とある狼と赤ずきんの話

さらさら

第1話 物語の通りに

「ママー、絵本よんでぇ~」

「えぇ~、またぁ~?」

仲むつまじい母と子供がベッドの上で一冊の本を手にしている。その本の題名は、「赤ずきん」だ。

「好きだねぇ、赤ずきん」

母親はやわらかい笑みを浮かべる。そして、子供の頭を数回撫でたあと、本を開いた…。


「!」

そのとき、1人の赤いずきんをかぶった少女が震えた。(世界が明るくなる…ということは、本を読もうとしてるんだ…。……また、はじまるんだ…)……………。


「……………こうして、狼は池に落ち、猟師に救われた赤ずきんとおばあさんは、三人で幸せに暮らしましたとさ。」

ふぅ、と母親は本を閉じる。子供は喜んでくれただろうか、と子供に視線を向けると、子供は難しそうな顔をしていた。母親は疑問に思い、

「どうしたの?」

と訪ねてみた。

「なんかさぁ、この赤ずきん…………。」


………やっと終わった。赤ずきんこと私は、ため息をつく。本が閉じられたのだ。…私たち、物語の主人公には、ちゃんとした人格がある。本が開かれてる間は、必ず物語の通りに演じなければいけない。けれども閉じている間は、私たちの自由だ。私がぼーっとしていると、猟師さんが、私の頭を撫でた。

「おつかれさん。今日も怖かっただろうに…。」

…そう、私は本が開かれる度におばあさんになりました狼に食べられなくてはならないのだ。もう、何回も何回も、何回も食べられたけど、ぜんぜん慣れない。本が開かれる度に物語はリセットされるけど、私の気持ちはリセットなんてできっこない。

「…大丈夫、慣れたから」

私は、曖昧な笑顔でかえす。物語のなかでは「赤ずきん」は笑顔でいなければいけない。怖くても、逃げたくても、叫びたくても、笑顔を崩してはいけない。もう、ほんとの笑顔なんてできない。…というか、私、表情筋とか死滅してそう…。猟師さんは、苦笑いをしている。おばあさんはというと、庭でのんきにガーデニングをしている。…そんなんだから食べられるんだよ、ババァ、なんてことは言わないが、もう少し危機感を持つべきだろう。誰だよ、「赤ずきん」かいたやつ。

「…はぁ、猟師さん、疲れたからちょっと気分転換に散歩してくるよ。」


……はぁ…。私は森の中を歩きながらため息をついた。(猟師さんは心配しすぎだ。散歩するだけなのに、危険、だなんて。)…最近は、いろいろなことが窮屈に感じられる。いつも助けてくれる猟師さんのことさえも。…世にいう、反抗期ってやつだろうか。そんなことを考えていたときだった。…ガサッ…。(…今、視界の、すみで、何か…動い、た?)私からみて左にある太い木。よくみると、木の後ろに誰かが、いる。(うー、わー……。なんかいるじゃーん…)自分でも驚くほど冷静だった。うん、これは知らないふりをしよう。どこの誰だか知らないが、通りすぎればいいだけだ。そう結論づけた私は、そのまま通りすぎようとした、のだが…

「よぉぉぉぉぉし、てめぇふざけんなよぉぉぉ!?気づいてるだろ、絶対!!!」

と、まぁ凄いしゃがれた声をだしながら木から誰かが出てきた。…けれど、私は何も言えなかった。だって目の前の相手は、あんまりにも予想外なやつだったから。相手もそれなりに驚いているようで、口をぱくぱくさせている。…驚いた。だって、だって、目の前にいるのは…。大きな耳に、大きな口。大きな手には鋭い爪。身体中が黒い毛でおおわれていて、金色の目が爛々と光っている…。そう、彼は…

「狼…」



そして、彼らは出会った。出会ってしまった。ここから、運命の輪が廻りだす…。くるくる、狂、狂と…

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