「……こんにちは」

 と雨はもう一度、水瀬くんに言った。

「うん。こんにちは」

 水瀬くんは言う。

 それから二人は無言になった。

 水瀬くんは中学校の制服を着たままだった。私もそうすればよかった、とその真っ黒な制服を見て、雨は思った。


「神社の中、案内してもらってもいい?」

 少しして、遠野神社の境内の中を見ながら水瀬くんがそう言った。

「もちろん」

 雨は言う。

 それから二人は遠野神社の境内の中を散歩するために、神社から参道の上に靴をはいて移動をした。

 その移動の間、ふと視線を感じて家のほうを見ると、雪がにっこりと笑って、遠目から雨と水瀬くんのことをドアの影に隠れるようにして見つめていた。

 姉はすべてを知っていたのだと雨は思った。

 今日は、このあと、久しぶりの姉妹の喧嘩になるかもしれない。

 そんなことを考えながら、雨は水瀬くんと一緒に遠野神社の境内をぐるっと一周、歩いて回った。

「すごいね」

 水瀬くんはそう言った。

「そうかな?」

 雨は言う。

 幼いころからずっと見慣れている景色を見ても、雨は水瀬くんの言う通りに、遠野神社の存在について、すごい、と言った感想を持つことはなかった。

 二人はそれから境内に移動するための長い石段を下って、神社の入り口にある大きな赤い鳥居のところにまで移動をした。

 それはその赤い鳥居を見たいと、水瀬くんが言ったからだった。

「でも、鳥居なら帰るときにまた見られるよ?」

 と、雨が言うと、「遠野さんと一緒に見たいんだ」と水瀬くんは言った。

 その言葉を聞いて、雨はなんだかすごく嬉しくなった。

 見慣れたはずの赤い鳥居も、今日はなんだかすごく特別なものに見えた。それが、すごく不思議だった。

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