第3話 死神と電子巫女

「ただいまー」


「おかえりー」


一人暮らしの小さな部屋のテーブルの上に乗っている一台のPCの液晶が明るくなり、出迎えの返事が返ってくる。


部屋中の電気が独りでにつき、食材をしまう為リビングへ向かう。


「アマテラス、あいつらはどこへ向かった?」


巫女の服を…いや、それにしては胸の上から半分が露出していて脚の太ももから下も露出している、少々…いや、中々露出の多いアレンジが施さてるが………


ちなみに俺が最初に設定して着せたのは何の変哲もないワンピースであって、それ以降一切弄っていない。


とにかく巫女もどきの格好をした綺麗なシルバーの髪を胸の高さまで伸ばした女の子が液晶の中で浮いていて、スピーカーを通して即座に返事をする。


「ごめーん、それがぁ、人1人担いでるくせに足速すぎて防犯カメラにアクセスしてもすぐ範囲外に消えるし途中からカメラに写らなくなっちゃって見失っちゃった。てへぺろ♪後から確認してもどこからかカメラに映らなくなっちゃってて」


てへぺろ♪に関しては全力で無視させていただく。


「アクセスって言っても無断だけどな。ま、連中もプロってことか。まあそれはいい、こっちに被害があるとすれば……………あーっ!しまったあああ、服に穴空いてるのすっかり忘れてたー!」


気を落とす俺に対し、他人事だと思ってアマテラスは変わらず元気な様子。


「まあまあ、制服とかなかなか替えが効かない服じゃないだけ良かったじゃない?ポジティブにいかないとね」


落ち込みながらPCの置かれたテーブルの前にため息混じりに座る。


「お前はいいよな、気楽で。俺なんて今は戦の後の武士の気分だよ、モンゴルの軍を退けたあのー、何だっけ?」


人差し指を立て、くるくると空中で回しながら思い出そうとするが、なかなか出てこない。


「げ・ん・こ・う!」


「そうそう、それそれ。あれって確かあっちから攻めてきたから防衛出来てもあっちから奪える物はないから撃退出来ても土地も金品も手に入らない、侵略を防げただけなんだよな、だから武士に与えられる物はない、そういう武士の気分だよ今の俺は。まああっちは幕府が他から回して貰えるだけましだけど。俺にも幸運の台風が吹き荒れねえかなあ」


「あいつらから奪っちゃえば?今度会ったら身ぐるみ剥がして素っ裸で縛り付けた後に海にドボンしないとね」


「考えることがエグいな。悪い意味で成長してきてないか?」


「見た目の方は和也好みにすぐ成長させられるよ。えっーとね、和也の好みのタイプは…」

周りに誰もいないとはいえ好みをバラそうとしながら何かを起動し始めたアマテラスを止める為ガッとPCを両手で掴み思い切り顔を近づけて睨みながら叫ぶ。


「解析するな!分解バラすぞこの野郎!」


相変わらずこいつと話すと調子が狂う。


絶対に人前には出さないようにしないと俺が変態のように思われる。


身の回りの変態はこいつ1人で十分なのだ。


PCの中の変態はバッと手を広げ、


「お仕置きならどんと来い!どんなプレイでも受けようぞ!」


和也の中で何かの線が切断された。


「そうか、なら一瞬でデータの藻屑と化すがいい」


PCのキーボードを冷静に叩き始める。


「待って!ドSならもっとゆっくりいたぶるのが基本でしょ!早まらないで!というか普通ドSは殺ったりしないよ!」


アマテラスが手足をバタバタさせて焦り出すが、それを見て怒りからかキーボードに乱暴に両手の掌を叩きつける。


「俺はドSでもドMでもねえ!一緒にすんなド変態!」


「んもう、和也が私をこんな体に調教したんでしょ♪」


身体を反らせて身体のラインやらを見せてくるが、和也にはイライラしか溜まらない。


「してねえよ!てめえが勝手に間違った学習して勝手に変態になったんだろうが!それに元々お前を作ったのは俺じゃねえ!というかあの人もそれなりに変人だったわ!そうか、あの人も一種の変態だったか!いたわ変態!前言撤回!頼むからもう変態は増えないでくれ!二度あることは三度あるなんて俺は信じたくない!」


頭を抱え、木の床の上で悶始めたが、テーブルの脚に足を勢いよくぶつけ、再び悶える。


「いっってえ!」

先ほどの、勇ましくはないが精一杯強者のようになっていた姿はどこへやら、さっき槍に貫かれたまま戦い続けたのに安物の家具に足を痛めている。


やがて痛みが引き、何も無かったかのように座り直す。


「コホン、それにしてももう少し深い傷を負わせられたと思ったんだけどなあ、焦っててちゃんと生成出来てなかったか?」


「見てたけど正直言ってなまくらだったね、あれじゃ致命傷どころかすぐ復帰出来るよ。下手に傷つけられて逆に痛みはすごいだろうけどね」


何故か刀や鎌などの刃物の画像が出てくるが、素人の和也には正直よく分からない。


「なんで変なとこで毒舌なんだお前は。そんなプログラムしてもらった覚えはないんだが。まあ本当のことだから受け入れるけどな。それにしても、まだまだ修行不足か。努力って面倒くさいな、1人でやってると暇だし」


後半を一切聞いてないアマテラスが自慢げに両手を腰に当て胸を張り出す。


「そりゃあ自分で成長出来ますから!」


肘をテーブルにつけて手で顔を支えるように当て、ため息をつく。


「そんな成長頼んでないんだけどなあ、ハァ」


こいつと向き合うだけだと時間の無駄なので取り敢えず台所へ向かい夕食の準備に取り掛かる。


幸いにして今日買った食材達は無事である。


「んで?奴らのいどころは突き止められそうか?」


相変わらずふわふわしながら楽しそうに答える。


「うん、今やってるけど多分たどり着けるはず、だけど明日まで掛かりそう」


フライパンで肉と野菜を炒めながら会話を進める。


「はあ?なんでそんなに時間かかるんだよ、天下のコンピューター様の凄さはどこへ行った?」


急にダルそうになりながら自分の大変さ、健気さを伝えるように、


「えー?仕方がないじゃん、街中の膨大なデータがどんどん時間が立つごとに情報が更新されてそれを監視しながら過去のデータも見てそれだけならともかくもっと色々いっぱいあって大変なの!あと和也の写真撮ったり」


「それが駄目なんだろうが!その最後の盗撮が駄目なんだろうが!」


怒りのあまり菜箸をフライパンに叩きつけそうになるが、寸前で止め、叫ぶだけに留めておく。


「和也、私に愛情を注いでくれるのは嬉しくてつい録画せざるを得ない程だけど、あんまりうるさいと近所迷惑だよ♪」


アマテラスのその笑顔に和也の中の何かのスイッチが作動する。

 

「おーまーえーのーせーいーだーよおおおおおお!!録画もそれを後から流して作業を遅らせてるんじゃないだろうな!」


「いやー、流石にそれは同時平行でやってるから大丈夫」


「そこ同時平行でやってもお前以外誰も得しないんだよ!ふん、まあいい、今度データ確認して余計なもんは一切合切消してやろう」


出来た野菜炒めのようなものとご飯を運ぶ。


「いただきます」


別に特別美味いわけでもない、焦げたものもあるし何か工夫があるわけでもない平凡な安い食材で作った野菜炒めを咀嚼する。


「じゃあ明日どうしようか……うーん?」 


野菜炒めを口に運びながら悩んでいると…


「終わったよ」


「早!お前がいっつもそのスピードで調べてくれれば俺のストレスも溜まらないのに……ああもうむしゃくしゃする。ハァ…」


「じゃあ明日放課後襲撃しちゃおう!」


「おー」


無気力な返事を返し、野菜炒めを口へ運ぶ。


あたかも買い物へ行くかのような感じでのんびりと危機感無く言ってるが、学校を休むわけにはいかない。


俺はあくまで学生なのだ。


何かと抱えているが、今は高校生活を第一に考えている。


奴らを取り逃したところで問題ではない。


再び襲撃される危険性はあるが、それより出席の方が重いと言っても過言ではない。


バトルもののラノベの主人公のように学校を休みながら迫り来る留年に震えながら拳を握りたくはない。


留年なんざまっぴらごめんだ。


明日必要になりそうな物を調達してもらうようにアマテラスに頼む。


遠い記憶を引き出し、自分のやらなければならないことを確認するが、明日は勝負だ!と体育祭や部活の試合の前日のように少しワクワクドキドキもしている。


浮かれないようになんとかその気持ちを抑えてベッドへ入るが……


考えが甘く、翌日起こる出来事を一切想定出来ていなかったのだがそんなことを九十九和也はもちろん知るよしも無かった。


まるで出荷される前日の家畜のように。

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