3 ……ひだまりの中で。

 ……ひだまりの中で。


 四葉にはそれが二人の永遠のさよならのような気がして、なんだかすごく不安になった。

 もう二度と、詩織と会えないのではないかと、四葉は思っていたのだ。

 でも、四葉が東京に帰る夏休みの終わりのころに、詩織は四葉の前に、夏の陽炎の中に(あるいは霧の出る湖の向こう側に)、消えてしまうことなく、ちゃんと四葉の前にその姿をあらわしてくれた。

「こんにちは」

 それはキスをしたせいだろう。

 詩織はなんだか、すごく恥ずかしそうな顔をして、そう言った。

 四葉もすごく恥ずかしかったのだけど、でも、もう二度と詩織に会えなくなるのではないかという不安のほうが大きかったから、どちらかというと、ほっとして、それからすごく嬉しくなった。

「こんにちは」

 四葉はなるべくいつものように、詩織にそう返事を返した。

 そんな普段通りの四葉の様子を見て、詩織もなんだか、すごく安心したようだった。

 詩織はいつものように、にっこりと明るい太陽のような笑顔を四葉に見せてくれた。

「四葉くんに、知っておいてほしい場所があるの」

 詩織が言った。

「僕に知っておいてほしい場所?」

 四葉は首をかしげる。

「うん。だから一緒に来て」

 そう言って、詩織は四葉の手をとって、緑色の森の中にある四葉の家の前から、急ぎ足で移動を始めた。

「あ、ちょっと待ってよ」

 そう言いながら、四葉は詩織に引っ張られるようにして、早足で歩き出す。

「ほら、四葉くん。早く早く」

 詩織はすごく嬉しそうな顔で笑った。

 頭にかぶっている黄色いたんぽぽの飾りのついた麦わら帽子が、詩織にすごくよく、似合っていた。

 詩織はすごく綺麗だった。

 眩しい太陽の光の中で、詩織にその手を引かれながら、そんなことを四葉は思った。

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