シロカミボクっ娘が世界を救うそうです

加波

デアイ

 空は蒼く、ちぎった棉のような雲が散りばめられている。太陽は暖かく大地を照らし、森林の中に木漏れ日として射し込む。

 そんな昼寝でもしたくなるような天気の下では命の奪い合いが行われていた。


「くっそ! なんだって! こんな所に! ゴブリンが! いるんだ……よ!!」

「ここは安全な道ではなかったのですね! 次から気をつけましょう!」


 そこには苛立ちと困惑が混じった声で言葉を放ちながら、言葉の節目節目でしっかりと茶緑色の表皮を持つ小人――ゴブリンだ――を手に持つロングソードで力強く斬り伏せていく耳にかかる程度に切り揃えられた金髪の青年と、素早い動きで双剣を振るいゴブリンを斬りながら元気に青年に励ましの声をかける銀髪の少女がいた。


「ああ! そうだ、な! できればもう通りたくないけど……ラストォ!!」


 青年が最後のゴブリンを斬り伏せた。青年と少女は周囲を見回し、残党がいないことを確認すると剣についた血や油を振り払い鞘に収めた。

 双剣を鞘に収めたところで少女がポツリと呟いた。


「せっかくヒイロさんにご飯を頂いたのにこまたお腹が空いてしまいました……まったく、出てくるならもう少し遅く出てきてほしかったです……」

「はぁ?! あれだけ食べてもう腹減ってきたのかお前!」

「お前ではなくシロです! ボクは燃費が悪いと評判なんです!」

「いや威張りながら言うことじゃないだろ、誰に評判なんだよ……」

「それは……はて、誰だか忘れてしまいましたね」

「そうか……」


 ヒイロと呼ばれた青年が呆れた顔をしながらその場を離れてゴブリンから魔石を剥ぎ取っていく。

 ゴブリン等の魔物からは魔石が獲れる。魔石のある場所は心臓部であり、その魔物の能力が高ければ高いほど大きく純度の高い魔石が獲れると言われている。

 そんな子どもでも知っている事を思い返しながら魔石を獲っていると、同じく魔石を獲っていたシロが名前を呼んだ。


「あ、みてくださいヒイロさん。結構大きな魔石ですよ。……うん、色も悪くないです。高く売れますかね!」

「うん? ちょっと見せてくれないか。サンキュ……おお、これは確かに。いい魔石だなCランクはありそうだ」


 魔石を受け取り、そうシロに言ったヒイロはふと、こちらを見つめるシロを見た。

 腰ほどの長さまであるストレートの銀髪。色白で箱入り娘のような風貌をしたシロだが、先程の戦闘を思い出せばそれは見当違いだと気づく。シロが両腰に佩ているのはゴブリンを斬り伏せていた双剣である。その双剣は深い青色の鞘に鞘に比べて薄い色の青色の柄をしている。先程の戦闘の時に見た剣身はシロの髪のような、銀色をしていたことを思い出した。

 顔に目を戻すと始めに目がいくのは、その大きな青色の瞳だ。ヒイロが受け取った魔石はその目に似た青色をしていた。


「ほんとですか! いやぁよかったです。ヒイロさん赤字にならずにすみますね!」

「ん? いや待てこれはシロの魔石だろう?そのゴブリンの切創はシロの双剣によるもののはずだ」


 シロがほっとしたような表情で話す内容をヒイロが訂正した。魔石は基本的にその魔物を討伐した者の魔石となる。武器であれば魔物の傷や、魔術であれば魔物に残った魔素によって討伐者を判別する。


「えっ。だってヒイロさんボクにご飯くれたじゃないですか」


 だから魔石を渡す。それが当然だとまっすぐした瞳でシロはヒイロに言う。

 確かにヒイロはシロに食事を与えた。しかしそれとこれとは話が別だとヒイロは考えた。なにせ話のレベルが違うのだ。ヒイロの持っていた食事はランクDの魔石が一個あれば賄えるものなのだ。それをランクCで返されてはヒイロも目覚めが悪い。


 そうヒイロはシロに話した。すると。


「ん〜……ならヒイロさん! ボクの獲った魔石を全部渡すので、それで雇われてはくれませんか?」

「雇う?お前が俺を?」


 ヒイロはあまりに突拍子のない話に驚き、そして次に続く言葉を聞いた瞬間、自分の耳を疑った。


「実はボク。ヒイロさんに会う以前の記憶が無いんですよ」


 シロは真剣な面持ちでヒイロにそう言ったのだ。

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