第6話:黒デレ流行れ

 家族旅行で海に行っていたときに、友達をを見つけたのは偶然だった。

 パチンっという肉が打たれる音。

 この時、私は防波堤の上に居たのでその音の根を見ることが出来た。女が金髪男に対して行ったビンタ音だと理解できた。

 その女が友達であることを理解できた。

 困惑した。

 なんで彼女がここに居るんだろう? なんで一人で居るんだろう? 彼氏さんは何処に行ったのだろう? 

 友達がビンタするときは怒った時だ。金髪が友達に何かしたのは確定だろう。いつもなら私が守るが今現在となりにいなかったせいだろう。こういう時に彼氏さんが守るべきなのに……やはり害虫。

 そう思っていると、隣で様子を見ていた男が急に走り出し、彼女の元へ駆けて行った。

 その後ろ姿を見て、そいつが友達の彼氏であると分かった。

「……なんでここに居たの」

 私の疑問は独り言、誰にも聞かれない。

 友達とその彼氏は出会って話し始める。彼氏がすごく申し訳そうに話してる。

 事情を聴くべきなのだろうか? 場合によっては彼氏をまた殴ったほうが良いのかもしれない。

 そう考えてたら、母親が話しかけてきた。

「おーい。どうしたの?」

「え? ああうん、ちょっと海綺麗だなぁって」

「そう? だったら少し見てる? 私たちはあっちに行ってるからね」

 そう言って妹を連れて去っていく。

 再び、友達の方を見る。

 行列には居ない。もう海の家内部に居た。

 お互い手を握り合って、幸せそうに店員に話しかけているのが見えた。

 ……今直接聞くのは流石にダメだろう。でも何かあった時――

「……ここで見張ろう」

 ダッシュで彼氏をぶん殴ってやる。


 @


 数十分経過したが悪い事は何も起こらなかった。

 友達と彼氏くんが冷やし中華と焼きそばを食べさせ合ったりはしたが、幸せそうと言うか、恥ずかしそうにしていただけだ。

 ……プラトニックな感じで良いなぁ。

 なんて事を思っていると、隣にいた男グループが騒ぎ始めた。

「うわぁお。お熱いねぇ……」

「良いよなぁ食べさせっこ」

「というか何で焼きそばよ? こんな熱い所で熱い物食べさせんなよ」

「一番安かったんだよ。もらった給料は出来るだけ消費したくないだろ」

「まあ、そうだけどさ」

「文句があるならあいつの彼女に言ってくれよ」

「いや、買ったののお前だろ」

 そう言って、男グループは双眼鏡を私の友達彼氏くんカップルに向けた。

 ……思い出した。あいつら彼氏くんの友達たちだ。

 なんでこんな所に。気になって聞き耳を立てる。

「というか、例の計画は大丈夫だよな?」

「例の計画? ああ、ラブホに行かせるあれか?」

「ラブホって言うと恥ずかしいだろ? 例の計画って言っとけ」

「でもさぁ計画って程の物でもないだろ?」

「まぁそうだよな。ただ終電に乗れないように工作するだけだろ?」

「そのために時計を工作するんならもう計画ってレベルに至るんじゃないのか?」

「工作……??」

「ビーチボールを時計の長針にぶつけるだけなのに?」

「……彼女ちゃんから依頼料貰ってるから計画で良いはずだ!」

「無理やりすぎるわ」

「というかあいつ、奥手すぎるんだよな」

「言えてる! なんで手を出してないんだよ」

「まぁ、そのおかげで俺たちは小金稼ぎできるんだけどな」

 はははっと笑い声が耳を反響させた。

 ……はぁ。なるほどね。

 そいつらの中で、一番殴り良さそうな体格な男を、ぶん殴った。

「ぐぁ!!」

「うわ、なん――オイやべーぞ! 暴走暴力過保護女だ!!」

「やべぇ、せっかくの小金稼ぎが邪魔されるぞ!」

 そうやって逃げていく男どもを追いかけながら叫ぶ。

「殴らせろぉお!!」

 怒りのランニングキルが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る