第75話 九階層 → 制覇

 僕たちの魔法の総攻撃を受けても、バーバリアンキングはなかなか倒れなかった。魔法に耐性がなく僕たちの攻撃を受けてどんどん傷だらけになっていくのに、バーバリアンキングのもつ種族としての再生能力と【疲れ知らず】の称号がバーバリアンキングを動かし続けている。

 だけど、シルフィの火矢は確実にあいつの目を潰していたし、僕の氷槍はあいつの足を動かなくしていた。リミの魔法も集中がうまくいっていた序盤はあいつに刺さってダメージを与えていたが、疲れてきてからは槍というよりは槌のような水槍が身体中に打撃魔法として命中していた。


「みんな頑張って! もう少しだよ!」


 この三カ月で十分にレベルが上がっていて、【魔力再生】スキルがなければこれだけの魔法を撃ち続けることはできなかっただろう。


 そして、そのときは訪れた。


 リミが放った水槍(槌?)がバーバリアンキングの頭部を直撃し、積み重なったダメージに力が抜けかけていたバーバリアンキングの首がその衝撃に耐えきれずに折れたんだ。

 短い断末魔の咆哮を漏らしたバーバリアンキングはゆっくりと倒れていった。


「…………」

「…………」

「…………」

『…………』

「きゅん?」


 低い地響きと共に倒れたバーバリアンキングがもう動かないことを沈黙して見守っていた僕たちは、バーバリアンキングがダンジョンに吸収される現象が起こるまで動けなかった。まちがってもここで「やったか?」なんて呟いてしまうようなフラグは立てない。


 ややあってバーバリアンキングがダンジョンに吸収され始めたのを確認して、ようやく僕たちは大きく息を吐き出して座り込んだ。


「ふわぁ~! きつかったよぉ! もう魔力からっぽだよ」


 種族的に魔法が苦手なはずの獣人、いくら才能があるとはいってもきつかったよね。でも間違いなくリミが一番ダメージを与えてくれた。


「お疲れさま、リミ」


 僕はリミを近くに引き寄せて頭を撫でてあげる。ふにゃあって気持ちよさそうな声を出すリミだけど、リミのふかふかの猫耳やさらさらの髪を撫でるのは僕にとっても癒しなんだよね。


「私はリューマ様の魔法を弓で撃っていただけですので、魔晶やドロップアイテムを集めてきます」


 そんな僕たちを見ていたシルフィが立ち上がろうとするのを、僕は手首をつかんで引き留めるとぐいっと力を込めて抱き寄せる。


「いいよ、そんなのはあとでみんなでやれば。シルフィは弓を撃っていただけっていうけど、あれだけ精度の高い射撃をしていて疲れないはずないよ。万矢の弓だって、普通の矢を使わないときは魔力を使っているでしょ」


 その証拠に僕がちょっと引いただけで膝からカクンって力が抜けている。


「あ……そんな、リューマ様。その……ありがとう……ございます」

「ううん、お礼を言いたのは僕のほうなんだ。本当に皆がいてくれてよかった。今回は僕の判断ミスでこんなぐだぐだな戦いになっちゃったんだ。僕ひとりだったらきっとどうにもならなくて死んでいたと思う。だけど、リミが、シルフィが、モフが……そしてタツマがいてくれたからなんとかなった。本当にありがとう!」


 思わずふたりを抱きしめる。本当に皆が無事でよかった。僕のせいで誰かが怪我したり、死んじゃったりしなくてよかった。やっぱり僕はまだまだだったんだ、もっともっと修行して強くならないと……皆をちゃんと守れるように。


「えへへ、そんなの当たり前なんだよりゅーちゃん。だってリミもシルフィも仲間なんだもん」

「そうですよ、リューマ様。私は奴隷の身ですけど……」


 ちょっと顔を赤くしながらはにかんでくれるふたりにどきどきしている僕は、リミだけじゃなくていつの間にかシルフィも大好きになっていたんだと気づいた。これから先どうなっていくのかなんて僕にもわからないけど、絶対にふたりを守っていこう。




 それから三人でもじもじしながら、気まずくもほんわかする休憩時間を過ごしてから、部屋中に散らばった魔晶を全員で集めた。バーバリアンキングの魔晶はこのダンジョン生活で集めてきたものの中でも最大だった。そして、あの棍棒……


蛮族の棍棒 - 【体力回復1】【頑強2】 体が固くなり力が湧いてくる。


 こんなのを持ってたのか……ただの棍棒だと思ってたのに。どおりでタフな訳だ、とても僕たちには装備できない武器だけどあとでスキルだけ貰っておこう。棍棒も武器としては使えないけど、木材としてならいろいろ加工できるかも知れないし一応持っていこう。


「今回はちょっと大変だったし、十階層の探索は見送ってダンジョン探索はこれで終わりにしよう。一応、十階層を覗いて、それから引き返そうか」

「うん、それがいいかもね。じゃあ、おうちに帰ったら、いろいろ片付けないと」

「そんなに荷物はありませんけど、三カ月以上も暮らした場所ですからきちんとお掃除はしたいです」

「そうだね。じゃあ今日はゆっくり休んで、明日片付けと掃除をして出発は明後日にしよう」


 僕の提案にうなずくふたりと、これからのことについて話し合いながら十階層への階段を下りていく。

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