第二話 あのひとに伝えたい
そんなこといわれてもねぇ……。
アイデアどころか、ため息でちゃうよ。
「ねえ、鷹秋くん。運動系の花形って、サッカーや野球、バスケにバレー、それに剣道に水泳と名前があがって、陸上なんて最後の方じゃない? 競技用のランニングとシューズは必要だけど、走るだけなら、特別な器具はいらない。他とくらべて部費はたぶん格安、それだけで、秋口から入部してくれるひとがいるとは思えない」
おまけに、イメージは、きつくて地味。
陸上部員のわたしがいうセリフじゃないけど。
「部費はあまりかわらないんじゃないかな。それに、問題はそういうことじゃないよ」
昼休みの教室で、彼はわたしにいった。
ちなみに、下の名前で彼を呼んでいる。呼び捨てではいえない。
かわいく愛称で、「たかちゃん」と呼びたいけどそれは、胸の中だけに止めている。
クラス委員でなくなっても、こんなに近くで話せるよろこびで、顔がにやけそう。
「これはぼくたち自身にかかってくる、切実なことだよ」
どういうこと、と訊ねるのは愚問だろうか。
彼に嫌われたくない一心で、質問したい気持ちにブレーキをかけ、すり替える。
「そ、そうだよね。切実だよ、うん」
腕組みしてポージングまで決めれば、完璧。
「だから手分けして、部員を集めよう。二年生がいまから入部してくれる可能性はほとんどないけど一年なら、まだ可能性があるだろうしね。レギュラー落ちしている運動部の男子に声かけてみるから、そっちは女子をお願い」
「うん、まかせて!」
ためらわず、わたしは両手を突き上げた。
「みんなー聞いて、陸上部がピンチなの! どうしても、みんなの協力が必要なの。いまから入部したいって子がいたら、わたしのところまで来て。大至急!」
教室にいたクラスメイトから、「なにいってるんだ」という冷たい視線が集まる。
近くにいた友達は理由を聞いてきたので、部員が減って大変だと話した。
返事は「大変だね」と素っ気ないもの。
結局、うちの教室には協力してくれる奇特なひとはいなかった。
はじめからあてにしてはいなかったけど、ここまで予想通りだと、あきらめもつく。
「だからといって、あきらめるわけにはいかないよ。うちのクラスから協力が得られなかったからといって、すべてがだめと決まったわけじゃない」
そういって彼は、一人ひとりに声をかけて説得を試みていく。
ひたむきな彼の姿をみているだけで、胸の奥がぎゅっとされて熱くなる。
この熱さが、わたしのやる気につながった。
友達に片っ端からメールを送り、勧誘をしてみる。それだけでなく、陸上をやってくれそうな子の情報も集め、そんな子がいると聞けば、直接会いに行ったりもした。
正直、陸上部なんてどうでもよかった。
彼のために、わたしのできることをする。
このがんばりと思いを、彼に伝えたい。
その一念からくる行動だった。
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