第74話 魔法 → 総攻撃

小魔女の短杖(ウィッチワンド) - 【愛嬌1】僅かに魔力を増幅し、魔法が使いやすくなる杖。女性専用。


 リミが双剣を鞘に納めて手にしたのはこのダンジョンで手に入れた杖。スキルとして発現するほどではないけど魔力が上がって、魔法が使いやすくなる。僕も試してみたかったんだけど女性専用らしくて駄目だった。でもリミに聞いてみたところ確かに魔法が使いやすくなったみたい。ただ、困るのはこの杖を持つとリミがよけいに可愛く見えちゃうことだ。

 どうもモフといい、リミといい【愛嬌】スキルは毛のある生き物と相性がいいらしい。


 っと、いまはそれどころじゃなかった。モフとタツマは素早く動き回ってバーバリアンキングを引き付けてくれているけど、ただたんに力任せで無茶苦茶に振り回される棍棒の攻撃は次の予測ができないから、見た目以上に綱渡りだろう。


「リミ、シルフィ。僕はモフたちが離脱できるようにしてくるから、僕たちが離脱したら魔法と弓で攻撃して」


 僕はふたりの返事を待たずにバーバリアンキングのもとへと走る。タツマには念話で動きは伝えてあるから、タツマならタイミングを逃すことはないはずだ。

 しかもモフが僕の動きを察して、僕がバーバリアンキングの視界に入らないように誘導してくれる。心の中で感謝を伝えながら【隠密】で気配を消して背後から近づくと、龍貫の槍で右ひざの裏を力一杯突き刺す。


 ゴガォォォォオオォオオォ!


 僕の攻撃で少しは痛みを感じたのか咆哮を上げるバーバリアンキング。だけど、くそ! 【貫通】スキルがついたこの槍で、力一杯関節部分を突いても槍先の半分くらいしか刺さらない。だが、モフたちから注意をそらすことはできた。


「モフ! 後ろを見ずにリミのところまで走れ!」

「きゅん!」


 僕のすぐ脇を白い塊が一瞬で駆け抜けていく。その影を追ってなのか、背後からの一撃に対してなのか、振り返ろうとするバーバリアンキングの顔の前に【光術】で光の球をぶつけつつ僕も踵を返す。その際に【技能交換】を仕掛けようとか思わなくもないが、それこそ危険に対する認識が低下している証拠だ。


 グゲェア!


 目を光で潰されたバーバリアンキングの苦鳴を聞きながら、小さく頭(かぶり)を振って邪念を振り払うと僕は走る。その僕とすれ違うように水の槍が数本飛んでいく。風を裂く音も聞こえるからシルフィの風矢も一緒だろう。

 その攻撃の結果を確認したくて振り向きたくなる気持ちを抑えて走り続けると、すぐにシルフィたちのところへ辿りつく。そして僕は即座に振り返って槍を構える。


『やっぱりだ! やつは物理耐性はあるが魔法には弱いみたいだぜリューマ!』


 タツマの嬉しそうな声を聞きながらバーバリアンキングを確認すると、確かにリミの水の槍や、シルフィの風矢が刺さったと思われるところから流血しているのが見える。


「ふたりともどんどん攻撃して! 近寄らせる前に魔法で押し切るよ! リミは引き続き【水術】で攻撃」

「うん!」

「シルフィは僕が【火術】で火を出すからそれを矢にして顔を狙って」

「はい!」


 リミは魔法の威力はあるけど、まだ狙いが甘いから得意な魔法をとにかく『ぶっぱ』させたほうがいい。その代わり精密射撃のできるシルフィにはあいつの顔を狙って目を潰してもらう。僕は燃え盛る炎をイメージして小さな火の球をを複数シルフィの周りに浮かべる。あとは数秒維持しておけば、シルフィが火矢にして使ってくれる。

 もちろん僕も攻撃する。シルフィの矢のために火を出しながらも、並列して【水術】を使う。僕にはリミほど魔法の威力はないから工夫が必要だ。だから、魔法の並列起動もタツマとの訓練で身に付けたし、タツマの世界の知識を使ってちょっと変わった魔法も生みだした。


 生成した水をリミよりも細く長く槍の形にしていくまではあまり変わらないが、ここから更に深くイメージをして、水の分子運動を遅くしていく…………すると水槍が氷槍に変わる。

 【氷術】スキルがないのに不思議だけど、タツマの世界の知識に基づいてイメージを強く持てばこんなこともできる。シルフィに顔付近を任せたから、僕はあいつの足を狙って動けなくしてやる。


 大雑把で高威力なリミの水槍が胴体を撃ち、燃え盛る炎の矢が顔へと集中、そして僕の氷槍が足を貫く。僕の【水術】スキルを応用した氷魔法じゃ足元を氷で固めるなんてことはできないけど、足を氷槍が貫けばバーバリアンキングの足は傷と同時に中から冷えていく。それはあいつの動きを鈍らせていくはずで、いずれ動けなくなるはずだ。


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