第三話 熱いまなざし
部長命令が下って一週間。
時間だけが過ぎた。
やはりというか、いまさら部活に入ってくれる子はみつからなかった。
レギュラー落ちしているからといって、その部活が好きだから辞めずに活動しているのだ。文化系の部活をしている子や、幽霊部員と化した帰宅部連中にも声をかけた。でも、誰でもいいから入部してほしいわけじゃない。やる気がない子を集めてもしょうがないことぐらいわかっている。
このまま部が潰れても、わたしは困らない。その方が都合がよかった。嫌われることに怯えず、ひそかに彼の活躍を愛でる至福を味わう機会を得られるのだから。
まだ五人いるから、だいじょうぶ。
わたしが辞めたら潰れるけど、それは彼に嫌われる行為。
それに、夏の大会で彼の走りを間近でみたとき、懸命に走る姿に感動してしまった。
あの姿が間近でみれなくなるのは、正直惜しい。
なんにしても、二年の先輩が引退する来年までは潰れる心配はないし、集めようとして無理なら、来年やってくる新一年生に期待すればいいだけのこと。
「そういうときは、最悪の事態を想定して考えないといけないんだって」
「どういうこと?」
しまったと思ったけど、口から出た言葉は引っ込まない。
わたしができたことといえば、口に手を当てることだけ。
「あ、変な顔」
彼に笑われた。
うわぁーっ、最悪。
思っていても、面と向かっていうか、そんなこと。彼だから、まだ許せるけど、他の男子だったらまちがいなく、蹴飛ばしているとこだ。
雨のため、部活は階段トレーニングだった。一段飛ばし、二段飛ばし、三段飛ばしを三セットくり返し、そのあと廊下を流したり、ダッシュしたり、筋トレしたり。内容はそんなにきついものではなかったけど、なにげなく彼にいわれたひと言がきつかった。
「いまのままだと、来年の勧誘もきびしいってことだよ。弱小で自慢できる成績もない部活に、入ってくれると思う?」
「んー、思わない」
「だろ。個人種目でいい成績出すのが一番大事だけど、簡単には出せない。だったら、いまのうちに少しでも部員増やして、見栄えだけでもよくしておけば、新一年を迎え入れやすくなる。その準備をしとくのは、大事だと思うんだ」
「そうだよね!」
一段と、彼がりりしくみえた。
熱いまなざしは、わたしだけに向けられている。きゃっほー。
こうなったら、なんとしてでも部員を確保し、彼の思いに答えなくては。
最後の手段、とわたしが提案したのは、ほかの部と掛け持ちでもいいから入部してもらうことだった。でも、学校は掛け持ち制度を認めていない。この提案は、先輩たちからも却下された。だからって、そんなことであきらめるわたしではなかった。
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