COLOR
usagi
第1話 COLOR「色のようなもの」
初めて自認したのは、3歳くらいの時だったかと思う。
「あの人何してるの。」
母と手をつないで駅前の商店街を歩き、僕は路地裏を指さして質問した。
一瞬間を置き、彼女は露骨に嫌な顔をしながら、
「誰もいなじゃない、やめてよ。」と答えた。
その記憶が、今でも鮮明に残っている。
時々フラッシュバックするくらいに。
いつもニコニコと優しかった母のその顔が、ずっと忘れられない。
僕は小さいながらも、「色のない人たち」については話してはいけないと感じ、以来、そのことを人と共有できないやりきれなさを持ち続けている。
決して気味が悪いものではなく、単に自分の目に入ってくるだけのもの。
無機質な、抜け殻のような人たちが世の中の至るところにいるという現実は、自分にとっては確かなものだった。
それは色、というか「色のようなもの」、だった。
家の中でも、外でも、至るところにそれは存在していた。
時には人の形をし、何かの物や生き物だったりした。
最も感覚に近いものが色だった。
人の周りにも様々な色が見えた。虹のように、その色は無限に存在した。
薄いもの、濃いもの、光が強いもの、弱いもの。光が強い人は弱い人に対して強い存在となり、色が濃い人は薄い人よりも自己主張が強かった。人は僕みたいに色が見えずとも、それを感じているようだった。
そして、母が嫌な顔をしたあの日から、僕は「色のようなもの」と共に生きてきた。
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