第四十一話
食事の後、異世界の事について軽く言葉を交わすとすぐにキャメロン・コナーは帰って行った。元々忙しい合間を縫っての事だったらしい。
奴は最後まで爽やかだった。見た目上は、の話だが。俺はちゃんと笑顔を浮かべられていただろうか。顔や態度に出て怪しまれていないだろうか。少々殺気を抑えるのに神経を使い過ぎて、あまりそちらに気が回らなかった。
予想とは言え九割以上ヤツは黒だと確信しているが、どれも言わば状況証拠だ。言い逃れできない程の物的証拠を集め、叩きつけてやらないとうまく逃げられるかもしれない。正直な話、こっそり調査して即座に切り捨てたい。しかし、俺と姫様に関する噂の事がある以上そう簡単な話では無い。
それに、そもそもの話実力を隠している為それは出来ない。俺にはやろうと思っている事もあるので、まだ実力は隠しておきたいのだ。今回の件は実力を隠した状態で臨みたい。その為にはやはり、姫様達の協力が不可欠か。
「それでどうだった?」
デザートのケーキ擬きを食べながら姫様が聞いてくる。流石にスポンジは無いので、普通のパンを果汁に浸し柔らかくしたもので代用している。クリームは作れるため見た目はそれっぽい。最近の姫様のお気に入りだ。ちなみにキャメロン・コナーが居る時に出さなかったのは単なる嫌がらせだ。ヤツに食わせるなんてもったいないからな。
「正直に申しまして、見た目は噂通りの御仁だと思いました」
「……見た目は?中身は違うってこと?」
聡いな。いや、流石に気付くか。
「……先にヴィクトリアさんと話しても良いですか?」
少し考え頷く姫様。
これから話す事は彼女を怒らせ、そして傷つける。調査の段で下手に刺激して襲われたり邪魔される事の無いよう、先に楔を打っておこう。
「……ヴィクトリアさん」
「なんだ……っ!?」
誓約紙を取り出し、目の前に広げる。
「『私ヨザクラ・グレン【甲】がキャメロン・ルゥ・コナー【乙】の調査をする際、ヴィクトリア・ルゥ・ガルシア【丙】は直接的にも間接的にもその邪魔をしない。また、調査の結果【乙】が白だった場合、若しくは一ヶ月で噂も【乙】の事も何も変わらなかった場合、【甲】は命を含め全てを差し出すものとする』と、まあこんなもんかな」
『ルゥ』とは貴族位にある者に付けられる名前に付く敬称で、王族は『フォン』になる。王様や親父の評価もあったし、俺も屑だと断じたのでこれまで付けていなかったが、誓約紙には付けるべきだろう。
「「なっ」」
姫様も驚いている様だ。クロエはも表情だがどこか呆れている雰囲気がある。ぶっちゃけ、ルフィーナの時と同じ手口だしな。傍から見れば自分の命を軽く扱っているように見えるのだろうな。
「驚く必要は無いかと。元々私の命は何もしなければ後一ヶ月なので。キャメロン・コナーに関しては、覚悟だと捉えてもらえれば宜しいかと。ヴィクトリアさんサインをお願いします」
「貴様、正気か!?」
「至って。……怖いですか?キャメロン・コナーが黒だったら大変ですもんね」
ここぞとばかりに煽る。そうすれば彼女は乗ってくるだろうから。
「っ!!良いだろう!誓約してやる。ただし私も命を懸ける!」
ラッキー。命まで懸けてくれるとは。
「そうですか。では、こうしましょう。『【乙】が黒だった場合、【丙】は【甲】が満足するまで【甲】の犬となる事とする』。どうです?」
「……良いだろう!」
そう言うと、勢いよく誓約紙にサインをしていく。その様は書き殴っていると表現していいだろう。
「ふんっ!私とキャメロンをここまで虚仮にしたんだ。覚悟しておけよ!……姫様、暫く失礼します!」
サインが済むや否や、そう言い彼女は部屋を出て行ってしまった。嘗て無いほどに怒っていたな。でも今はこれで良い。関係を修繕・進展させるのは、キャメロン・コナーを片付けてからだ。
「はぁ~……怖かった」
「また随分と大口叩いたわね」
「大口ですか」
そう捉えられても仕方ないかもしれないな。
「私やお父様でも何も出て来なかったのよ。一ヶ月でどうにかできるの?」
「問題ないかと」
「そう断言するという事は、彼には何かあるという事なのね?」
「はい。物的証拠はありませんが、状況証拠がいくつか」
そこで姫様の視線が鋭くなる。
「キャメロンには何があると言うの?」
「……信じるのですか?一度会っただけの男を悪だと断じる俺の話を」
自分で言っといてなんだが、今の俺は相当に胡散臭い。一歩間違えれば、姫様の婚約者に嫉妬しているようにしか見えないのではなかろうか。
「確かに貴方は良くふざけたり嘘吐いたりするけど、こんな場面ではさすがにやらかさないでしょう?それに、私達からは常に一歩引いた場所から見ているから目は良いようだし」
「……」
「だから忠誠が欲しいと言っているのよ。このまま離れられても困るから」
「……」
人を見る目が有るのか無いのか分からん人だな。本性まで見通す事は出来ないみたいだけど。
姫様のそういう目になるのも役割の一つか。ああ、ダメだな。自然とこのまま仕えた時の事を想像しちゃっている。本当に彼女の事を気に入っているらしい。
「でも、貴方が私達とは違う価値観で生きている事もこの二ヶ月程で何となく理解したわ。だから忠誠に関しては以前のように求めるつもりは無いし、貴方が貴方なりに私に仕えてくれている以上は全面的に信じるつもりよ。ふざけるのも嘘を吐くのも、理由あっての事だと思う事にするわ」
「……ありがとうございます」
俺なりにか。確かにこれまで俺なりに力を貸してきた。姫様を気に入ったという理由もあるが、一番の目的はある男を殺す為だ。ぶっちゃけ、それだけなら仕える相手は王様でもいい。両親もそこにいるんだし。今より動きやすくもなるだろう。
それでも姫様の元にいるのは、彼女の目的の先にあるモノが見たいと思ったから。あの綺麗な瞳で見続ける未来を。しかし、それだって仕えなくても出来る事だ。陰ながら力を貸すのは難しくない。
それなのにどうして、俺はここにいるのか。それは…………
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