第三十二話
そもそも魔法薬には三つの等級がある。
まず『魔法薬』。一般的な魔法薬で市場に一番出回っている。軽い怪我程度なら完全に治す。価格は銀貨50枚前後。ラベルは赤。
そして『高級魔法薬』。当然普通の魔法薬より効果は高く、それなりに重い怪我も治せる。価格は金貨30枚前後と高くなり、平民には入手が難しくなる。ラベルは緑。
最後が『最高級魔法薬』。文字通り最高級の魔法薬。カール達が麒麟との邂逅後死に掛けていた俺の治療に使ったもの。上手く使えば瀕死の状態から回復させる程で、欠損部位すらたちどころに治る。価格は金貨800枚前後で貴族ですら入手は困難。平民は言わずもがな。ラベルは青。
俺は最高級魔法薬を使った事は無い。使って貰った事はあるが。使った事があるのは『魔法薬』のみ。商会で貫かれた時と毎朝の
そう。俺が使用しているのはごくごく普通の魔法薬のはず。最高級魔法薬を湯水のように使っていたなんて、そんな事あるはずが……。
「赤のラベルは最高級魔法薬の証でしょう!?」
「へ?は?え?」
赤が最高級?青じゃなくて?赤が普通で最高級で?青が赤で緑が赤で赤が青で?あれ?考えがまとまらない。ずっと思考がグルグル渦まいている。
「グレン様落ち着いてください。普通は青、高級は緑、最高級は赤でございます」
「……普通だと思っていた物が最高級だった?え?俺がそんな初歩的な間違いを?いやいやそんなまさか……はっ!?」
ある一幕が脳裏をよぎる。
思い出されるのは商会に来て間もなかった頃、この世界の事について学んでいた時だ。その日は珍しく【麒麟の角】のメンバーが全員来ていた。主に教えてくれるのはナンシーとカールで、ベルハルトは冷やかしだ。だがその日は違った。
珍しく『俺も一つ教えといてやろう。かなり重要な事だ』と言い出した。偉そうで上からなのがイラッと来たが、知らない事を教えてくれるんならと我慢して聞いた。魔法薬に関してだった。
教えてくれた後の
つまり、俺はベルハルトに騙されたという事。ナンシーは兎も角カールも共犯。魔法薬は商会でも扱っているのに誰も指摘しなかったのは、商会の人間がグルだったという事。エーミルは勿論、ベンやミラも。いやミラは許してあげよう。彼女は喋らないから。エーミルも許すべきか?彼は俺が騙されているのを知ってて、『最高級魔法薬』を『魔法薬』として気前良く渡してくれたんだし。
取り敢えず主犯はベルハルトだろう。結局、その日しかベルハルトが何かを教えようとはしてこなかった。どこぞで思いつき、カールを引き込み、エーミル及び商会にも根回し。こんなとこか。
「フフフフフフフフ……フハハハハハ、ハーハッハッハッハッハッ」
いい度胸しているじゃないか。良いだろう覚悟したまえ。俺を騙すという事がどういう事か教えてやろうじゃないか。そして騙すという事がどういう事なのかもその身に教え込んでやろう。
「クハハハハハハッ!」
「ちょっと、さっきから不気味よ」
「はっ!?申し訳ありません。少々取り乱しました。どうやら間違って憶えさせられていたようです」
「はぁ。経緯は良く分からないけど気を付けなさい。最高級魔法薬は貴方みたいに弱い者が持っているのがばれると、力ずくでも奪おうとする者が現れるわ」
ここにはいないと思いたいが、まあ欲は人の眼を曇らせるからな。
「はい、気を付けます」
人目のある所では使わずにいよう。まあ当分は『魔法薬』を使う事になるだろうけどな。監視の人達にも気付かれてなくて良かった。魔法薬を飲む時はラベルを覆うように握る事になる。角度によってはラベルは完全に見えないだろう。いや~、運が良かった。
褒美云々忠誠云々、魔法薬云々の話が終わった所でデザートを持って来てもらう。デザートはプリンだ。オーブンと冷蔵庫の魔道具もあるので簡単に作れた。
「これは……!」
「!!」
「おいしい……」
「ぐすっ」
どうやらお気に召したようだ。多めに作ったので、余った分をクロエやメイド達にも食べた貰った。彼女達にも気に入ってもらえたで、中には感涙している者もいる。
「美味しかったわ」
「ありがとうございます」
「カレーにプリン、今日は二品目だったけどまだ他にも出来るのでしょう?」
「はい。他の料理は厨房の料理人達にレシピを渡しましたので、彼女達に任せるつもりです。ぶっちゃけカレーを作ったのは私ですが、プリンを作ったのは彼女達なので問題ないでしょう」
未知のレシピでもレシピ通りに作れるなら任せても良いだろう。本職の料理人である彼女達の方が、アレンジなども上手くできるだろうし。後は随時相談に乗ったりして俺は完全に手を引こう。一応ルフィーナが思いがけず俺の物になったので、影響力は残る。
それに俺は動く肉の調理の方が得意だ。
さあ、本格的にキャメロン・コナーの件に取り組むとしよう。
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