第4話:当日泊まれるホテルなんぞ無い

 彼が衝撃的な電話をしてから半日以上が過ぎ、おかげでもう夕日が見える時間帯になってしまった。

 荷物は最低限。とにかく彼氏の元に集合することを目標として行動したため、そこまで気を回せなかった。

 電車を乗り継ぎ、バスに乗り、着いたのは富士山5合目。彼とその妹は5合目に居るだろうという予想からだ。

 彼は3日かけて登山するらしいので今日はここにあるホテルで休むだろう。という予想だ。

 彼と合流するために、スマホを取り出して電話してみる。

「もしもし、私だけど今どこ?」

『今? 富士山』

「私も富士山に居るわ」

『え、マジ?』

「マジよ。……それで、今どこに居るの? 私は5合目に居るんだけど」

『うわぁ、良くここまでこんな短時間でこれ「早く言ってよ」5合目の外れの森にいます』

 ……外れの森?

『今はバーベキューを終えて――』

 バーベキュー?

『んで、テント組み立ててる。今日はここで寝るんだってさ』

 テント?

「……なんで?」

『えーと、な。なんか妹が富士山登りたいと思ったのは3日前らしいくてさ、ホテルが取れなかったから野宿だって』

「……いいの、それ?」

『ダメなんだけど、なんか警備員ぽい人を脅してオーケーになった』

「ごめん1回通話切るね。頭が混乱してきたわ」

 スマホを1回しまって、深呼吸。スーハー。すーはー。スマホを取り出し、通話開始。

「これは一体どういうことなの?」

『……ごめん。俺にも分からないや』

 とりあえず、私は彼の元に行くことになった。


 @


 私を迎えにきた彼氏に付いていって、森の奥の開けた場所へ着くはすだったんだけど、

「……何これ」

「俺にも分からん」

 目に映し出されたのは女の子がチェンソーを操って木を伐採している姿だった。

 女の子は楽しそうに笑いながらチェンソーを木の幹に当てている。それはもう楽しそうで、笑い声がどう聞いても悪役だ。

 そんな姿を呆然と見ていると、チェンソーが止まる。

「えい」っと女の子が木を蹴ると、ミキミキバキバキと音を奏でながら木が倒れていく。

 そして最後にはドスンと地面に横たわった。

「これ勝手に切っていい物なの?」

「ダメだろ」

 私たちが当たり前を確認していると女の子がこっちを向いて、無茶苦茶な言葉を発した。

「おーブラザー! ウェルカムバック! 今ウッドツリーをカットしてるんだけど、ブラザーもや――ありゃ? 横のウーマン誰?」

 誰がウーマンだ。今はまだ結婚はしてないぞ。

 なんて気持ちは心の奥にしまい込んで、話す。

「えっと、初めまして。この人の恋人の――」

 私の名前を言って、

「――あなたは、妹さんでよいのでしょうか?」

「イエス! 確かにワシはブラザーのシスターだけど……まさかのガールフレンドかぁ……」

 妹さんはそう言って、私をじっと見る。

   「兄上がよくこんな美人を……」

 なんか小声でぶつぶつ呟きながらのガン見なのでなんか怖い。

 そう思っていると、横から怒気を孕んだ声が出てきた。彼だ。

「おい、お前。初対面の相手くらいはちゃんとした日本語で話せよ」

「インポッシブル! これがワシのナチョナルだからね!!」

「いや、いい加減なおせよ!」

 そう彼は言って、妹さんへ近づく。そして、手を妹さんの肩にのばして、

「キャーえっち!!」

 妹さんが彼に対して、背負い投げをした。

 それは見事な背負い投げで、柔道の黒帯である私が見ても素晴らしかった。が、それどころじゃない。彼は大丈夫なのか?

 私はドスンと転がる彼の元へ駆け寄った。

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