授業41 寝言
「すぅ……すぅ……」
酔い潰れた母さんが俺の膝に頭を置いて眠っている。
「こうしてると本当に子供みたいだな」
俺は母さんのサラサラした銀髪を手で撫でながら呟く。
「ふふっ、りっくん新しい注射ですよ」
「ひぃ!」
母さんの口から発せられた言葉に怯え、俺はソファの隅に逃げた。
「あう」
俺が動いたことで膝から落ちた母さんが悲鳴を上げる。
「……すぅ……すぅ」
だが、またすぐに寝息を立てていた。
「な、なんだ寝言か。……ふぅ」
俺は安堵し額の汗を拭いながら嘆息する。
「早希さん寝ちゃったのか?」
いつの間にかソファの後ろに立っていた青姉が聞いてくる。びっくりした。
「う、うん。酔い潰れちゃったみたい」
「そっか。薫も酔い潰れてあんな調子だ」
言って青姉は食卓の方を指差す。
指の先を見ると薫さんが空になった皿へ顔を埋めていた。
「で、泥酔だね」
服は乱れて上も下も下着が見えている。
あまりにみっともない姿に俺は呆気に取られてしまった。不思議とイヤらしい感情は湧いてこない。
「薫はお酒弱いんだ。飲むと最後は大体ああなってる」
「それ大丈夫なの? 変な男に襲われたりしちゃうんじゃない?」
薫さんみたいな美人があんな姿で寝てたら邪な気持ちになる男もいるだろうに、心配だ。
「本人もそれをわかってるから信頼できる人の前でしか飲まないようにしてるらしい」
「そっか。それなら安心だね」
「そうだな。鈴が薫を襲わなければ安心だ」
青姉はニヤッと笑って意地悪な言葉を紡ぐ。
「お、俺には大好きな青姉がいるからそんなことしないよ」
負けじと、俺は青姉の目を見てキザなことを言った。正直、ものすごい恥ずかしい。
「とか言って鈴には私があんな風に寝てても襲う度胸ないだろ」
「うぐっ。調子に乗りました。すいません」
言い負かされて謝罪する。
「でも好きって言って貰えたのは嬉しい。ありがとな」
「ううっ」
優しく頭を撫でられ、俺は照れくさくて俯いてしまう。青姉の方が一枚上手だった。
「そろそろ二人を部屋に運ぶか。ずっとここで寝てたら二人とも風邪をひいちゃう」
「そうだね」
「私は薫を運ぶから鈴は早希さんをお願い」
「わかった」
青姉に言われ、俺は母さんを背中に背負う。青姉は薫さんを軽々持ち上げ、お姫様抱っこしていた。
その姿は物語出てくる王子様のようでかっこいい。
「じゃあ行くか」
「うん」
俺は頷いて青姉の後に続きリビングを出た。そして俺達は転ばないようにゆっくりと階段を登る。
「んん~。りっくんの大好きな青ちゃんにお注射しちゃいましょうかぁ?」
運んでいる途中、母さんがこんな寝言を言ったから青姉が怖がって肩をビクッと震わせていた。
危うく薫さんを落とす所だ。
「こら」
部屋についた俺は、母さんをベッドに寝かせてからお仕置きとしてデコピンをする。
「あうぅ。……すぅ……すぅ」
母さんは可愛い悲鳴を上げたけど、起きることはなかった。
起きてる母さんにはデコピンなんて絶対出来ないから反応が新鮮で面白い。
「ふふっ、おやすみ」
俺は笑い、母さんに布団をかけて部屋を出る。
青姉もちょうど薫さんの部屋から出てきたところだった。
「降りて後片付けだな」
青姉が優しく微んで言う。
「そうだね」
それを聞いた俺は、微笑み返して頷いた。
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