第3話:脅した内容は考えてない

「5合目にゴール!!」

「はぁはぁ……」

 俺たちは5合目に到着した。

 本来ならここから登山が開始されるのだが、俺は満身創痍であった。

 ちなみに妹の方は汗すらかいてない。おそらく汗腺がぶっ壊れてると推測される。

 そうと考えているうちに妹は、

「丁度ランチのタイム!」

 なんて言いながら建物とは別の方向へ向かう。

 何処に行くんだよっと思いながらついていく先は森。立ち入り禁止看板をどけて中へドンドン入っていく。

「いや、入っちゃダメだろ……」

 あきれながら付いていく。止めても無駄だと分かってるからだ。妹は自分で決めたことは曲げない。怒られても曲げない悪しき存在だ。

 ならば付いていくのが良いだろう。怒られる時の説明役として付いてるのが良いだろう。

 我ながら良くわからない思考をしながら付いていくと、妹が止まった。

 止まったところは森の中でも開けている広場。その森の開けたところに妹は背負っていた荷物を置いた。

「ブラザー! ランチをイートしなくていいの?」

「え、いや、食べたいけど」

「じゃあ私をヘルプって」

 そう言って荷物を開けて中身を取り出す。

 そして俺にそれを渡し、ズシッと重みが腕に掛かった。

「いや、何だよこれ?」

「グリル。マウンテンと言えばバーベキューでしょ」

「は? 何言ってんだよ」

「グリル。マウンテンと言えばバーベキューでしょ」

「そういう事じゃねーよ!!」

「じゃあどう言うニュアンス?」

「なんでバーベキューするんだよって事だよ」

「マウンテンと言えばバーベキューでしょ」

「……まさか本当にそれだけの理由で?」

「イエス!」

 ……意味わかんねぇ。思わず頭を抱える。

 数秒後、考えても仕方が無いと結論付けたので持ったグリルを組み立てる事にした。

「これどうやって組み立てるんだよ?」

「ん? まぁなんかノリでファイト」

「ノリって何だよ……」

 説明書らしきものはあったが、アメリカで買ったものなのか全文英語のみで書かれていたので分からなかった。最近は絵で説明するのが普通じゃないのかよ。

 それから数分後。ガサガサ草を掻きわける音が聞こえた。

 音のする方を見てみると、そこには警備員らしき中年男性がこちらに向かっていった。

「おい、君たち何をしてるのだね」

 警備員さんは俺らを見るなり、そう尋ねる。

 まぁ謝るべきだが、どう謝るべきか迷った。いきなり「バッベキューしようとしましたゴメンナサイ」とか言っても警備員さんが困惑するだろう。

 どう角が立たずに穏便に謝れるか。とか考えていると、例によって馬鹿妹が暴走を始めていた。

「やぁ! オウルドマン!! 一緒にバッベキューはいかが?」

「は? いや、バッベキューって……」

 まさかの警備員を誘いやがった。おかげで警備員さんが困惑している。ついでに俺も困惑している。

 そんな俺らなんて関係ないように妹は笑う。そして自然な動きで警備員さんの首を肩でガッと掴み、森の奥へ少し歩く。

「えー。何で一緒にバーベッキューしてくれないのオウルドマン?」

「いや、何言ってんですかアンタ? 富士山では許可なく「いやぁそんなことどうでも良いからさぁ――」

 どんどんと森の奥に行き、ついに声が良く聞こえなくなる。ので、内容が分からなくなった。

 だが、時間の経過につれ何故か警備員さんのブルリと震え、肩を徐々に落としていく。

 ……一体何を話しているんだよ。

 妹の話を止めるべくコンロを地面に置いて、近づく。

「おい、何を話してんだよ」

「あ、はい。すいませんでした……」

 と言ったのは警備員さん。

「いや、あなたの方じゃないですよ。こっちの私の妹の方に言ったんですよ」

「え、妹さんなんですか……」

 こっわ、なんて言葉を小声でつぶやきながら警備員さんは逃げるように、ここから出て行った。

「……一体何を言ったんだよ」

「ん? トレンゥンツ」

「は?」

「脅した」

「脅した? いや、脅すってなんだよ。そもそも脅す内容とか無いだろ。どうやれば脅せるんだよ」

「ブラザーがハーバードにアドミッションしたらティーチしてあげる」

 俺、絶対に教えてもらえないじゃん。

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