第28話 山岳防衛
ダンとガフラーの戦いが最終局面で、精霊剣が最高の輝いた瞬間に、マカリアは逃げだし応援を呼びに行こうとしていた。
タンジはサクヤとマカリアを左右から挟み撃ちし、タンジが見失ったふりをして、マカリアを油断させ鼠の姿になったところをサクヤが網で捕らえた。
「ダン君、捕まえてきたわよ」
「ありがとう。さてと。叔父さんこの魔族の尋問って普通にやってもだめだよねえ。どうしよっか?」
『我に任せぬか?攻めすぎて自害されても困るであろう?まあ死んでも痛くも痒くもないわけだが』
「しかし情報は欲しいし・・・南がどうなってるのか知りたいな」
『まあ任せよ』
「わかったよ。叔父さんに任せる」
「さてと。じゃあ私たちは上がってくる魔族達をやっつけてくるけど?」
『お姉さん達に任せるよ。全部抑えきれなくても良いから。僕は此処でライカの修理と、この魔族の尋問の答えを聞いてからにするよ」
「いいわ。ダン君の好きにすると良い。だけどこれだけは言っとく。ダン君のお父さんは強い人よ。ダン君が今戦った魔族なんかよりも」
「ありがとう。父さんの心配はしてないよ。ルコイの村とかがどうなってるのか気になってきただけさ」
「大丈夫よ。マサさんが旨くやってくれるわ。私たちはかなーり、信頼してるもの」
「僕も父さんを信頼してる。うん。少し元気出てきたよ」
「じゃあ私たちは行ってくるね。サクヤ、行こ!」
「タンジ姉さんと一緒に戦うの久しぶりね」
「修業とは違うけど、沢山来たみたいだから頑張らないと。行くよ」
「はい!」
タンジとサクヤは結界に入り口付近まで飛び、結界外側に幻覚、落とし穴、土砂崩れ、水攻め等の仕掛けを、歴史学の博士が冒険する映画のごとく仕掛けた。
上がってくる魔族は大群で来たものの仕掛けられた罠に相当数削られた。
「おお、おのれえ、忌々しい人間どもめぇ。キエエエイーーー!!」
雄叫びを上げ怒り狂っているのは西に応援部隊として軍を率いている中隊長ブライド。
千人を越える数で登って、ダンを確実に捕まえ殺すつもりで攻め上ってきたが、既に三分の二程が罠に嵌められ数を減らしていた。
「木を切り倒せ。蔦を焼き払え。地面を土魔法で持ち上げよ」
相当頭にきたブライドは山の形を変えるつもりである。
「おのれええ。結界ごと吹き飛ばしてくれる。前衛は下がれ。魔法増幅用意。かかれー!」
合図と同時に一斉に山に絨毯爆撃以上の隙間無い魔法攻撃で木々を粉砕、罠諸共壊していった。
「よーし!これで安心して登れるわい」
魔族の軍勢凡そ千人を三分の一に減らされ、やっとその忌々しい罠ともおさらば。これから目的の人間の子供を、命令とは言え子供をこの軍勢で襲う事に少し抵抗感はあった。
しかし、今では使命感より六百以上の部下をやられメンツは丸つぶれ、このままでは軍にも帰れなくなりそうであった。だがやっと、子供を捕まえて軍に帰れる。ガルム、ゴズマ様の元へ帰れる思いが強くなった。そう思い急いで山を登りたかった。
しかし、山の上では更に苦難が待ち受けていた。
「あの人達に精霊術の根源を教えてあげないとね。ただの悪戯か罠だと思われてるみたいだから」
「まさか山の上から水が流れて、濁流になるなんて恐ろしいこと、良く思いつくねタンジ姉さんも」
「良く言うよ。水攻めはサクヤの十八番でしょ。山の上からはあんまりやらないでしょうけど」
「そろそろ行きますわよ。お姉様。お客様お集まりのようですし」
「おほほ。サクヤさんにお任せ」
「では遠慮無く。それ!」
”スポン”
ビール瓶の栓を抜くように気持ち甲高い音と共に山肌から勢いよく水が噴き出した。魔族が自ら魔法攻撃で削った山肌を、滑り落ちるように段々濁流と化し、茶色い水に変わり粘る土に変化しながら、諸々と何もかもを流し出した。
タンジたちは暫くすることは無いとその場を立ち去った。
鼠と化したマカリアをタンジは籠に入れ、アベルナーガに引き渡し、魔族の計画の情報を少しでも掴もうと、アベルの尋問に託した。
『さあ、これから少し怖い時間を過ごして貰うことになるぞ。死なないでくれよ』
「・・・・ひえええエーーーッ・・・・」
アベルは魔族の鼠の赤い眼を睨みつけた。鼠は更に震え上がった。
カチカチと自然に音が鳴った。止めようとして止まらない身体の震え。奥歯から鳴る噛み合わない震え、振動に脳が揺らされ、視界までが震えだした。
こうなると声を出そうとしても言葉にならず、ただ叫ぶのみ。しかも今は鼠形態のまま。マカリアは後悔した。逃げるときに木の根元を隠れながら移動しようとして、その根元ごと土から石に固められ、息苦しくなって逃げだそうとして魔法を使ってしまった。
固められた石を爆破し、爆破に紛れて逃げようとして、もう既にそこは木の籠の中に入っていた。
その籠に捕まって籠を爆破しようとして魔法が使えなくなっていることに驚いた。
そのまま今アベルの術の中に嵌まろうとしている。アベルに見つめられ、身動き取れず。魔法も呪文を唱えることが出来ない。発動もしない。段々と身体と思考が固まって、抵抗する気力が無くなってきた。
『さあ我をもっと深いところへ連れて行け』
コクリと頷き、マカリアは山を下り元来た道を戻りガフラー、コンコールと三人北の国へ戻っていった。
ムーラシアに戻り軍隊の隊長ブライド、ワグーツ、キャットルらと国王に謁見。命令を大臣から言い渡されている。
「子供を捕まえてこい。殺しても構わん」
「その後西の国責めに合流」
「それが済めば南に下り本体と合流」
『成るほどのう。此奴あまり詳しく聞かされて居らぬようだが、最後に言った南に合流は、先に南を攻め、西が終わったら南に来いと言うことか?』
アベルは少し黙って鼠を見つめた。
『サクヤ、タンジ。お前達はどちらかスザクに連絡を。我は此処から動けぬのでな、ダンたちを一旦ルコイに戻そうと思う。そこから南に行くまでの間、東から魔族が攻めてくるようだ。八人衆の半分はそこで待機が良かろう』
「はい。サクヤはクニに連絡を。ダン君と一緒にルコイに行って。私は今から師匠の所へ行ってきます」
『うむ。それで良かろう。残りの魔族は我に任せろ。登ってくる奴は、真面目な魔族になって貰うぞ』
サクヤは木の葉っぱを手に挟みふうっと息を吹きかけた。木の葉がチョウチョのように羽ばたき、サクヤの肩に止まった。暫くしてまた羽ばたき、風に乗って山を下りていった。
「クニからの連絡は待たなくても、ルコイに行きますとだけ伝えました。ウサギと行動してると思います」
「では私も師匠に伝えに行ってきます。その後は師匠の指示で動きます」
『皆気をつけて行動するように。魔族は甘い奴ばかりでは無いぞ。それと我の息子を見つけたら、帰ってくるように言っておいてくれぬか。説教は帰ってからたっぷりしてやると』
「了解しました。アベル様。八人衆に伝えます」
『宜しく頼むぞ。言うことを聞かぬ場合はスザクに任せる。懲らしめてやっておくれ。それでもだめなら・・・まあ、な。宜しく頼む』
「アベル様。ダン君共々八人衆。必ずや息子殿を奪還いたします。お任せください」
「では。行って参ります」
『ダンも気をつけて行くのだぞ。お前は強くなったが、まだまだ覚えなければならぬ事が山ほどある。過信は禁物だぞ!よいな」
「わかったよ叔父さん。ライカと二人で、後お姉さん達とスザクの叔父さん達。強い味方が沢山いるから。必ず連れて帰るよ。息子さん」
『うむ。宜しくな』
ダンもサクヤ、タンジと南に下っていった。
『お主はどうしたものかのう。殺してしまう前に色々働いて貰うかの。さすれば生き残れるかも知れんぞ』
赤い眼を朦朧とさせ、何処を彷徨うでも無くぼーっと空中を見つめているマカリア。精神が崩壊し、アベルによって再構築中である。
『これからスザクの腕の見せ所。我は此処から見物させて貰うぞ』
マカリアの籠を爪でゆらゆら揺らしながら、大黒竜アベルナーガは瞑想に入っていった。
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