第二十八話

 そうやって幼女をあやし、幼女に癒されること数分。幼女達に元気が戻ってきたので、朝から気になっていた事を聞いてみる。


「そう言えば朝飯はどうだった?うまかったか?」

「やっぱりグレンが作ったの!?おいしかった!!」

「おいしかった~!」

「また食べたい!」

「シスターもおいしいって!」

「おーおー、そうかそうか」


 ふふふ。やはり手作り料理を褒められるのは嬉しいな。


「あら、料理が出来るの?もしかして貴方の世界の料理?」

「はい。料理は得意ですよ」


 子供の頃から俺が作っていたからな。親父も母さんもあまり料理上手くなかったし。


「どんな料理を作ったの?」

「そうですね「あのねあのね!白いの!」」


 俺の言葉に被せるように幼女達の声が上がる。


「白い?」

「うん、白いの!」

「ドロ~てしてる」

「ドロドロ~」

「グレンお兄の白くてドロッてしてて、おいしいの!」


 あれっ?この言い方なんかマズくないか?


「ききき、貴様!こ、ここ、このハレンチなっ!!」


 あぁ、ほらヴィクトリアが反応しちゃった。朝も思ったけど彼女、エッチな妄想が逞しすぎる。朝は俺の体で今度は『俺の白くてドロッとしたモノ』に、ナニを連想したのか。


「一緒に入っていた野菜もちゃんと食べたか?」

「うん!あれならいつもより食べれる!」

「あれは牛乳をベースにしているから、体にも良いんだぞ~。大きくなれるぞ~」

「ホント!?リューもおっきくなれる?」


 ワイワイと幼女達と健全な料理の話で盛り上がる。

 ヴィクトリアは自分が勘違いをした事に気付いたのだろう。羞恥でプルプル震えている。

 ずっと相手にしないのも失礼だし、ここいらでフォローをしておくか。


「ヴィクトリアさんもどうです?俺の白くてドロッとしたヤツ」

「ふんっ」

「あでっ」


 我慢ならなかったのだろう。器用に幼女達を避けて、石突きで突いてきた。しかし、周りの幼女達を巻き込んでしまわない様にかなり加減されていた。だけど向けられる殺気は、収まる気配が無い。隙あれば殺されるんじゃないだろうか。


「いつつ、クロエさんもどうです?俺の白くて……」

「……」

「ドロッ……と…」

「……」

「いや…あの……」

「……」

「……すみません」


 ダメだ。なんか怖い。無表情。ずっと無表情。そんな顔でじっと見てくる。怒りも羞恥もその顔には浮かばない。ただこのまま最後までセクハラすれば、無事じゃ済まない。そんな予感が、悪寒と共に奔る。


「ふふふふ、良い勘してるわね」

「勘?」

「ええ、クロエは以前質の悪いセクハラナンパ男のナニを潰したわ。フォークでブチッと」

「うお……」


 おおぉ、それは痛い。フォークとか確実に機能が死ぬ。同じ男として同情……するか?質の悪いセクハラナンパ男に?うん、しないな。そいつの自業自得だ。


「酷いとか思わないの?」

「いや、気持ちは分かりますからね。私も昔、経……あ、何でもないです」


 しまった。ここに居る人達、知らないんだった。ついうっかり口を滑らせてしまった。


「何よ、気になるじゃない」

「すみません」

「はぁ、まぁいいわ。ならこっちには正直に答えなさい。この世界の食事と貴方の世界の食事、どれくらい差があるの?陛下との会食を基準になさい」

「……」


 一国の王との食事。王様が口にする物だから、最高級だと言ってもいいだろう。対外的にも豪華でないと見縊られる。

 だが、正直俺にとってはいまいちだった。勿論、この世界で食べた料理の中では一番美味かった。だけど、地球の料理と比べると雲泥の差だ。

 しかし、公的には奴隷の立場である俺が王族の食事を下に見る様な事を口にしても良いものなのか。


「その沈黙が答えのようなものね」

「私の口からはなんとも。宜しければ何か作りましょうか?」

「馬鹿か貴様は。信用ならん奴を厨房に立たせられるものか。大体貴様は図々しす「ぜひ、お願いするわ」っ!?姫様!?」

「但し、調理の時はクロエを付けるわ。怪しい動きをした時は、貴方の裁量で裁きなさい」

「はっ」


 妥当な判断だろう。当然毒を盛ったりするわけではないし、焦る必要は無い。助手が付いたとでも思っておこう。


「トリア、これで良いでしょ」

「……はい」

「それじゃあ、よろしくね」

「はい。ただ二週間ほど時間を下さい。食材やスパイス、調味料類などをしっかりと調べたいので」


 マヨネーズやケチャップ、ソース類も余り見かけない。今朝のシチューもコンソメ無しだった。


「いいわ。あっと驚くようなモノを作りなさい。期待してる」

「はい。では手始めに……」

「んーっ!んんんーっんーっ!」

「……フィオランツァ様を解放しましょう」


 驚いた事に彼女はまだ縛られたままだった。暴動に対処する為集まっていた騎士団の方々も、事が収まると直ぐに掃けていった。誰も彼もが見事にスルーだった。いや、何人かは気にする素振りを見せた者が居た。男前な女騎士とかござるな女騎士とか。結局はスルーだったけど。彼女には人望が無いようだ。


「……?あれ~……?フィオ様~……?」

「んーっんーっ!」

「フィオ様!?きゅ~」バタッ


 早く解放してあげよう。そろそろシスターも不憫だ。

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