学園のご令嬢

よしりん

第1話 最悪の登校日

 ああ、清々しい朝だ、なんていい目覚めなんだ。こんな日は朝のコーヒーを飲んでゆっくりと登校するのに限る。

楓はコーヒーを入れて、優雅にテレビの電源をつける。

「ん……?」

楓は、テレビの時計をまじまじとみつめた。

時刻は午前八時三十分を過ぎようとしていた。

ここで楓は自分が遅刻しそうであることを悟った。

「ヤバい、入学式早々遅刻はヤバい。入学式は午前九時からだから、まだ間に合う」

楓は慌てながら、制服を着て靴を履き、玄関を出る。

「行ってきます」

楓はそう言って、走り出した――



 ――鈴の宮学園、今日から楓が通う学校の名前だ。偏差値はそこそこ高く、校舎も新しい、また、制服も可愛いため、女子の割合がとても高い。

この鈴の宮学園なら、すぐに彼女を作れるだろうと半ばウキウキしていた楓は今、まさに遅刻寸前である。

「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」

楓は自転車を飛ばして、額に汗を浮かべている。

しかし、楓は気にせず自転車を飛ばし続け、ついに視界に、鈴の宮学園の門がはいった。

「よし、あと五分でもある。」

楓はギリギリ入学式には間に合いそうだ、と安堵したが……

「あれ?門って逆さだったっけ……?」

ここで楓の意識は途切れた――



 ――あれ、何かいいにおいがする。

ああ、まるで可憐なお嬢様とすれ違った後の残り香のような、

また、ドブに落ちた少女と動物園ですれ違ったあとの残り香のような……?

「ってくせええええええええ」

楓は唐突にとても素敵な夢から無理やり現実に戻された。

「あら、やっとお目覚めになりましたわね」

楓が目を開けるとそこには、くさやを持って笑っているとても美しい女性が座っていた。

「明日からよろしくね、天野楓くん」

「よろしく?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る