顔面偏差値底辺の俺×元女子校

@ujindoku

第1話 

 「うーわキッツーーー!!」


 「それであたしの…にさ…で………!」


 「マジ?あいつ気持ち悪すぎでしょ」



 昼休みの教室に甲高い笑い声が響く。


 部屋の後方、窓際で固まっている女子グループが騒いでいる。


 男子の誰かが女子に告白でもしたのか。


 少し嫌なことを思い出しそうになったが、次の数学第一問の担当なので席を立っている俺は、ノートに書いてきた回答をチョークで黒板に写すことに集中する。



 「人の悪口を大声でいうんじゃねぇよ!」


 机を叩いたのかバンッ!と音がする。



 (おいっ…!やめとけってっ……!)



 教室で堂々と悪口を言う女子を咎める男子の声と、それを静止する声が聞こえる。


 まだ5月に入ったばかりである。


 学園に入学して早々こんな修羅場が起こることに驚いた。


 とはいえこの女子グループの素行の悪さは4月頭からからずっとであり、おそらく彼はしびれを切らしたのだろう。


 女子たちが垂れ流す様々な悪口を延々と聞くのは気分が悪いので全面的に男の方に同意であり、堂々と注意するのはなかなかできることではないと感心する。



 「いや、そいつが気持ち悪いんだから言われて当然じゃん? あたしら当たり前のこと言ってるだけなんだけど」



 グループリーダー的な女子の苛ついた口調が聞こえる。


 俺は黒板に数式を写すのを続ける。



 「それが当たり前じゃねぇっていってんだろ……言われたやつがどういう気持ちなるか考え…「あーーうるさい! あんたここの校則忘れたの? ねぇ?」



 注意した男子の返答はない。


 続きの言葉は飲み込んだのだろうか。


 俺は黒板に書いた式が右下がりになっているのに気づき、黒板消しを取る。


 クスクスとグループの女子たちが笑っているのが聞こえる。



 「ビビってんなら最初っからつっかかってくんなよ偽善者」



 女が流れるように吐き捨てた煽り文句に、俺は、この学校が“普通”ではないことを思い出した。



 「てめぇ! 調子に乗るのもいい加減にしろよ!!」


 「…あっそう……わかった」



 あまりの怒声に思わず数字を書く手を止めて振り返る。


 リーダーの女は真顔でポケットから電子形の生徒手帳をそっと取り出しているところだった。


 そして端末を操作すると、



 『てめぇ! 調子に乗るのもいい加減にしろよ!!』



 先程の言葉が再生された。


 やり取りを生徒手帳で録音していたらしい。


 渦中の男はこの一ヶ月でもわかるほど正義感が強く、大勢の前でも自分の意見をよく述べ、男子のまとめ役でもある田島だった。



 目の前で再生された自分の声に、言葉を失っているようだ。



 【田島健太さん。通報がありました。】



 続いて田島のポケットの中にある手帳端末からだろうか、音声が流れだした。


 俺もこの「通報」の現場は初めて見る。



 「は?おい……」



 田島が端末を確認するより早く、教室にブザー音が鳴り響く。



 【田島健太さん直ちに教室から退室してください】



 ブザーとともに教室にアナウンスが流れ、その言葉に田島は表情を凍りつかせる。



 「ばっかじゃないの? あんたらは生徒をやらせてもらってるの」



 「な、なんでだよ……たかがこれだけの事で……」



 すると教室に先生が二人入ってきた。


 一人はこのクラスの担任、もう一人は学年主任だっただろうか。



 「田島くん、すぐ教室から出ないとだめでしょ?」


 「大丈夫! また頑張れば戻ってこられるから!な!」



 唖然とした表情のまま田島は二人に連れて行かれた。



 この学校は女子のための学校だ。


 しかし元女子校ではあるが、現在は女子校ではない。


 要するに徹底して女子のためだけに作られた名目だけは共学の学校である。



 男子はあくまで女子生徒のために用意された学校の設備の一つに過ぎないため、各地からワケアリの男子が集められているという話だ。


 様々な権利が女子だけに適用されており、この(通報)システムも女子だけが持つ特権の1つ。


 手帳型端末によって証拠ともに通報された男子生徒は生徒会によってその行為が罰則に値するか審議され、女子に有害とみなされた場合は罰則ーー更生クラスとよばれる隔離部屋行きになるということらしい。


 それにしても通報があってから隔離行きが決定するのまでの時間があまりに短い思うが、審議とは一体なんなのか。



 「マジであいつ馬鹿すぎでしょ。」


 「紗理奈かっこいいーーー! 録音とか頭いーね!」



 男子はおろか女子の一部も目の前で起きた出来事が、あまりにも非現実的でなんともいえない表情になっている。


 通報に値する悪行の程度は、一般的に警察へ110通報される「犯罪」と比べてとても低いとは聞いていたがここまでだとは思わなかったのだろう。


 隔離部屋はとても過酷という噂があり田島を気の毒に思ったが、5時間目を知らせるチャイムで我に返った俺は急いで数学問題の続きを始めた。



 「でもあいつも馬鹿だよねー」


 「ほんとそれ! あんなブサイクかばって。しょーもな!」



 その発言に俺のチョークを滑らせる手が止まる。


 始まる授業のため席についたクラスの生徒がざわつく。



 「ブサイクもブサイク的に責任はあるよね。そもそもブサイクっていう」


 「まずキモいのが罪だし!」



 最初話していた悪口より大きな声で、内容がクラス全体に響き渡るように言葉を飛ばしだす。


 ブサイクという言葉に俺の体は反応し、冷や汗が滲み出す。


 背中が熱く痒くなるのを感じた。


 心臓が痛いくらいに鳴りだす。



 「ねー聞いてるー!? ブサ山お前のせいだよ!!」


 キャハハハハハハハハ



ーー俺の名前は篠山浩二。


 この日を境に通称、ブサ山になった。



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