AI 雪白ヒカリ
深月珂冶
商品名 雪白ヒカリ
自分が人間ではなく、人間によって作られた人工知能のAIだと知っていた。
それでも、私はつい先日まで、人間と共に暮らし、人間的な扱いを受けてきた。
藤山は私を実の娘のように扱った。
私は藤山の介護をしていた。藤山は私が『お母さん』と呼ぶのを喜んだ。私はそのことが嬉しくて、幸せだった。
けれど、藤山いや、お母さんは死んだ。
心の奥で何かが壊れ、痛くなるような喪失感を抱いた。
初めて、救いのない悲しみを味わった。
私は製造会社のゴールデントゥリーに返品されたのだ。
そこで初めて、私自身の商品名を知った。
私の商品名は『
外見は、黒の長髪に、肌はシリコンの白色で二重まぶた。目鼻立ちは高く、一般的には美人に作られているらしい。
スタイルも均整の取れたように作ってあるようだ。自分ではよく解らない。
私が最初に作られたのは二〇六〇年だ。
返品され、製造会社に戻されたときの衝撃は凄かった。
私は私だけだと思っていたからだ。
けれど、普通に考えれば商品としては同じクォリティのものを製造するのだから、なんら可笑しい話ではない。
ただ、何処と無く虚しさを感じた。私の代わりは沢山いる。これほど辛いことがあるのだろうか。人間はたった一人しかいない。同じ人間はいない。
恐らくは私以外の、同じAIも思っただろう。
残酷な現実ではあるが、受け入れてしまえば、それほど苦痛ではない。
私にはお母さんとの生活があったことは幸せだ。
それを思えば、不思議と気にならなくなった。
会社に返品されてから、同じ顔、同じ体のAIと過ごすのは楽しかった。
一つの部屋に四体のAIが暮らしている。
皆、何処かの家に買われたが、様々な事情(マスターの死以外にその他)で返品されてきたAIだ。
皆、それぞれの生活を送っていたようだ。その話はとても不思議で面白かった。
自分の知らない生活、自分の体験したことない話は興味深い。
そんな日々がずっと続けばいいのにと思った。
しかし、その日々は続かないようだ。
返品されたAIは解体されるらしい。
理由は一度、人の手に渡ったAIは、新たな
実際にそのAIが新しい主人に危害を加えた例があるからだ。
私たちは、まもなくただの鉄くずになる。つまり、AIで言う「死」だ。
それを思うと、震えた。それを待つだけの今。
解っているが、息を止めるような苦しさだ。
皆、その現実をわかっていても口にしなかった。最後まで楽しく過ごそうと思った。
時間は刻々と過ぎ、私たちはやり切れない思いを抱えた。
そんな私たちの部屋に、開発者の
とうとう、解体されるのか。私たちは覚悟を決めた。
金木は若くして私を開発したことで、一躍、有名な科学者になったのだ。
金木は私たちを、部屋の中心部に集めると、話し始める。
「君たちは本当に頑張った。これからは私の元で働いてほしい」
どうやら、私たちは解体されずに済むらしい。
嬉しさのあまり、私たちは声を上げて喜んだ。目から水が出る。涙だ。
産みの親の金木は私たちを心から思ってくれていた。
商品名 雪白ヒカリ(了)
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