第六話
「なぁ、ベルハルト」
「お、おう。何だ?」
「これを着てみてくれないか」
差し出すのは俺のコート。防刃、そして防弾性。
「?分かった。……よっと、頑丈だな。何で出来てんだ?」
ベルハルトの問いを無視し、コルト・アナコンダの弾を確認する。うん、入ってる。
そのまま流れるように銃口をベルハルトへ向ける。ちょっと距離が近いがその方が後々、説得力が増すかな。
「お、おい!?」
「安心しろ。死ぬ事も怪我する事も無い。途轍もなく痛いだけだ。ただ動くと危ないから、黙って立ってろ」
俺の気迫に呑まれた一瞬を狙い、引き金を引いた。
ドゥゥゥッ――
「「っ!!」」
「グゥッ、てめぇ……っ」
銃声と呻き声はほぼ同時。
「ベルハルトさんっ!」
蹲るベルハルトに慌てて駆け寄るカール。
「っなに!何の音!?」
ナンシーを起こしてしまったみたいだ。悪いことをした。
飛び起きたナンシーの周りを風のようなものが覆っている。魔法だろう。とても気になるが、今はベルハルトだ。
「カール、ベルハルトの右の腹を看てやってくれ」
すぐさまカールの魔法がベルハルトの右の腹に当てられる。
「ベルハルト、何が起こったか分かるか?」
「……それから何かが物凄ぇ速さで出てきた。んで腹に当たった」
……見えたのかよ。それはそれで凄いんだが。
「私には何も見えませんでしたね……」
「ほ、ほほ。私もです」
カールとエーミルには見えなかったという事は、獣人であるベルハルトの動体視力が優れているという事か。
「飛び出たのは、これだ」
ベルハルトの近くに落ちていた弾を見せる。
「鉄?金属類ですか?」
「あぁ。簡単に言えばこの武器は、小さな鉄の塊を音速前後のスピードで飛ばす事が出来る人殺しの武器だ。頭蓋骨でも容易く貫通し脳を破壊する。撃たれたお前なら分かるだろ?ベルハルト。今お前が無事なのはそのコートのおかげだ。コートが無ければ今頃、お前の腹には小さな穴が開いていた」
「……そいつは分かった。だけどなぜ俺に撃つ必要があった」
痛かったのだろう。そう言うベルハルトが怒りと共に殺気を放ちだす。合わせて、カールもエーミルも俺を警戒しだす。
ナンシーだけは頭に?マークを浮かべているが、黙って状況を見守っている。
「――――分からないのか?」
「「「「っ!!!!」」」」
ベルハルトの殺気が可愛く思えるほどの殺気を放ち、空間を支配する。全員が俺から距離を取る。ベルハルト・カール・エーミルに至っては戦闘態勢だ。
だがそれらには一切構わず、俺は話を続ける。
「もう一度言うがこいつは人殺しの武器だ。お前がもし下手に触っていれば、誰かを傷つけていたか殺してたんだよ。実際は触らなかったから、とか寝惚けたこと言うなよ?お前は現に、煙を出す催涙弾と爆音と閃光のスタングレネードを弄り起爆までさせたんだ」
「ぐぅ」
ぐぅの音が出た。
「催涙弾の煙は吸い込めば激しい咳、くしゃみ、涙、嘔吐などの症状を引き起こす。辛いぞ?下手すれば呼吸困難に陥りそのまま死ぬ。彼女の魔法があって良かったな」
ゴクリと息をのむ音が聞こえる。
「スタングレネードにしてもそうだ。失明や難聴になったり、爆音と閃光にショック死したりするんだよ。一人で食らってパニックになったんなら分かるだろう。もし誰かを巻き込んでいれば、集団パニックで何が起こったか分かったもんじゃない」
殺気は既に放っていないが、皆黙って聞いてくれている。
「この二つは非殺傷武器だから、人が死ぬ確率はとても低い。でもそれは低いからと言って無視していいものじゃないんだよ。」
今回は運が良かった。ナンシーの魔法があったのも、ベルハルトが丈夫で失明や難聴などの後遺症が無いのも。
「俺はカールに言った、危険だと。そしてお前もカールから聞いたんだろ?俺はな、お前らに命を救って貰って、物凄い感謝してるんだ。……なぁ、ベルハルト。もしだ。目を覚ました時、恩人であるお前らが俺の武器で死んでいたりした場合、俺はどんな顔すればいいんだよ」
高校一年の頃に請け負った仕事で、イギリスのエージェントとコンビを組んだことがあった。向こうは
今なら自業自得だと笑ってやるが、当時屑である標的以外で人を殺したのは初めてでショックを受けたのを覚えている。
あれは所詮他人だったからと割り切ることが出来た。だが今回の彼らは違う。恩人なのだ。割り切る事なんてできない。一生記憶と心に残り続ける。
「……話は分かったわ」
俺の説教と言うか、独白と言うかが終わると、これまで傍観に徹していたナンシーがベルハルト達を糾弾し始めた。―――俺の頭をその薄い胸に掻き抱きながら。
「つまり、この状況は全部そこの筋肉ダルマが悪いという事ね。撃たれたのも自業自得じゃない。それなのに何なのよ、あなたたちは。寄って集ってグレン君をそんなに警戒して、
「いや、それは「うるさいっ、スケベ!」」
カールの弁明にすら耳を傾けない。てかスケベて。
「子供にこんな顔させて、大の大人が恥ずかしいったらありゃしない」
あれ?そうか、自己紹介の時寝てたから俺の年齢を知らないのか。
身長が167cmで低めなのも関係しているのかな。親父は190cmあったけど、母さんが150cmだったからな~。
「えっと、俺「いいのよ、無理しなくて。お姉さんだけはあなたの味方だから。ほら、存分に私の胸で泣きなさい」……え~」
どうやら、この三日の間に彼女が抱いた俺への僅かな熱は、斜めの方向へベクトルが急転換したようだ。
そんなお姉さんな彼女が頭を胸元でギュッとしていてくれているのだが、これが地味に痛い。Aカップであろう彼女の薄めの胸は、勿論Aカップなりの柔らかさがある。しかし豊満な胸に比べるとやはり、クッション性に乏しくなる。
そうなると俺の頭は必然、変則的なヘッドロックを掛けられているような状態となるのだ。ちなみに彼女の着ている服のボタンやら結び目やらもゴリゴリしている。
「
「うぐ……てめぇ」
うわー、ナンシーさん絶好調です。
彼らを煽る彼女の口は止まらない。
「ムッツリスケベな聖職者に良い人止まりで万年独身の商売バカ。そしてポンコツ脳筋。どうして私の周りには禄でもない男ばかり集まるのかしら」
「ム、ムッツリスケベ……」
「ほ、ほほ。これは手厳しい……」
カールにエーミルにも飛び火した。そして思いの外ダメージを受けている。心当たりでもあるのだろうか。
「三人とも早く謝りなさい。いい加減にしないと私、暴れるわよ?」
「「すみませんでした!」」
二人が暴れられたら敵わんと即座に頭を下げる。
「ほら、そこの脳足りんも、私を睨んでないで謝りなさいよ。まさか謝り方すら知らないとか言わないでしょうね」
ベルハルト的には謝るつもりがあるのは分かっている。説教の最期らへんは項垂れていたから。ただ、ナンシーが入ってきて、強制されているのが納得いかないのだろう。頭を下げた先には俺だけじゃなく、彼女もいる訳だし。
でも何だろうな。今の状況は個人的にとても面白い。
ナンシーによって悪と断じられたベルハルト。そして彼女にとって俺は未成年の子供。
面白い。とてもとても面白い。
「くっ。グレンッ、すまなかったっ」
ベルハルトの形相は凄まじいもので、ナンシーへの怒りが滲み出ていた。なので俺は―――
「全面的にお「ひぃぃぃっ!」……へ?」
なので俺は、盛大に悪ノリした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます