第3話:色男くん

 入学式が終わり、昼休み。

 俺は友達がいる教室へお邪魔し、一緒に昼飯を食べていた。

「そういえば、クラスに話せる人は居た?」

「……え、ああ。席の隣の人が中学1年の時、同じ委員会の人だった」

「はー、良いなーそれ。僕の周りはみんな他中の人しか居なかったよ」

「ふーん……」

 友達とはしゃべりながら食べていたが、俺の頭の中には彼女の事しかなかった。

 友達が投げかけてくる会話を適当にふんふん言って流していく。そんな会話よりも彼女を考えてしまう。

 彼女のマイク越しに聞いた声。何メートル後方から離れて見た姿。お辞儀、去っていく姿。そればっかり。

 そんな態度をし続けたせいだろうか。友達が段々と不思議そうな顔を表示するようになってくる。

「……なんか反応が悪くない? そんなに僕との会話がつまらない?」

「あ、いや、な。俺は今、つい別の事を考えちゃうんだよわ」

「なんか言語機能がバグってない? それほど、その別の事を考えちゃうって事だね」

「まぁそうだな。さっきからそればっかり、だ」

「へー!」

 友達が箸を弁当の上に置いた。弁当箱の中身はまだある。食べ終わったわけではないらしい。

 と思うと友達がこちらを向いた。目が輝いている。興味のベクトルが俺に向いている感じだ。

「それって、どんな事なん?」

「……入学式あったじゃん。その一年生代表について考えてた」

「あー美人だったよね。まさか、一目ぼれしちゃったの?」

「……そのまさかかもしれない」

「ありゃま、身の丈に合わない恋をしたなぁ」

「身の丈に合わないとか言うなよ」

 少しむっと来る。

「うわぁ、怖い顔をしないでよ。事実じゃないか。相手は学年1位。君は1番下のクラス……わぁ身の丈に合わない」

「……じゃあどうしろって言うんだよ!」

 思わず叫んでしまい、周りからの注目を集めてしまう。視線が痛い。「ごめんなさい」っと頭を下げて、再び友達に目線を合わせると、友達は話す。

「うん、ならば同じくらい頭が良くなれば良いんじゃない?」

「は?」

「この高校ってさ、成績でクラスわけるよね。なら頭良くなれば来年は同じクラスになれるじゃん」

「……1番上の成績分かったうえで行ってるのか?」

「知ってるよ。上は偏差値70台。下は40台。だよね」

「なら無理だと分かる」

「じゃあもう彼女と会う事は無理じゃないかな。実はさ、聞いちゃったんだよ。彼女は部活をやったりはしない子だって。なら同じクラスじゃないとそもそも話せたりもしないよ。恋人になる以前の問題だね」

「会いに行けば良いじゃないか」

「どういう接点で? 君には彼女と付き合えるような接点はないじゃないか」

 それを言われた瞬間。感情が揺らいだ気がした。視界が揺らいだ気がした。

「……そうだ、な。そうだ。ああ、その通りだ。接点が一切ないじゃんか俺は。何を夢を見てんだよ……」

「あぁー。泣くなよ」

 わざわざ後ろに回って背中を摩る。流石に子供扱いは頭にキたので手で跳ねのける。

「……勉強するよ、俺」

 だって彼女と会うには、それ以外の道が無いから。


 @


 彼女に『浴衣に着替え終わったら、そっち行くよ』っと連絡して家を出た。

 彼女の家はそこそこ遠いので自転車を使いたかったが、浴衣姿で自転車は車輪で布を巻き込みそうだったのでダメだ。徒歩で行く。

 その途中。信号が赤で止まっている時だ。

 懐かしい顔を見つけた。

 今日の夢で出てきた友人だ。自転車に乗って祭り会場の広場の方へ向かってるようだ。

 と、見ていると顔がこちらを向いた。俺に気づいたようだ。話しかける。

「あ、久しぶり。半年ぶりかな」

「久しぶり、半年ぶりであってるよ。色男くん」

「色男ってなんだよ」

「いやだって、下のクラス所属なのに学年1位を恋に落としたんだよ。そんな人間、色男以外に表現するモノある?」

「……否定できないのが辛い」

「ははは、まぁ何て言うかお幸せにね」

 信号が青になり、友達はペダルを回して突っ走った。

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