山登り
第1話:勝手に物事を決めるタイプが一番困る
現在0時。ドンドンっと玄関の方からノック音が聞こえた。
「……誰だよ」
思わず愚痴が漏れ出た。いや漏れ出て良いぞこれは。こんな時間に訪問してくるなんて非常識だ。
イラつきながらも、いやもしかしたら彼女がサプライズで来たのかもしれないという期待と共に、玄関のドアレンズをのぞき込む。
黒い眼球が見えた。
どうやら相手もドアレンズをのぞき込んでいるようだ。でもドアレンズを逆からのぞき込んでも見えない仕組みになっているはず。
それにも関わらずのぞき込んでいるのは一種の狂気を感じて、
「ブラザーひさしー」
ドア越しに耳に入った声を聞いて納得した。
鍵を解いて、ドアを開ける。
ゴっ、という鈍い音。「ぎゃ」っという高い悲鳴が聞こえた。
玄関口は外開きなので相手に当たったのだろう。
だけどこの相手には別に謝らなくて良いと俺は思っているので、謝らずに声を出した。
「なんでこんな時間に帰省するんだよ……阿保妹」
「ハーバードにアテェンディングしているワシを阿呆ぅってコールするなぁ、
ヘッドがペインフルっと意味不明な言葉を言いながら、妹は我が家に帰宅した。
@
家に入るなり妹は晩飯を要求してきたので、残り物のご飯、味噌汁を与えた。
おかずが無かったので、今から野菜炒めを調理することにした。
「ふひぇ……やっぱミソスープをドリンクしないとゴーホームしたエモーショナルにならないよ」
「……その日本かぶれな外人言葉を止めろよ。なんか無性にイライラしてくるぞ」
「これがデフォルトだからブラザーがギブアップしてよ」
「いやその言い方の方がおかしいぞ。なんでルー語が楽なんだよ。アメリカに行く前はちゃんとした日本語で話せただろう?」
「アンリンズナブルぅ。もうしぜ――ナチュナルに出てくるワードがイングリッシュだから。ジャパニーズじゃないからぁ」
「いや今、自然って言おうとしたよな? ナチュナルって言い換えたよな?」
「あーあー。Can not hear !!」
さっきまでの似非な感じの英語じゃなく、ネイティブな感じで発言して妹は耳をふさいだ。
何時までこんな言い方するんだろうか? あきれながら質問する。
「んで、何で帰ってきたんだよ」
「えーゴーホームしちゃノーなのー?」
「まだ直す気が無いのかよ……別に帰ってきちゃダメとは言わないけどさ、連絡くらい入れろよ。父さんも母さんも明日に備えて寝てるぞ」
「ペアレンツがスリープしていても、ドントウォーリーだよ。ワシにはアンリディン」
「あんりでぃん?」
「関係ないっていうワードだよブラザー」
「……」
ムカついたので、今作っている野菜炒めに山椒を入れる。山椒の独特な匂いが嫌いな妹には効果抜群だろう。
それに気づかない妹は、そのまま味噌汁を飲みながら話を進める。
「まぁちゃんとした
「フジマウン――ああ、富士山の事かよ」
「そうだよ。グッドだよねぇフジマウンテン……一緒にクライムする?」
「行かんぞ」
「そう? 一緒にクライムすれば楽しそうなのに……一緒にクライムして欲しいなぁ……」
ん、決めた。っと妹はうなずき。
「一緒にクライムするぞ。ブラザー!」
「は? 勝手に決めんなよ!」
「ちなみにトゥモオロウにバスでゴーするプランだから、ね?」
「ね? じゃないぞ。俺は行かないからな!!」
だって明日は彼女と、カップル限定メニューのカルボナーラを食べる予定なんだぞ。行くか絶対。
そう怒りを込めて、妹に山椒入り野菜炒めを提供した。
@
ゴーっという風を切る音が聞こえる。ところどころ揺れがあり……揺れ?
「地震?! ……へ?」
慌てて起きると、そこは自分が寝るベッドの中ではなかった。
何故か、バスの中に居た。
「グッドモーニング、ブラザー!」
なんか妹の声がする。横の席だ。
「中々起きなかったから背負ってバスにライドしたぞ。結構重くなってんじゃん」
「……は?」
「おやおや、何勝手にアグリーてんだっていうフェイスをしてるね。お返しだよ……」
昨日、野菜炒めに山椒を入れやがってという声が小さく聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます