おかあさんのたんじょうび

天照てんてる

おかあさんのたんじょうび

 あたしはあやこ。

 もうすぐ、おかあさんの、おたんじょうび。

 なにをあげたら、よろこぶかな?


 うーん、うーん、うーん。


「おかあさん、いまほしいものって、ある?」

「時間、かなぁ……」

「じゃあ、おてつだいするから、おかあさん、やすんでて!」

「ありがとう。お皿洗うだけでいいよ」


 ・

 ・

 ・


 あとふつかしかないのに、おもいつかない。


「おかあさん、いまほしいものって、ある?」

「やる気、かなぁ……」

「じゃあ、おかたとんとんしてあげる!」

「ありがとう。元気出たよ」


 ・

 ・

 ・


 あしたは、おかあさんのおたんじょうび。

 でも、まだおもいつかない。


「おかあさん、いまほしいものって、ある?」

「綾子、それよりな、弟か妹か、欲しい?」


 えっ。

 もらうの?

 あげたいのに?


「ほしい!」

「すぐにはあげられないけど、お祈りしよっか。弟か妹ができますように、って、お月様に向かってお父さんと3人でお祈りしたら、できるんだよ」

「そうなんだ~。おいのり、する~」


 おとうさんと、おかあさんと、あたしとで、おいのりする。


「おとうさん、おかあさん、さむいよー」

「お風呂入って歯磨きして、寝よう。ママ、お酒飲んでいいかな?」

「パパったらもう……タバコやめた途端にお酒ばっかり」

「けんかはだめなの! おとうさんけむたいけむたいなくなったの! おさけくさいくさいけど!」


 おとうさんとおかあさんは、なんだかよくわからないけど、わらいはじめた。


「じゃあ、一杯だけね?」

「うん。風呂上がりに、ビール」


 おとうさん、わすれてるかも。おかあさんのおたんじょうびのこと。


「ねえねえ、きょうはおとうさんとおふろはいりたい!」

「あらどうしたの珍しい。ママの方がいいって言ってたのに」

「なんとなく~!」


 おかあさん、きがついてないといいけど。


 ・

 ・

 ・


「ねえねえパ……おとうさん」

「ん?」

「おかあさんにね、ほしいものきいたらね、じかんとか、やるきとか、いうの。

 あやこね、がんばって、あげたよ」

「そうか。ママの誕生日か。忘れてた」

「やっぱり~!」


 おふろ、おとうさんとはいって、よかった。


「でもね、おとうさんとおかあさんとおいのりしてておもったの。おねえちゃんになりたい! っておいのりしてたの」

「お姉ちゃんになりたいんだ?」

「あかちゃん、かわいいもん! いもうとがいいなあ」

「どっちだろうね」

「ぜったい、いもうと!」

「ははは。だといいね。でも、弟でも可愛がるんだよ?」

「それでね、パパ、じゃなかった、おとうさん。あしたね、おたんじょうびかい、しない?」

「どんな?」


 おたんじょうびかい。

 ケーキとろうそくとおうたと……。


「パ……おとうさん、ケーキかってきて!」

「うん、予約してないから、普通のケーキみっつでいいかな?」

「だめ! まるいの! それからろうそくいっぱい!」

「いっぱいはダメだよ、ママ24歳になるから、2のろうそくと4のろうそく買ってくるよ」

「わかった! あとおうたのれんしゅうしといて!」

「練習しなくても、ハッピーバースデーぐらいは歌えるよ」


 おふろ、あつい。


「パ……おとうさん、あつい」

「そうだね、じゃあ上がろうか」


 ふきふきふきふき。おねえちゃんになりたいから、じぶんでがんばって、ふいた。


「ママ、ビール!」

「発泡酒しかなかった」

「仕方ないか」


 あれ?

 おとうさんがへん。

 いつもだったら、ビールじゃないのかよ! って、おこるのに。


「じゃあねるね、おとうさん、おかあさん、おやすみなさい」

「おやすみ」

「おやすみ、よく眠れるといいわね」


 ・

 ・

 ・


 おふとんでゆたんぽであったまりながら、おいのりをした。


 いいおねえちゃんになりますから、いもうとをください。


 ・

 ・

 ・


「おとうさん、おかあさん、おはよう」

「よく眠れた?」

「うん、ゆめのなかで、いもうととあそんでた!」

「綾子は相変わらず気が早いな」


 だって、いもうとほしいもん。

 おいのりしたもん。

 まいにちするもん。


 ・

 ・

 ・


「ただいま~」

「パ……おとうさん、おかえりー!」

「パパ、お疲れ様」


 ばんごはんをたべて、おかあさんがあとかたづけをしているあいだに、いそいでかざりつけ。


「じゃあ、お風呂……あら?」


「「『ママ』『おかあさん』おたんじょうびおめでとう!!」」


「あらやだ、それでほしいものって訊いてたの?」

「そうなの~、でもね、わかんないからおたんじょうびかい!」


 おかあさん、ないちゃった。

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