授業24 ひきこもりは体が弱いのです

「ごほっ、げほっ」


 翌日、俺はマスクを付けたままベッドに寝転び、布団を首まで被って咳をしていた。


「大丈夫か?」


 ベッドの脇に座る青姉が俺のおでこを濡れタオルで冷やしてくれる。

 ひんやりとして気持ち良い。


「ありがとう、青姉。ごほっごほっ」


 下から見る青姉は眉尻を下げて憂いを帯びた表情をしていた。


「気にするな。それよりなにか他にして欲しいことないか?」


 俺の言葉を聞いて優しく微笑んみ髪を撫でてくれる青姉。なんかいつになく優しい。俺が風邪ひいてるからかな?

 もしかすると、青姉は優しいから、家に着いた時に自分が先にシャワーを浴びたせいで俺が風邪をひいたとか思って責任感じちゃってるのかも。

 下着が透けた青姉に欲情しそうだったから先に入るように勧めたという真実は俺の胸の奥にしまっておこう。


「今は、ごほっ、ごほっ。特にないかな」


 咳をしながら青姉の質問に答える。


「そうか。それじゃあ鈴が寝るまでここにいるから、なにかして欲しいこと思いついたら言えよ」


 ポンポンと俺の胸元を優しく叩き、青姉は母性に満ちた優しい目をして言う。


「ありがと、青姉」


 俺はもう一度感謝の言葉を口にして目を閉じ、眠りについた。


 ●●●


「お前ムカつくんだよ!」


 人通りの少ない河川敷でランドセルを背負った少年が同じくランドセルを背負った背の低い少年の胸を小突く。


「「そうだ、そうだ!」」


 小突いた方の少年の後ろで取り巻きの少年二人が野次を飛ばす。


「……」


 胸を小突かれた少年はなにも言わずただ俯いていた。

 見覚えのある、というよりも自分が実際に体験した記憶のある光景に、俺はこれが夢だと認識する。


「なんとか言えよ! このチビ!」

「「そうだ、そうだ!」」


 リーダー格の少年が背の低い少年、つまり小学生時代の俺の胸をさっきよりも強く押す。取り巻き達は飽きもせず同じように野次っている。

 強い力で小突かれた小学生の俺は少し後ずさった。


「……」


 それでもなにも言わない小さな俺。

 なんでなにも言わないのかって?

 この時の俺は毎日のようにこいつらから同じような仕打ちを受けていて、最も早く終わる方法がなにもしないことだと理解していたからだ。


「そういう態度がムカつくんだよ! 偽物の親しかいない捨て子の癖に!」

「「そうだ、そうだ! 偽物の親しかいない捨て子!」」


 バカの一つ覚えのように俺の胸を小突き続けるリーダー格の少年と偉そうに野次るだけの取り巻き達。

 俺は育ての親の母さんをバカにされたように感じ、彼らを冷めた目で睨み付けた。


「な、なんだよ! ほほ、本当のことだろ!」

「「そ、そうだ、そそ、そうだ!」」


 彼らは怯んだように声を震わせる。

 大人になった俺が見れば彼らがビビっているのは一目瞭然だが、小学生の俺は彼らという存在に一ミリも興味を持っていなかった為、彼らの変化に気づかない。


「ちょ、調子乗んなよ!」

「「そ、そうだ、そうだ!」」


 睨むだけでなにもしようとしない俺を見て、少年達は三人で小さな俺に襲いかかる。

 俺は一切抵抗することなくされるがまま少年達の攻撃を受けていた。

 髪の毛を引っ張られ、ランドセルを奪われ、中の教科書や筆箱を土の上にぶちまけられてしまう。

 さらに少年達は地面の教科書を踏みつけようと足を上げる。


「おい! お前らなにやってんだ!」


 その時、上の道路から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。

 髪の毛がボサボサになった小さな俺は声のした方へ目を向ける。

 そこには女子校生時代の青姉が立っていた。

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