授業39 誤解?
家の前に着いた俺は、玄関の扉を開けて中に入る。青姉が立っていた。
「鈴!」
俺に気づいた青姉が駆け寄ってくる。俺はまた拒絶されるのではと身構え、目を閉じた。
「ごめんな」
しかし、訪れたのは体を抱かれる温もりと優しい涙声の謝罪だった。
「あ、青姉?」
戸惑い、目を開ける。
俺は青姉に抱き締められていた。青姉は俺の肩に顎を乗せている。
「ちゃんと説明もせずあんな言い方したら振られたって思うよな」
「ち、違うの?」
振られたと思っていた俺は青姉の言葉を聞いて希望を抱く。
「ああ、違う。私は鈴を振ったわけじゃないんだ」
青姉ははっきりと言い、頷いた。
「で、でも俺と恋人にはなれないって……」
「確かにそう言った。でも違うんだ」
混乱して俺が聞くと、青姉は抱き締めるのをやめて説明を始める。
「なぁ鈴、私はなんて言った?」
俺の両肩を手で掴んだ青姉が真剣な目でじっと俺の目を見る。
「……俺と青姉は生徒と先生だから恋人になれない。だったよね」
俺は言われた通りに青姉の言葉を思い出し、声に出して確認した。
「そうだ」
青姉は首肯する。
「で、でもこれって振られてるんじゃ?」
思い出させられた意図がわからず俺は困惑して顔をしかめた。
「違う。私が本当に伝えたかったのは恋人になれないっていう部分じゃないんだ」
青姉は首を横に振って俺の言葉を否定する。
「じゃあ青姉が本当に俺に伝えたかったことって?」
「それは、私達が先生と生徒だからってことだ」
「えっ?」
俺と青姉が生徒と先生だってことは伝えて貰わなくてもわかってることだ。
聞けば聞くほど青姉がなにを言いたいのかわからない。
「ど、どういうことなの?」
頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにしながら俺は首を傾げて尋ねる。
「つ、つまり、私と鈴が先生と生徒の間は恋人にはなれないってことだ」
「んっ? ごめん青姉、全然わかんない。初めと言ってること変わってないよね?」
「ああもう、鈴のバカ! 鈍感! 少しは察しろよ!」
「なっ! ど、どうしていきなりそんなこと言われないといけないんだよ! 言いたいことがあるのにはっきり言われない青姉が悪いんだろ!」
「うぐっ。た、確かに……」
突然青姉に罵倒され、俺は言い返す。言い負かせたのか青姉は俯いてしまった。
「それで青姉が言いたいことってなんなの?」
振られたわけではないということがわかった俺はすっかり元気になって俯く青姉を問い詰める。
「だ、だからそれはその……」
「なに? モゴモゴ言ってたらわからないよ?」
口籠る青姉の顔を俺は下から覗き込む。
「……っ!」
すると、青姉はビクッと体を震わせて顔を真っ赤に染めた。
そして自分のおでこを俺のおでこにぶつける。
ヘッドバッド。日本語で言うと頭突きだった。
「痛っ!」
予想だにしない攻撃を受け、俺はバランスを崩して尻餅を突く。
「鈴なんて嫌いだ! バカ!」
青姉は真っ赤な顔で俺を見下ろして言い放ち、階段を駆け登って行った。
「えっ、ちょっ、青姉!」
追いかけようと手を伸ばし、クラっときて頭を押さえる。
「今のはりっくんが悪いです」
ずっと隣にいた母さんが残念なものを見るような冷たい目で俺を見て言葉を発した。
「えっ、俺が悪いの?」
「はい。反省して下さい。ぺっ!」
靴を脱いだ母さんは俺の頬へ向かって唾を吐いてからリビングへと入っていった。
さ、さっき優しく俺を励ましてくれた人だとは思えない。
「あっ、鈴君。って、ど、どうしたんですか! おでこから血が出てますよ!」
階段を降りてきた薫さんが玄関に座り込む俺を心配してくれた。
「きゅ、救急箱持ってきますね!」
「あの薫さん」
俺はリビングに入ろうとする薫さんを呼び止める。
「なんですか?」
「結局青姉は俺になにを伝えようとしたんでしょう?」
「さ、さあ?」
その場に居なかった薫さんがわかるはずもないことを尋ねると、案の定、薫さんは困った様子で首を傾げた。
お、俺、本当に振られてないんだよね?
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