れ、構えて引き金を引く――更に揺れが激しくなった。それも落ちそうなくらいに。

 コルクを入れ、構えて引き金を引く――その前に店主らしき人物が箱を押さえつける。揺れを止めた。

「おっと、お姉さん。揺れている最中の景品に玉を打っちゃいけないぞ」

「……」

 彼女は引き金を引く――店主のデコに当たった。

「いたっ!」

「行きましょう」

「お、おう……」

 頭を押さえながら唸る店主を背に、俺たちは屋台を出て行った。

 彼女の行為はびっくりしたが、正直店主が悪いと思っているので罪悪感とかは無かった。


 @


 出て行った後は、再び屋台巡りへ戻った。

 途中でチョコバナナとか買いながらも、ゆっくりと回る。

 そうしていると、周りが少しずつ暗くなってきた。屋台の電灯が消され始めてきたのだ。

「……周りが見えにくいな。足踏んだらごめんよ」

「大丈夫よ、その前に避けるから。私は夜目が利くのよ」

「はは、なんだよそれ」

「しかし、本当に暗くなってきたわね。……花火がそろそろ上がるのかしら?」

「あ、そうか。明るいと花火が良く見えないよな」

 そう思っていると、急に前方が騒ぎ始めた。

「——おい! 人が倒れたぞ!!」

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