花の秘めごと_隠れ家と少年
霧の森から少し離れたところにその小屋はある。
壁には蔦が茂っていてにはも荒れ放題。
一見すれば廃屋だけれど、扉を開ければ中は小綺麗に整えられている。
………掃除好きの月に言わせれば、まだ物足りないだろうけれど。
でも度々訪れている花は全然気にしない。ここに住み着いている少年だって文句は言えど出て行くぞぶりは見せないので。
花は木製の扉を三回叩く。
独特な抑揚をつけて三回。
しばらくした後、ぎいいいと音を立てて扉が開かれた。
「また来たのか。しつこい奴だな」
顔を覗かせたのは花とそう年の変わらぬ少年。
身長も月と同じくらい。まだ足りないと不満顔なところも一緒。
金髪に碧眼、物語から出て来た王子様みたいな人。
ただし、口も態度もすごく悪い。
普段は無口な彼女もこの時ばかりは言い返す。
「生存確認です」
彼に影響されたのか、彼女も何故だか素直になれない。
彼女は勝手知ったる様子で部屋の奥に進むと、鍋を火にかけコトコトと薬を煮込み始めた。
あっという間に、苦い匂いが部屋に広がる。
少年はゲっと言う顔をした。
彼女の作る薬の効果は体感済み。
けれど、進んで飲みたいわけじゃない。
むしろ、苦いから嫌だ。
「…別に、毒じゃないですよ」
少年のしかめた顔に気付いて、花は静かにそう言った。
「うるさい。わかってる」
ふいっと彼は顔を背けた。
花は目をパチクリ。それから少しだけ微笑んだ。
だって初めて会った時はすごかった。
全身大怪我のくせに大暴れ。
花が無理やり口に薬湯を突っ込んだら大人しくなったけど。
その時のことは、いまだに思い出したように文句を言われる。
毒味がなかったとか、俺に薬缶を突っ込んだのはお前が初めてだとかそんなところ。
その言葉とか、いい加減なずたぼろ具合だったけれど質のいい服とか。
いいところの坊ちゃんだろうと察しがついたけれど花は何も言わなかった。
花だって言ってないことはたくさんある。
その一つに、お互い名乗ってはいなかった。
「おい、白。こっちに来い」
だから少年は花を白と呼んでいる。
髪も肌も真っ白だから。
唯一違うのは少年と同じ碧の瞳。
「無理。手が離せないから。碧がくれば?」
だから花も、その瞳にちなんで少年をそう呼んでいる。
「俺を呼びつけるとは、いい度胸だな」
文句は言う。言うけど、素直に碧は傍に寄った。
そのままごろりと座っていた花の膝に頭をのせる。
「碧、」
「うるさい。わざわざこんな貧相な膝を使ってやってるんだ。むしろありがたく思え」
何様だ、と流石に花は思った。
だから、さっさと碧の頭を膝から落としてやることにした。
ごろり、と少年が頭の向きを変える。
金髪がハラハラと顔にかかり、表情を隠してしまった。
「………お前は、花の匂いがするんだな…」
その声は少し寂しげ。
花は、今日だけは許してあげることにした。
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