第15話 ホーリーゲートの町。
ホーリーゲートの町の入り口。
木製の壁を越えた先の景色は、巨大な遺跡の周りをぐるりと囲むように、人々の民家が建てられている。
神都から来た兵士達により護りは万全なのだが、町の中の雰囲気はそうもいってられる状況ではなかった。
観光を主に成り立っていたこの町で、旅人さえ来ないのだから収入源は殆どない。
今はもう壁を護っている兵士達の気まぐれで買われる食事ぐらいしか収入源がない為、料理や農業に力を入れ始めている。
「はぁ、やっと着いたよぉ。これで安心して休めるよ」
「何を言っとるガルス、旅を始めてまだ二日しか経っておらんだろう。そんなことではマリア―ドにたどり着けぬぞ」
「そんなこと言ったって、ただ座ってるだけじゃ疲れるんだから仕方ないじゃないか」
「ふ~む、確かにそうかもしれんな。よし、では今から訓練をするとしよう。ガルスよ、さあ掛かって来るがいい!」
「そ、それはそれで疲れるので止めて欲しいんですけど」
「掛かって来ぬのか。では此方から行くぞ! とおりゃああああああああああ!」
「しないって言ってるのにいいいいいいいいいいいい!」
強制的にバトルが始まり、二人がじゃれ合っている。
まあ何時も通りの光景だな。
ドル爺が飽きるまで頑張ってくれガルス。
「じゃあ俺達は宿を探すとしようか」
「ラク、やど何~?」
「今日寝る場所を探すんだ。一緒に行くよセリィ」
「お~!」
元観光の町ということで、軽く宿を探しあてた俺達は、そこで一つの部屋を取り、今日の宿を決めた。
あとで外で訓練をしている二人も呼んで来なければな。
買い出しのついでにでも声を掛けるとしようか。
荷物を置いて買い出しに出掛けようとすると、この部屋に宿の主人がやって来た。
「皆様、この羊の夢の宿に、ようこそお越しくださいました。皆様にはこの宿最後のお客様として、盛大に持て成します。豪華な食事を用意いたしましたので、存分にお楽しみください」
宿の女将が、部屋の中に豪華な料理を運んでいる。
外の二人を呼んでも食べきれる量じゃないぞ。
だが最後だと折角出してくれたのだ、食べなければもったいないな。
「ありがとうございます。ありがたく頂かせて貰います」
「ええ、熱い内に是非どうぞ」
「…………あ、はい」
そう言って宿の主人は俺達が食べるのを待っていた。
何だか微妙に怪しい。
流石に毒は入っていないと思うが、見られていると落ち着かない。
まだそう腹は減ってないんだが、食わないと帰ってくれなさそうだ。
二人に食べて貰って、俺は外の二人を呼びに行くとしよう。
「俺は外の二人を呼んで来る。二人は先に食べておいてくれ」
「私はまだお腹は空いてないんだ。後で食べるから、外の二人は私が呼んで来てやる。行こうかセリィ」
「うん!」
二人が外へ跳び出して行った。
空気を読んで出て行って欲しいんだが、宿の親父は動いてくれない。
「………………」
「…………食べないのでしょうか?」
「…………いや……頂きます…………」
俺は料理の一品に手を伸ばし、口に運んでみた。
宿の飯として、味としては悪くなく、美味いと言えるレベルだ。
「この豚の丸焼きはとても美味しいです」
「…………それはありがとうございます。あのお客さん、料理の代わりと言ってはなんですが、少し相談を聞いては貰えないでしょうか」
「やっぱり何かあるんですね…………俺達も急ぎますので、面倒な事じゃなければ聞いてもいいですけど…………」
「大丈夫です。そう面倒な事ではありませんから。ではお話を…………」
その話はとんでもなく面倒な話だった。
この村の発展の為に、意見を欲しいという話で、それは俺にとっては魔物を倒せと言われる方がマシなレベルである。
まあでも食べてしまったからには、何かしらの意見を言わなければならないか…………
この町の現状は、さっきも言った通りにどん詰まりなのだ。
観光が出来なくなり、農業に手を出したはいいが、そもそもこの土地は農業には向いてはいない。
何年もかければ良い土が出来上がるかもしれないが、その前に町が潰れてしまいそうだ。
「少し考えてみますので、ちょっと時間をくれませんか?」
「はい、では後程またこちらにお伺いしますので、出来ればそれまでにお願いしますね」
宿の親父が部屋から去り、俺は戻って来た四人に相談をした。
「ほほう、町おこしか。しかしそんなものを
「う~ん、だったらお酒なんて良いんじゃないの? 神都まで配送しても腐ったりしないし」
「おお、分かる様になって来たではないかガルスよ。うむ、酒は良い物だぞ。長期の保存ができるしな」
酒か、発想は悪くないかもしれないが、それを作る材料がこの町にはないのだ。
この町でそれを造るには、この町で材料を買わなければならない。
たぶんこの村にそんな金はないんじゃないか?
「確かに、酒も造れれば遠くに運ぶことも出来るんだが、それを作るにも時間はかかる。作ったはいいが、味がよくなければ売れもしないぞ。それにその酒を造る材料もないんだ。この町で何か作物でも作れればいいのだが、土質が良くないからな」
「あ、それもしかしたら何とかなるかも。この前覚えた魔法は泥からゴーレムを作るんだけど、魔法を弄れば泥の出現だけに抑えられるかもしれないんだ。一度全力ってのを出してみたいと思っていたし、全力で試してみることにするよ!」
なるほど、泥で今の土地を覆ってしまえば、もしかしたら
だが駄目だった場合はガッカリさせるかもしれない。
それで行こうと返事をする前に、一度見ておきたいな。
「まあ待て、不確かな事を言ってガッカリされたら困る。一度外で試してみるとしようか」
「ん、分かった。じゃあ外へ出て一度試して見よう」
俺達は宿の外に出ると、邪魔にならない宿の横の土の上で、ラクシャーサのその魔法をを見守った。
「泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、
ラクシャーサの魔法は、乾燥して硬くなった大地の上に、多量の泥を出現させた。
範囲としては一メートルを覆い尽くすぐらいだが、湿った泥はこの地にはない土質だ。
何か手を入れれば、作物も作れる物になるかもしれない。
俺は宿の主人にその事を伝え、明日の朝それを実行すると伝えた。
そして朝になり、色々と出発の準備を終えた俺達は、宿の前で魔法を唱えて、大地に泥を出現させようとしている。
「ではお願いしますね」
「はい、私に任せてください!」
全力でやると言い、ラクシャーサの長い詠唱を唱えて、魔法が発動したのだ。
……悠久なる大地よ……遥か未来に存在せしものよ……我が
「泥の渦よ、現れよ、
その詠唱を終えた瞬間、町中の空一杯に、泥の塊が降り注いだ。
遺跡の空から、宿の上空、そして、俺達の頭の上にもそれが落ちてきている。
ベチャ
厚さ十センチにも満たないから痛くはないが、町中が泥の色で染まってしまった。
もしかしたら早起きの奥さん達が洗濯物を干していたかもしれない。
「あああああああああああああああああああああああ!」
「いやあああああああああああああああああああああああ!」
「折角干したのにいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
そんな悲鳴が町中の至る所で響いてる。
全力で魔法を使ったラクシャーサもパッタリと気絶しているし、収拾がつかない。
「「「………………」」」
「ラク、しっかりしろ」
「…………あの、お客さん。これはちょっと…………」
「すみません、俺達は急ぐから、後はがんばってください! おい、行くぞ皆、俺達には大事な任務があるんだ! さあ急がなければ!」
「む、仕方ない、任務だからな。さあ馬を出すぞガルス、早速乗り込むんだ! ラクシャーサの事は
「分かったよ! 任務だからね! セリィ、馬車に乗るよ!」
「ん!」
「ちょっ、掃除していけえええええええええええ!」
「ご、ごめんなさあああああああああああああああああああああああい!」
どうにもならなくなった俺達は、馬車に乗ってこの町から逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます