僕らの望まないユートピア

たに。

僕らの望まないユートピア

 ここは世界が望んだ、平和な世界。戦争も紛争もなく、貧困に苦しむ人も、大金持ちも存在しない。全員が平等で平均の世界だ。

 この世界は全ての人間は、同じ考えでないと、殺人ロボットによって殺されてしまう。まるで、木から落ちて傷んでしまった果実のように、世の中に出回って良いのかを選別される。そして、ジャムにされるように、人々の心には一応残るが、姿はこの世から消される。

「この世界にも曲がった考えの奴がいる。取り合えずそれは今のところ、僕だけだ」

 誰もが一度は望んだ、憧れた、空飛ぶ車。現在は、外でも暑さ寒さを調整のできる外用のエアコンなんかも考えられているらしい。人工知能による店内清掃、接客、料理、会計、配達、製造。今のところ、働いている、人を思い浮かべると、誰もいない。そしてこの世界からは、たくさんのものが消えた。新聞、ニュース、映画、動画サイト、ゲーム、小説、宗教。歌。云々。

 しかしこの世界で、外に出ることは至って普通だ。人々は、毎朝同じ時間に起きて、散歩を毎日ひたすらしている。それくらいしかないのだろう。

 僕は毎日のように、布団に入り込み、自分の望む世界が舞台の小説を書き続けている。見つかれば、僕は確実に消されてしまうだろう。あまりにも外にでないと、怪しまれるので、時々は散歩をして、最近のこの世界の様子を見て回ったりした。

 勿論それをすることも、消される対象になる。今日はその久々の、散歩の日だ。

 僕はいつものように周りと同じように、普通を装いながら、様子を見て回った。

 家に帰ると、玄関の鍵が開いていた。まさか泥棒な訳がない。泥棒なんかは、一番最初の頃に全員消された。増える事もない。行動をしただけで一瞬で消されてしまう。僕の友達がそうだった。遊びでしただけで、跡形もなく消えてしまった。だから泥棒のはずがない。じゃあ誰って言うんだ。答えは一つ。殺人ロボットだろう。

 ドアを開けると、いたのはとても綺麗で美しい女性だった。

 その子は、こちらを見るなり「渡辺圭さんこんにちは」

 確かに彼女は僕の名前を呼んだ。僕は彼女を知らない。

「君は誰なんだい?」そう聞くと、ニコリと笑い「あなたを探してたんです」聞いている事と違う言葉が返ってきた。代わりに、意味のわからない事を言ってきた。

「君は?」僕がもう一度聞くと「監視員です」とだけ答えた。予想はついた、恐らく疑われているのだろう。

「監視員ですか?なんでです?」僕は至って普通の人を演じる事にした。

「あなたがこの世界に反しているのではないかと疑われているからです」

「そんな事しませんよ。僕の生活を見てください」

「それもそうですね。それと私はロボットですよ渡辺圭さん」

「そうだろうなーって思ってたよ」

「それで君の名前は?」

「監視員です!」

「君の名前だよ?僕は圭。君は?」

「あ、そう言う意味でしたか」

「それしかないでしょ」

「私は、No.0037です」

「番号なのか・・・」

「はい。人は私をそう呼んでいます」

「じゃあそうだな。サナと呼ばせてくれ」

「サナですか。良いですね。渡辺圭さんありがとうございます」と少しニコリと笑った顔が可愛かった。

「圭でいいよ」

「わかりました。少しの付き合いですが、よろしくお願いします。圭さん」

「よろしく。サナ」

 凄く丁寧に喋るサナに、少し寂しさを感じたので「サナ柔らかく喋ってくれていいぞ」と言うと、何も言わず、すぐメモ帳みたいなものに何か書き始めた。

 僕はインスタントのブラックコーヒーの粉をマグカップに入れ、お湯を灌ぐ。するとすぐにコーヒーの良い匂いを感じる。

 僕は、サナの分を迷ったが、結局入れる事にした。そっとテーブルに出すと、サナは目をぱちくりさせながら「えっとー私そのー」と言い始めたので「いやこれから少しの間いるだろ?だから気持ちだけでも受け取っといてくれ」と用意しておいた言葉を言った。すると「私ブラックコーヒーは飲めない。砂糖とミルクをお願いです」と片言の言葉を喋った。ロボットみたい。ロボットか。きっとさっき言ったのを、しようとしてるんだなと思った。僕はすぐに砂糖とミルクを用意してサナに渡すと「ありがとう」と今度は、自然に言ってきた。

 サナはロボットだ。錆びたりはしないのだろうか。高性能なロボットで、コーヒーですらもエネルギーに変えてしまうのだろうか。サナは熱いコーヒーを一気に飲み干し、ニコリとまた笑った。

 その日は、二十二時に寝ることにした。しかし、サナは眠らず、一人床に三角座りをしながら、こっちを見ていた。

「寝ないのか?」

「ロボットだから寝れない」

 寝れないにしても、女の子をそんな扱いをするのも気が引けるので、自分の毛布をかけてあげると、サナはまたニコリと笑って「ありがとう」と一言いい、その毛布を、綺麗な物を見るかのように、目を輝かせてた。

 翌朝、トン。トン。と言う音で目を覚ますと、サナが凄く慣れない手つきで、料理を作っていた。

「おはようサナ。どうしたんだい?」

「一緒にいる間は、私が作ろうかと思いまして。それと昨日のお礼です」

「そうか。助かるよサナ」と僕はサナの頭を撫でてやると、サナはまたニコリと笑った。

 サナは本当によく笑う。本当にロボットなのかと疑うくらいだ。

「サナ」

「なんですか?」

「そのサナは本当にロボットなんだよな」

「はい。そうですが」

「すまんな。いきなり変な事を聞いて」

「いいえ。気にしてないですよ」

「そう言えばサナ朝ご飯は何?」

「今日の朝ごはんは、カレーです」

「朝から、凄いな」

「カレーは元気が出る、食べ物と聞いております」

「それは、ありがとう。サナ」

 またサナはニコリと笑った。ロボットらしくない。表情が本当に可愛いな。と思った。

 サナのカレーはお世辞でも美味しい物ではなかった。野菜は食べやすい大きさになっていないし、肉はしっかり切れていなくって繋がって食べずらい。

 けど、なぜかそれを食べると元気が出た。サナは僕を覗き込みながら「どうでしょうか?」と言って来たので「うん。美味しいよ」と優しい嘘をついた。

 そのあとはいつものように、散歩をした。いつもと景色が違うのに、サナがいるだけで、景色すら違って見えるのは先入観なんだろう。

「あのビル凄く綺麗ですね」

「ああそうだな・・・」

「私に合わせてません?」

「多少はね。女の子と接するとき、男が合わせないと、機嫌を損ねかねないからな」

「そう言うところは、ずれてますね。自分の思ったことを言わないといけませんよ」

「まあな」

「このままだと削除対象ですよ。圭さん」

「それもいいんじゃないかな」

「なぜです?本当に消されてしまうんですよ?」

「消された世界ってあるのかな」

「ないですね。恐らくそこは無だと思います」

「それは少し嫌だな」

「そうでしょ?だから普通が一番なんです」

「そうなのかねー」

「まあ、圭さん次第です。今日の事は見逃しておきますね」

「サナは優しいんだな」

 僕はいつもと同じで、少し違った気持ちで、この散歩を楽しんだ。それは紛れまなくサナがいたからだろう。

 その言葉を最後に、それからはずっとサナはメモ帳のような物になにか書き込んでいた。歩きながら書いてるのを見て、器用なんだな。と思ったがロボットだったのを思い出し、これがロボットにとっての普通なんだろう。と思う事にした。

 そう考えると、僕もみんなと合わせるために、いろいろなことをやっていた。学校のクラスメイトとは平均的な付き合いをして、彼女だっていた。けど、それは僕には窮屈で、退屈で、気持ち悪かった。だから今は、友達も彼女も居ない。僕が少し変わった素振りを見しただけで、危険だと思ったのか僕から遠ざかっていった。

 僕の連絡先には、空白が広がっている。親の連絡先すら入っていない。それも当然で、親は早くになくしている。実際は親だった人。僕は十歳の時に捨てられている。原因は、母と父の子供じゃないことがわかったからだ。

 そんな理由で僕には、帰る家もない。考えられる唯一の帰る場所は、僕を育てた孤児院だけだ。けど、そこもそろそろ取り壊しになってるいるらしい。この世の中になってからは、捨て子も減って、今では、子供を捨てただけでも、消去の対処になっている。だから、古くから育った孤児院も僕が最後の一人だったのだ。

 僕は、このままだと消されてしまうだろう。サナにバレないように、僕は僕自身を圧し殺して、過ごすことを決めよう。サナのメモも気になる。いつか見れるチャンスが来るはずだ。

 今日の夜はとても寒い夜だった。サナは相変わらず、寒そうにもせずに三角座りで座っているだけだった。僕はまた毛布をかけてやると「ありがとうございます」と嬉しそうに微笑む。これも昨日と全く同じだ。そう思っていた。けど、今日はサナは、思い出したように立ち上がり「用事がありました。少しの間外出してきます」と一言言うと、走ってドアを開けて飛び出したので僕の「気をつけて」は聞こえていなかったと思う。

 ロボットにも用事ってあるんだな。それとも、主人のところにでも帰ったのだろうか。考えても眠れないだけなので、僕は目を閉じて、サナが無事で帰ってくることだけを願い、眠りについた。

 朝起きると、トントンとリズミカルな音が聞こえてきた。まさかと思ったが、サナだった。昨日までは、トン。トン。と慣れない感じだったのに、さすがロボットと言うべきなのか。

「おはようサナ」

「おはようです。圭」

 サナの言葉がおかしい。きっと言語以外の事は、簡単に学習するが、今の技術では難しくて、なかなか覚えられないのかもしれない。

 そして今日の料理は、オニオングラタンスープとサラダ、おまけにハンバーグときた。朝からはお腹が大変な事になりそうだが、昨日の夜は何も食べていなかったので、空腹感から『いただきます』忘れて口に頬張っていた。思った通り味も変わっていた。

 サナは相変わらず、こちらをじっと見つめて「どうですか?美味しいですか?」と聞いてきたので「凄く美味しい。こんなの初めて食べた」と思ったことをそのまま言った。するとサナは「お世辞でも嬉しいです。圭に喜んでもらえて嬉しい」とまた言葉が変だった。「サナは何でも上手く出来て羨ましい」と思わず口に出すと「私は人間が羨ましいです」と返してきた。サナのその顔は初めて見た笑みで、また人間だと思うくらいだった。

 最初の冒頭でもったが、この世界には、仕事なんて存在しない。だから、凄く暇なのだ。まずする仕事が政治家くらいしかない。それもほとんどは、ロボットによる政治だ。金は政府から支給されているから、誰も困ってもいない。けど、どうしてそんなに金があるのだろうか。と思うだろう。実は全くの情報がないのだ。

「どうやってサナは動いているんだ?」

「私がどう動いているか、わからないのです」

「わからない?」

「はい。全く」

「本当にサナはロボットなのか?」

 サナはロボットなのに、電源ボタンもない、充電器を繋ぐ場所もない。そしてご飯も普通に食べる事だ、もしかしたらサナは人間なんじゃないかと思った。けど、そんな考えは一気に覆された。サナが腕を見せてきたのだ。それは金属で出来た腕だった。

「ロボットです」とそれを見せながら、少し悲しいかおをしている気がした。きっと嫌な気持ちは、ロボットにでもあるのだろう。だから僕は「ごめん」と謝った、サナはビックリした顔で「どうしたの?圭」と聞いてきた。これには僕もビックリだった。サナは、無意識にそう言う顔をしていたらしかった。

「でも圭。なぜ私がロボットなのに、ロボットと聞いたの?」とすっかり友達のような口調に変わっていた。

『サナのような可愛いロボットが人だったら良いのにと思ったからさ』なんて言えない。だから僕は「サナの料理が美味しいから」と我ながらよくわからない、答えをだした。それでもサナは喜んでいた。

 僕はやっとこの世界で、初めて好きになったのが、クラスの女の子でもなく、サナなんだとこの時確信した。

 今の学校は、ポイントと言うのがある。簡単に言えば、良いことをすれば上がるし、悪い事をすると下がる。そのポイントは、教師が一人一人につけていて、成績表に、自分自信の評価と『価値』がつけられる。そこで起こるのが、誰かがほとんどやった仕事奪うマンが大量発生した。僕はそんな事には、付き合っていられず、僕の評価は、最低ランク。ポイント0、価値0だった。

 しかし、僕はその『価値0』が気に入っていた。中二病なわけではなかったが、人々から遠ざかれている気分になれたからだ。けれど、僕は周りの人とは上手く付き合ってきた。宿題を写させてやったり、ペンを貸してやったりなど、小さいことを積み重ねて、そこそこの学校生活を送った。あまりにも何も無さすぎると、消されかねない。そう思っての行動だった。

「圭、圭」とその声で過去の話が途絶えた。サナが必死に僕には何かを話している。どうやら昼ご飯を作ったから食べてほしい。それだけだった。僕にとったら、さっき食べたばっかな気分なせいか、食べたい気分にはならなかったが、テーブルに目をやると、小さなサラダだけが置いてあった。これじゃ作ったってより切っただな。と思ったが口には出さなかった。

「サナ。なんでサラダだけなんだ?」と疑問だった事を言ってみた。すると「圭の食べたいものは、全部わかる」と返された。これが人間の女性なら完璧な嫁になるな。なんて想像したが、サナに悪いと思い言わないでいた。

「さすがだなサナはなんでもわかるんだな」

「圭お腹空いていない顔してた」

「どんな顔だよ」と僕は少しいや、かなり笑ってしまった。

 そしてこれでもかと「こんな顔」とサナがロボットには、見えない顔芸をした。

「ちょっとまって僕そんな風に見えてるの?」

「冗談ですよ」とサナはクスリと口に手を当てて笑っていた。

「サナは面白いな」

「ありがとうございます」とペコリと頭を下げ

た。

 ロボットはここまで進化したんだと思った。それもそうだろう、人工知能が作るロボットだ。ロボットは、自分自身で学習をし始める。けど、サナをみてると僕を見ながら成長しているように見える。まるで子供のように。

 僕はここで疑問に思う。誰だってそんなこと考えたくもないだろう。『サナは人間だったのではないか』と。それなら色々と人間ぽいと言う説明がつく。僕はこの事を、サナに気づかれないように、記憶を消されても良いように、メモしておいた。


十二月一日、僕の家に突如と現れた、監視ロボットNo.0037。僕はそいつに『サナ』と名付けた。

十二月三日、僕はサナが人間だったのではないかと疑い始めた。


 僕はそのメモを、机の抽斗の奥に、しまった。

「圭、今日は散歩をしないの?」

「ああ、散歩はあんまり好きじゃないんだ」

「運動しないと、太っちゃいますよ」

「まあ確かに太るな」 

「太ってしまったら、圭。消されちゃいます」

「サナは僕は消えるべき存在だと思うか?」

「まあ私は監視ロボットですし、どちらでもないです」

「それもそうだな」

「じゃあ俺は痩せなくてもいいのか」

「それはダメです。痩せてください」

「君たちロボットからしたら、消えた方が良いとかあるんじゃないのか?」

「まあ、ありますけど」

「あるのかよ」とツッコムとクスクスとサナが笑った。やっぱり人間と思うと、その行動すら人間らしさが出てくる。

「けどダメです。圭、ちゃんと痩せましょう」

「わかったよ・・・」

 僕は不承不承コートを着て、玄関を開けると、凍死しそうな寒さが待ち構えていた。僕は、炎の魔法が使える魔術師になりたい。この季節になると、いつもそう思う。

夏は水の魔法が使える魔術師になりたい。これなら、魔術師になった方が手っ取り早そうだ。魔術師入門っていう本がほしいが、本がこの世界にない。

 眉間だだったか?刺激すると超能力がとかあった気がする。第三の目か?よく覚えていない。そんな事を考えつつ、寒い外を歩いた。肌を刺す風は、一気に僕のさっきまでの体温を奪い去った。

「寒い」と呟く僕の姿を、薄着のサナが平気な顔をして「今日は寒いですね」と返してきた。「いやいやサナが一番寒そうだ」と僕はサナに言うと「そうですか?じゃあ圭さんの監視が終わったら、今度服を買いに行かないとですね」と寂しそうに呟いた。「僕はサナと買い物に行っても良いぞ?僕も服かいたいし」と買うつもりもなかったけど、そう嘘をついてみた。

「そうですね」となんの感情もなしに呟いた。やはり『自称』ロボットに、嘘はバレるのだろうか。

「じゃあ明日早速買いに行くか」と僕はサナに言うとやっぱり「わかりました」と感情もない言葉が帰って来た。

 こうしてサナとの買い物が決定した。決定と言うより、僕が行くことにした。

 翌朝、身体の上に何かが乗っている感覚があった。金縛りか?それにしてはやけに形がハッキリしている。恐る恐る目を開けると、そこにはサナがいた。「サナおはよう」と言うと「圭早く起きて」と起きてるのに起きてと言われた。その目は輝いていた。

 サナの目の先を見ると家の窓が、真っ白になっていた。「凄く綺麗ですね」サナはそう言ったが、なぜ真っ白なのか一瞬だがわからなかった。それは初めて見た、サナの輝いた目のせいかも知れない。

「雪か。確かに昨日は寒かったしな」と寝起きの喉が渇いた声で、僕は言った。するとサナが急に窓を開け始めた。「サナ待て!開けるな!」そう言えば良かった。時すでに遅し、冷たい風で部屋の熱が奪われ、同時に凍てつくような風が入ってきた。「あーなんか寒いー」とサナが言った。「サナ窓閉めて」と僕が言うと、サナはすぐ窓を閉めてくれた。それはそうとさっきサナが気になる事を言っていた。『あーなんか寒いー』と。

 僕は疑問に思って恐る恐る聞いてみた。すると「いやヒーターが付いているので、寒さは感じにくいだけで少し寒いっていうのはわかりますよ」と返ってきた。もうわけがわからない。

 人間だったとしたら、その小柄な身体に、ヒーターなんて付いていたら、重くて動けないはずだ。ましてそんな小柄な身体にはならず、身体が大きくなるはず。やはりサナは、技術が進んで出来た、ロボットなのだろうか。

 僕は冷蔵庫から5日前に買ったきり飲んでなかった、ネナジードリンクを飲みながら時計を見ると、六時だった。「早すぎやしないか?おじいちゃんじゃあるまいし」と言えば、返ってくる言葉はわかっている。「今じゃ普通ですよほんと圭は変わっていますね」とサナはクスリと笑った。

 サナは本当に監視ロボットなのだろうか。人間だったてことは、一度置いておいて、監視ロボットだとしたら普通なら速攻消されても、おかしくないのだ。なのにもうサナが来て四日だ。僕は消える気配すらなく、そんなロボットと一緒に買い物までしている。「圭この服可愛いですね」とサナが見てたのは、マネキンに飾られている服だった。ロボット達が、流行りや季節感を把握して、これを着るだけでオシャレと思われるようになっているから、そう思うのも無理はない。「そうだな。似合うと思うぞ」

僕がそう言っても「これは綺麗な人が着るものです。私なんか似合いませんよ」としか返ってこない。僕はこっそりとそれらをサナがいない間に買って、家に配達をさせるようにした。

 その日は自分の物は買わなかった。「圭はなんで何も買わなかったの?」「僕は良いんだよ」サナは首を傾げていた。

 家に帰ればサナはきっと驚くだろう。僕は家に帰るのがワクワクしていた。そう思っていた。しかし家に帰ると、荷物は届いておらず、ガッカリした。

 僕は、きっと明日までには届くからサナが驚くぞ。と楽しみにしていた。

 そう思っているとその物はすぐに来た。「サナ今手が離せないから行ってくれるか?」「わかった」とサナが玄関に行くと、きゃ!と子猫が鳴くような可愛い声があがった。

 僕もそこに行くと、サナが見ていた服が、届いておりキラキラと目を輝かせていた。やっぱり欲しかったんじゃないか。僕は少し笑みがこぼれた。「着てみてもいい?」「ああ良いとも。サナのために買ったんだから」「ありがと圭」何時に無く彼女は、笑顔だった。

 サナは鼻唄を歌いながら、その場で服を脱ぎ始めた。「あっちの部屋で着替えないのか?」思い出したかのようにサナは「エッチ」と言い残し、スキップをしながら、扉の置くに吸い込まれていった。掃除機もビックリの吸引力だ。と思いまたクスリと僕は笑った。

 最近思うのが、サナが来てから僕はよく笑うことが、多くなっている。楽しいもそうだが、何よりあのキラキラと光る目とちょうど良いぐらいの小柄な体型で、綺麗な髪の毛。僕はそんなサナに恋をしているからだろうか。

 少しするとサナが扉をあけて「どうかなー」と髪を口元に持ってきながら言ってきた。「似合ってるよ」僕は素直にそう思った。サナに着てもらうために作られたとしか考えられないくらいに、凄く似合ってるし最高級人形のように可愛かった。

「圭ありがとう。私すっごく嬉しい。けどどうして買ってくれたの?」と唇に指を置いて、首を傾げていた。僕は日頃の感謝とだけ言った。

 サナは雪を見た時の十倍くらいは、はしゃいでた。「私これ一生大事にする!」とくるくる回って言ってたのを見ながら、僕はただ喜んでいるサナを見ていた。すると思い出したかのように、サナはゴソゴソと玄関で何かをしだした。数分後「圭にもプレゼント」と言って高級そうな腕時計をくれた。理由は聞かずともわかった。僕が持っていないからだ。僕はサナからのプレゼントがとても嬉しかった。「サナありがと」サナは照れくさそうに笑った。

 それから僕は毎日のようにその時計をつけて、サナは僕のプレゼントした服を交互に毎日着ていた。小さなカップルみたいだ。僕は一人でそう思った。「またどこか出掛けよう」僕の口は勝手に動き、サナからは「そうですね」と落ち着いた口調で返ってきた。

 僕はそんなサナとの日常がずっと続くと思っていた。

 朝と夜が何回かきた新年のある日。僕はサナが居なくなった事に気づく。サナの役目が終わったのだ。

 サナを忘れないように。忘れないように。と僕は途中からだったけど、大きな出来事や嬉しかった事楽しかった思い出を物語のように書いた、日記帳読むと思い出に吸い込まれていった。


 十二月十一日、サナと水族館に行った。サナはサメに詳しかった。「あ!ネコザメ!にゃー」と猫ポーズをして僕に言ってきた。「に、にゃあ・・・」と可愛さに戸惑いながら、返した。明日は動物園に行くことにした。


 十二月十二日、予定通り動物園に行った。サナがウサギのふれあいコーナーで、たくさんの白や茶色、黒に餌をやっている姿がウサギより可愛かった。帰りに売店で、ウサギの耳のある帽子を買った。


 十二月十五日、その日は外出せずに、ひたすらサナと酒を浴びるように飲んだ。サナは酒には弱かった。そして甘え上戸だったらしく、めちゃ甘えてきた。僕は、少しだけいい思いをした。


 十二月十九日、遊園地に行った。最初は下に落ちるのに、なぜか宇宙に行くスペースシャトルの形をしたフリフォールに、僕は無理やり乗せられて、死にそうになった。これが宇宙の意味か?と思った。僕は魂を置き去りにしたまま、ジェットコースターに乗り、サナは大笑いをしていた。サナの意外な一面を見れて、幸せだと思った。


 十二月二十二日、僕は風邪を引いた。その日は買い物の予定をしていたが、病院に行ったり薬局行ったりと、そんな買い物だった。

 

 十二月二十三日、気づけば世間はクリスマスムードになっていた。それなのに僕はベッドに震えながら寝込んでいた。しんどいので今日はここまで。


 十二月二十四日、クリスマスイブ。今日は調子が少し良かったので、外に出ることにした。サナにはかなり止められたけど、折角のクリスマスイブだ。町の至るところが飾り付けをされて、美味しいと噂のケーキ屋には行列が出来ていた。僕らはこの間の予定だった、デパートに行った。サナは店員ロボットと話ながら、試着してからその服を買った。

 ゲーセンで、もぐらたたきをしたりした。僕は100点中84点。サナは安定の100点強すぎる。僕らはデパートから出ると、いつの間にか夜になっててそこには、あちこちでカップルで溢れていた。よそよそしく歩いていく、付き合って間もないだろうカップルや、愛を語りながらホテルに入っていくカップル達と横目で見ながら僕とサナは、手すら繋がず普通に歩いていた。

 家に帰ってからは、デパートで五分ほど並んで買ったサンタとトナカイとチョコで出来た、小さな家の飾りがあるケーキをサナと一緒に食べた。僕はサンタとトナカイをサナに譲り、サナは嬉しそうにサンタの頭を囓っていた。僕はチョコの家を分解して食べた。どこにでもある味だった。


 十二月二十五日、クリスマス。僕らは家で昨日の残った、サンタもトナカイも家もないケーキを食べた。その日は、何をするもなく寝た。最近のクリスマスは、イブで終わっていると思った。


 十二月二十六日、クリスマスは終わり。キラキラした飾りは、跡形もなく消え去っていた。サナは悲しそうに、賑わっていたベツレヘムの星を自慢げに掲げていた、もみの木を眺めていた。僕は、そんなサナを眺めていた。


 十二月二十七日、クリスマスの形なんて綺麗さっぱり消された町を、サナと二人で歩き、話た。サナに対する気持ちは、どんどん強くなっていた。サナと二人で大掃除をした。僕の部屋は物がそんなに置いてある訳でもないので、すぐに大掃除は終わった。外を出れば、しめ縄や門松を出しているところがちらほらあった。当然僕の家は出さないつもりだ。サナは何も言わず僕を見ていた。


 十二月三十一日、大晦日。この世界の大晦日は退屈だ。僕の唯一楽しみだった歌番組ももうないのだ。僕とサナは酒を飲みながら話をした。サナが来る前の事や、サナが来てからのことを思い出話のように語った。サナは「そんな事もありましたね」と優しく言った。僕はサナの思い出も知りたいと思って聞いてみた。「サナの思い出を聞かせてくれ」と。サナは酔っていたせいか長く聞けなかった過去をサナは語ってくれた。「実は私はロボットなんかじゃなかったんです。私も昔は人間で圭みたいに周りとずれた考えを持っていました。気づくと私はみんなと同じになっていました。ここまでが唯一思い出せる人間だった頃の思い出です」

 サナが言い終えると、僕は自然とサナを抱き締めていた。ロボットなのに柔らかな肌にぬくもりを感じた。「圭、苦しいです」僕はすぐに離れて「ごめん」と謝った。「圭は謝らなくていいよ。ただ凄く凄く嬉しかったの」と言ってきた。けど、サナは続けてこう言った。「もう圭の監視は出来ない」と。意味がわからなかった。詳しく聞こうにも泣き出してしまい、話せそうにない。けど、それで良いのかも知れない。きっと聞けば僕も泣きたくなる。

 僕は優しくサナを抱きしめた。人やロボットなんて関係ない。サナから感じたのは、心からのぬくもりだった。

 僕は、サナを抱きしめたまま眠ってしまった。


 ここで日記は止まっている。


 僕は思い出から現実に引きずれ出された。


 僕は、泣いていたってつまらないと思い、初詣に行く支度をした。宗教はないのに、なぜか神社や寺はある。設定がガバガバだと思った。

 みんなは考えたことはないだろうか。クリスマス。お正月。結婚式。ハロウィン。バレンタイン。この国は行事がいっぱいあって、疲れる。けど、やっぱりそれを言ってしまうと、消されるのだろう。そんな事を思いながら、僕はサナが隣にいない道を歩いた。

 僕は参列客の一番後ろに並び順番が来るのを待った。

 りんご飴、たい焼き、お好み焼き、カステラ、チョコバナナ、的屋、インチキ臭い占い屋などを通りすぎてやっと先頭に立った。賽銭を投げ入れて、拝み方なんて知らないので、手だけを合わせた。正直何を拝んで良いかわからないから、「サナが元気でいれてますように」と心の中で思った。

 僕は暇潰しにおみくじを引いてみた。「末吉」まあまあだった。僕は結ばず、ポケットに入れて遠回りをしながら家に帰る途中、公園でカップルのキスを見た。

 二人で抱き合って幸せそうな光景を見せつけられて、邪魔がしたくなったの我慢して家に帰った。サナが居なくなった部屋はとても広く感じて、とても寂しい空気があった。

 目を閉じたらすぐ側にサナがいる。気づくとそんな事を思っているせいかサナのいる夢を見た。一緒に話す夢、歩く夢、キスをする夢。とても幸せだった。唇に違和感があった。ゆっくり目を開けると、サナがいた。「圭、今日はいきなりいなくなってごめんね。今日は大事な話をしに来たの」僕は「大事な話?」と聞き返した。

 サナは僕の目を見て「一緒にこの世界から逃げよう!もうじき私たちは殺されます」と。僕は『ついに来たのか』と心の中で思った。「逃げるったって逃げるところなんかあるのか?」「あります」「どこに?」「この世界の地球は丸くはないです。四角い箱庭なんです」「ちょっと待って」さすがに僕でも理解が出来なかった。「あなたも私も実験用の造られた人間なんです」もう僕の思考はついていけない。ただサナの話を聞いているだけだった。だけど僕は全部サナが言うことを信じた。

 僕らは山にピクニックに行く準備をした。と言うのは嘘で、怪しまれないためだ。『バレたら消される』と思いながら、電車からバスで3時間揺られ、降りてからはサナの後ろをあるいた。すると背の高い草木の場所に出た。サナは何かを探すように草木を掻き分けてると「あった」と呟くので覗いて見ると、空中に浮かぶドアノブが1つついていた。ドアノブのその先は壁ではなく、その先もずっと続いていた。けど、なぜかポカンと空中にドアノブだけが浮かんでいた

「行きますよ。ここから先は苦しいと思います」

「大丈夫。サナがいれば何も苦しくない」

「私も圭がいれば寂しくないです」

 僕らはそのドアノブを捻った。すると空は真っ赤に染まり、警告音が鳴り響いた。僕らはそのまま開いたドアの一番奥に見える小さな光を目指して走った。追ってくる者は居なかった。脱出は成功した。僕らはそうは思えなかった。

走りきって出た場所はさっきと少しも変わらない場所だったからだ。

「脱出出来たのか?」と不安げにサナに聞くと、サナは「脱出は成功ですよ」と優しく僕に言ってきた。

 見える景色、吸う空気ほとんど違いがわからない、箱庭の外の世界。けど、違うものが一つだけあった。サナが人間としていることだ。サナは驚いて「私、人間に戻れたの?」と嬉しそうに聞いてきた。「ああ戻れたんだよ」と僕はサナを抱きしめながら耳元で囁いた。するとサナは「渡辺圭さん。私と結婚前提で付き合って下さい」と少し照れて、けど真っ直ぐな目で僕を見つめて言ってきた。僕はただそれが嬉しかった。けど、先に言われてしまった。それでも良いだろう。きっと僕らはとても変わってて、普通の恋人で普通の夫婦になるんだと、思った。

 この世界がまた箱庭でもいい。サナがいれば僕は何だって出来る気がする。「こちらこそ。よろしくお願いします」僕らの人生はここから動きだし、二人で一つの人生にしていくのだと思う。きっとあの箱庭は、僕らが生み出した、ディストピア。望まない理想郷だったのかも知れない。


 終

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