森で暮らす梟(旧)
雨世界
1 ……ずっと、愛しています。
森で暮らす梟
登場人物
本編
……ずっと、愛しています。
秋野四葉と雨宮詩織が出会ったのは、二人が小学四年生のときだった。
その日、四葉は両親と一緒に信州にある森の奥の町に親戚の家を訪ねて遊びにやってきていた。
その町には東京では見ることができない美しい自然と、それから大きな湖があった。
とても美しい湖だ。
そのとき、四葉は一人で大好きな森の木々を調べながら、その湖の湖畔をまるで異国の土地を冒険でもするように、植物図鑑と木の枝を持ちながらゆっくりと歩いていた。
そんなとき、四葉は詩織と出会った。
詩織はその山奥の町に住んでいる地元の女の子だった。
四葉と同い年の十歳の女の子。
「こんにちは」
そんな風に詩織に声をかけられて、四葉は夢中になって読んでいた植物図鑑から顔をあげて詩織の顔を見た。
詩織はすごく綺麗な女の子だった。
そんな詩織のにっこりと笑った笑顔を見て、四葉はその瞬間、産まれて初めての恋に落ちた。
それは四葉の初恋だった。
詩織は少し前から四葉のことに気がついていたようで、地面の上に座り込んでいろんな植物を見ている四葉のことが気になって声をかけたのだと言った。
でも、そんな詩織の言葉も、緊張している四葉は、あまり聞き取ることができないでいた。すると、そんな四葉の姿を見て詩織がまたにっこりと笑った。
「私、雨宮詩織って言います。よろしくね」と詩織は言った。
「僕は秋野四葉と言います」と四葉は言った。
すると詩織はその小さな手を四葉に向けて差し出した。
それはよろしくの握手を求める行動だった。
その手を、四葉は遠慮がちに握った。
詩織の手は、なんだかとても柔らかくて、そしてちょっとだけ体温が冷たかった。
「四葉くん」
と詩織が言った。
「はい。なんですか?」四葉が言う。
すると詩織はまたにっこりと笑って、それから「秋野四葉くん。私と、雨宮詩織とお友達になってください」と四葉に言った。
四葉は感動して、「もちろん」と詩織に答えた。
そして二人は友達になった。
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