第三話 走る動機
――駅伝に出るだと?
部長の言葉に耳を疑い、首をかしげ、隣に立つ悠一郎に視線を送った。
開けているのかもわからぬほど、糸目の彼。ひょっとして、寝てるとか? それともこれはすべてが夢で、ほんとうは、あったかいふとんの中で寝ているのかもしれない。そう考えるとほっとして、わたしも真似て目を細めてみる。
部活がはじまる前、部長がみんなを集めて、駅伝参加を発表したのだ。
かつて、弱小陸上部は、廃部の危機にあった。だけど、わたしたち一年生が十四名(男子八名、女子六名)が入部し、辞めずに活動している現状に、中学駅伝大会に参加することを、顧問が思いついたらしい。
男子は六区間一八キロ(全区三キロ)、女子は五区間一二キロ(一と五区は三キロ、他は二キロ)、市営緑地公園の周回コースで十一月に地区予選会が行われる。そこで上位六位まで入った学校が、十二月の県中学校駅伝大会に出場し、その上位二位の学校が全国大会へ行けるらしい。
その昔、陸上部は全国大会へ行ったこともあるそうだ。
だからといって、そのときの陸上部とわたしたちを、重ねてみないでほしい。
実に不愉快だ。過去の栄光を持ち出し比較するのは年寄りの本分、と知ってはいるけど、ちっともうれしくない。期待という重荷を背負わされたら、積載オーバーで走行不能になるほど、わたしのハートはウブなのだ。
脳裏に、体育祭の悪夢が蘇る。
わたしの意志とは関係なしに、学年別リレーにエントリーされていた、あの恐怖。
陸上部というだけで勝手に期待され、結果に「なーんだ」と落胆し、手のひら返したような冷たい視線を浴びせられた。「失望した!」とクラスのみんなから陰でいわれるところを想像してしまい、バカみたいに悲鳴をあげたくなる。
勝てる見込みのないわたしに、期待したみんなが悪いのだ。
他のクラスだって、陸上部を選抜してくるに決まっているではないか。
いや、ひょっとしたら、顧問が手を回していたかもしれない。
あのときのリレーはまさに、場所を移した、陸上部の記録会みたいなものだった。
事実、こっそりタイムを計測していたらしく、駅伝大会のメンバーを選抜するための材料にするから、と顧問は告げた。
それを聞いて、いい気はしなかったけどほっと息をつき、心の中で叫んだ。
――わたしは痩せるためだけに入った、足の遅い陸上部員だっつぅーの。
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