授業22 お外怖い

「今週末の授業は外に行くぞ」


 ジーパンにパーカーといういつもの格好に戻った青姉が決定事項を伝えるように言う。


「外は駄目だよ」


 俺はすぐに拒絶した。


「なんでだよ?」


 青姉は不満そうに目付きを鋭くして俺を睨む。怖い。すごく怖い。

 だが外だけは受け入れられない。


「だって外怖いし」

「へぇー。そうなんだ」


 理由を聞いた青姉は感情のこもっていないような返事をする。

 そして――「今から外行くからとっとと準備しろ」

 と乱暴に告げた。


「えっ、俺、外が怖いって言ったんだよ? なのにどうして早まるの? 嫌だよ。絶対外には出ないから!」

「怖いからずっと外に出なくても良いと本気で思ってるのか?」


 ジト目で俺を睨む青姉。


「ぐっ、お、思ってません」

「なら早く準備してこい! わかったな!」


 ビシッとリビングの出口を指差し、鬼教官青姉は命令する。


「は、はい!」


 その迫力に圧倒され、俺は新兵のように敬礼してから自室へと走った。


 ●●●


 着替えを終えた俺は気を引き締める為に顔を洗いに一階の脱衣場兼洗面所に来ていた。

 顔を洗ってから少し後ろに下がる。

 鏡に全身が映るようにする為だ。

 鏡にはジーパンを履き上には黒のジャージを着たラフな格好の男(俺)が映っている。

 おしゃれかおしゃれじゃないかと聞かれれば間違いなくおしゃれじゃない。

 久々に外へ出る格好がこれでいいのだろうか?

 そんなことを考えていると、玄関で待つ青姉に呼ばれる。


「鈴。暗くなる前に行くぞ」

「わ、わかった」


 俺は慌てて玄関へ向かう……つもりだったのだが、廊下に出てから水を止めていなかったことを思い出して引き返す。


「なにかあったのか?」


 廊下に出たのに引き返した俺を見て理由が気になったのか、段差に座って靴を履いていた青姉が振り返る。


「水を止め忘れてただけだよ」


 俺は返事をしながら青姉の隣に座った。


「そっか」


 既に靴を履き終えた青姉は足を伸ばして俺が靴を履くのを待っている。

「ね、ねぇ青姉、やっぱりやめよう。そ、そうだ、明日! 明日にしよう! ね、お願い青姉!」

 青姉の白いスニーカーと同じブランドの黒いスニーカーを履き終えてから、俺は最後の抵抗のつもりで懇願する。

 すると青姉はゆっくりと立ち上がり俺の前に立ち、そして満面の笑みで――


「駄目に決まってるだろ?」


 と俺の願いを一蹴した。


「ほら立て」


 青姉は優しい笑顔のまま手を差し伸べてくれる。


「……」


 俺は無言でその手を取って立ち上がった。


「じゃあ行くぞ」


 握った俺の手を軽く引き、外に連れ出そうとする青姉。

 俺は無意識に踏ん張り、つい抵抗してしまう。


「行・く・ぞ!」


 青姉は手を引く力を強めて、語気も強めた。


「い、嫌だ!」


 今度は意識的に抵抗した。拒絶する本能を従わせるのはやっぱり難しかったのだ。

 だが俺より青姉の方が力が強いので、抵抗虚しくどんどんと玄関の扉へ近づいていく。


「や、やめてぇ」


 俺は自分の非力さを呪いながら必死に抵抗を続ける。


「やめない」


 しかしどれだけ頼んでも青姉は聞いてくれず、ついには扉を開けてしまった。


「ほら、なにも怖いことなんてないだろ?」


 青姉は外を指差し優しく告げる。

 その指の先を見て、俺は呟く。


「お外怖い」


 指の先には、どでかいハンマーを持った繋ぎ姿の女が立っていた。

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