授業26 全部熱のせい
目を覚ますと、視界には青姉の顔がアップで映っていた。
「はへ?」
状況が飲み込めなくて間抜けな声が出た。
な、なんでこんな近くに青姉の顔が? も、もしかして、き、キスされてた?
夢の中で青姉の頬にキスをしていた小さな自分を思い出して、自信過剰な想像をしてしまう。
「あっ、ごめん。起きちゃったな」
青姉は顔を離して謝罪の言葉を口にする。
「だ、だだ、大丈夫だけど、か、顔近づけて、なな、なにしてたの?」
震える声で青姉に尋ねる。
「ん? おでこで熱を測ってただけだぞ?」
青姉は動揺する俺を不思議そうに見つめ、軽く首を傾げた。
後ろで結われた黒髪がサラリと揺れる。
勘違いだったのがわかって顔が熱くなる。
は、恥ずかしい。調子乗ってすみません。
そもそもマスクを着けているから唇にキスされるはずがなかったのに。
「り、鈴、顔赤いけど大丈夫か? ま、また熱上がったか?」
焦った様子で心配そうな顔をして、青姉は俺の顔を覗き込む。
視界の大半を青姉の顔で支配され、俺は余計に恥ずかしくなって、体ごと動かしてそっぽを向いた。
「だ、大丈夫! で、でもあんまり近づくと青姉にも風邪うつっちゃうから離れて!」
「別にうつしてもいいんだぞ。人にうつしたら早く治るって言うし」
「ば、バカなこと言ってないでいいから離れて!」
これ以上青姉の顔が近くにあると、熱で思考力の低くなった頭では変なことをしかねない。
「なにもそこまで拒絶しなくてもいいだろ」
青姉はしゅんとした声を出した。
「は、離れた?」
壁を見つめたまま確認する。
「ああ、離れたぞ」
「本当に?」
念には念を入れてもう一度確認する。
「本当だ。もう離れた」
「わかった」
俺は青姉の言葉を信じて体を反転させた。
「なっ!」
だが、青姉は離れておらず、それどころか俺の眠るベッドに寝転んでいた。
そのせいで鼻と鼻がぶつかりそうなほど接近してしまっている。
激しい心臓の鼓動音に意識が向いていて、青姉の動きに全然気がつかなかった。
「ふふふっ」
小悪魔じみた微笑を浮かべる青姉。
「こんなに近づいたら本当に風邪うつっちゃうよ?」
まんまと騙された俺は眼前にある澄んだ黒い瞳をじっと睨みつける。
「だからうつってもいいって言ってるだろ?」
青姉は一切悪びれる様子もなく飄々としながら言葉を紡いでいく。
これだけ顔が近くにあるのに青姉はなんとも思っていなさそうで、俺はそれが少し不満だった。
ドキドキしてるのは俺だけかよ。
「青姉のバカ」
「ふふふふっ」
俺に罵倒されたというのに青姉はなぜか楽しそうに笑っていた。
その笑顔は夢の中で金髪の青姉が小さな俺を子供扱いしていた様子を想起させ、俺は思わずイラッとしてしまう。
未だに子供扱いしやがって……。
「なんで笑ってるんだよ?」
「別に鈴が拗ねてるのが可愛くて笑ってる訳じゃないぞ?」
青姉はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、本当に違うのなら言わなくてもいいことを言う。
ニヤけ顔で可愛いとか言われると、バカにされてるみたいで余計に腹が立つ。
同時にかっこいいところを見せてやるという謎のやる気が沸き上がり、俺は理解不能な行動に出た。
「そんなにうつして欲しいのならうつしてやるよ!」
言い、俺はマスクを顎まで下ろして目の前にある青姉の唇に自分の唇を重ねる。
……ファーストキスだった。
「んんっ!」
青姉は目を見開き体を強張らせ驚いているようだ。
驚くのも無理はない。キスをした俺自身もどうしてこんなことをしたのかわからなかったのだから……。
きっと全部熱のせいだ。
俺はそう自分に言い聞かせながら、今は蕩けるように甘い感触に身を委ね目を瞑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます