第17話 古龍と古代魔法②

 ダンと大黒竜アベルナーガの修業はアベルナーガの催眠伝授法、つまり起きていても、寝ていてもイメージを送り仮想の現実を見せ、敵を倒したり魔法に変化をもたらした。


 ダンの内にいるライカも少しずつ自分の能力を記憶の中から呼び起こしつつあった。


 ライカの能力も古龍が使う古代魔法に似た使い方。次元を伸ばしたり縮めたり、時間を早めたり遅くしたり。


『そうだ。前にもこんな感じで使ったことが・・・何となく・・・』


 まだ覚醒しきっていない記憶に少しの苛立ちを感じながらも、ダンと交互に魔法吸収励んだ。


『ダンよ。お前の成長にはスザクが言うお前の生まれとは別の何かが有るのではないか?』


「どうして?」


「いや何、成長と吸収があまりに早いものでな。経験したこともないのに、あっさりと出来るとか。あり得んスピードで会得しているからな。我の想像を超えておる。まあ、嬉しい誤算と言う奴だが』


「それはね、スザクの叔父さんから聞いているかわからないけど、僕の中にはもう一人別の子が居るんだ。ライカって言うんだけど」


『何と!・・・少しそのままで待っておれ』


 アベルナーガはダンの身体を上から下まで見通すように眼を動かし何かを見つけたように、大きな目を更に大きく広げた。


『これは珍しい。一人の身体に二人が共存して居るのか?』


「ライカ。話して良いよ」


「初めまして。ライカと言います。この名前は精霊様から頂きました」


『其方の本当の名は何と申すのだ』


「それが記憶がまだ戻らないんで、何をしていたのか、どこから来たのか、まださっぱり」


『ほほう。珍しい。一寸こっちへ、近くに来て見せてみよ。うーん。・・・これか?いや、こっちか?・・・』


「??どうしたんです?何をしてるんです?」


『記憶が止まって居るところを直しておるのだよ。これは相当な強さで殴られたか打ったかじゃな。死んでおるところを助けられたような・・・』


「スザクさんと精霊様に聞いた話だと、ダンがこの世界に来るときにユグドラシルと言う木を通って来たそうです。その時然僕もそこを通ってきたそうです」


『それでこうなったと?』


「みたいです。記憶にはないのですが、うっすらと思いだすのが此処にこうなったのが、白く光る道を僕は通ってきた気がしたと精霊様にそう言ったんです。そしたら精霊様がエルフの郷へ行くと、調べてくると言われて。その後のことはまだ聞いていませんが」


『なるほどのう。・・・我が見た限り何か封印されているような。其方の記憶の中には乗り物を作っていたぞ。怪物と戦っても居たな。暫くこれを続けてみんか?心配せんでも記憶の改変などはせんからな。まあ言うなれば治療じゃな。スザクもこれを出来たはず。しなかったのには何か理由があるのだろう』


「記憶を取り戻せるなら、宜しくお願いします」


『前のようには行くか保証はない。が断片でも呼び起こせたら、繋がっていくじゃろう?あまり負荷を掛けすぎても逆効果だが、まあ大丈夫。任せておけ』


「それでも構いません。少しでも記憶が戻れば嬉しいです」


『良し!ダンの修業の合間は治療時間に充てるとするか』





 ダンの修業とライカの治療兼能力開花を続け、一ヶ月ほどが経とうとしていた。


『ダン』


「どうしたの?ライカ」


『思いだしたことがあるんだ』


「どんなことを?」


『僕は大きな星で物を作っていたみたいなんだ』


「凄いよ。今までより進んだって事だよね。具体的に何を作ってたかわかるの?」


『まだ詳しくは説明できるほどじゃないんだけど、凄い特殊な物を”開発していた”みたいなんだ』


「へ~。特別な物を作る人だったんだね」


『かもだよ。そうだった”かも”。でも何となくそんな気がする。君に作り方を教えた盾だって、開発していたことの断片を思いだしたみたいだし』


「そうなんだ。あれはライカの魔法かと思ってたけど違うんだね」


『魔法じゃないよ。科学というこの世の理の一部なんだけど、魔法科学みたいなもんかな。物理的には反則なんだけどね』


「難しいことはわかんないけど、兎に角一歩前進だね」


『そうだね。アベルさんのおかげだよ。感謝しないとね』


「僕も。古代魔法で身体が進化したみたいだし」


『進化は言い過ぎかも。だけど相当強くなったね。今なら魔族の強いのでも簡単にはやられないよ』


「まだ叔父さんには一人で戦ってはだめって止められてるから。でも、自分でも身体は強くなったって思うよ」


『あと、不思議な力も教わったね』


「これ?」


 ダンが木の枝に手をかざすと枝から根が生えてきた。それからもう少し見つめていると、枝が太い幹になり枝が生えて葉が茂り花が咲いた。


『いつ見ても凄いよねえ。何なんだろ。無から有を生むと言うか・・・物理完全無視だな』


「ライカのも凄いよ。最近は机や椅子まで浮いてるじゃん」


『あれはちゃんと反重力作用の応用なんだけどね。ダンの古代魔法と一寸違うんだけど』


「反重力?わかんないけど、ライカは前は凄い勉強してたんだね」


『まあそうみたいだね。アベルさんが物作って戦ってたって行ってたから、もしかしたら戦う道具を作っていたのかも知れない』


「じゃあ、あのさあのさ、何か作ってよ」


 ダンのわくわくする気持ちが直に伝わって、ライカは考えながら、


『身体が一つしかないからアイデアは考えておくけど作るのは協力してよ』


「それはそうだね。わかった。何かさあ楽しみだね。何が出来るのかさ」


『そんなに期待されても困るんだけど』


 ダンの期待の大きさに気を引き締めるライカだった。




 ダンとライカが修行に入って暫くした頃、エルフの郷へ向かったスザクとアニカは順調に旅をし、アニカもスザクに魔法の手ほどきを受けていた。


「アニカは魔力の底上げと極大魔法を、エルフに教えを請うと良い。その後で私の仙人法を習得すると良い。が、一つ言っとかないといけないことがある」


「え、な、何か怖いことですか?」


「んまあ、怖いと言えば怖いかな」


「いや、んん、私はダンみたいなビビり君じゃ有りませんから、どうぞお願いします。どんとこい!」


「そうか。じゃあ。私の指導を受けると強くなる。強くなるが、不死になるが良いかな?」


「不死って、死なないって事ですか?」


「そうだ。まあ寿命がないわけではないが」


「何年くらい?」


「わからん。死んでみないと。ただ、普通の人よりはずいぶんと長生きなのは確かだ」


「よくわからないけど、それで私はどうしたら?」


「なーに。長生きしても良いか、一人になる覚悟はあるかという事よ。長く生きると言うことは、家族、友達、皆死んでゆくのを見送ると言うこと。まあアニカにはダンがいるから一人ではないがな」


「ダンも長生きなんですか?」


「ダンは長生きと言うより、次元を飛び越えて生きる新たな人間になる。時間も越える。だから同じ時間は生きられないかも知れない。まだ先のことは確定はしていないが」


「少し考えさせてください」


「良いとも。時間はたっぷりある。と言っても、戦いの時にはアニカの力が必要なのも確かだが・・・」


「・・・私の力が必要?どっちみち嫌とは言えない、か・・・」


「すまんな。世界のためだ。まあ長生きな連中は他にも居るから、その内に紹介もしよう」


「もー、しょうがないか。ダンやマサ叔父様やミサ叔母様にも良くして貰ったし、恩返しのつもりで」


 ”ダンの面倒も私が見てあげないと”アニカは心の中で呟いた。


「マサとミサも長生きするぞ」


 ちょっと冷や汗が流れていた。


「ほんとですか!やったー。楽しくなるじゃないですか」


「おいおい、大丈夫か?まだこれから修業だぞ?」


 こっそり汗を拭いたアニカだった。


 色んな葛藤を抱え、アニカの修業がエルフの郷でもうすぐ始まる。















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